Execute.24:Perfume of the Death./男たちの挽歌⑥
「畳んじまえ!!」
先頭に立っていた男が殴りかかってくる。戒斗はそれをフッと避けて顎先に掌底を叩き込み、そして振り向きざまに今まで自分の座っていた椅子を雑に手に取った。
「おらぁっ!!」
両手で足を握ったそれを思い切り振るい、掌底を喰らって昏倒した男の側頭部に叩き込む。ボロい木製の椅子が衝撃でバラバラになるとともに、男の身体も横に吹っ飛んでいった。頭から壁を突き破って突き刺さる。
「椅子殺法、ジャッキーみたいだろ?」
折れた椅子の椅子を両手で鉈のように握り締めながら、戒斗は小さく笑って迎撃の構えを取る。
また、別の男たちが飛びかかってきた。今度は二人だ。両方とも素手で、片方は肩にサスペンダーを掛けた長身、もう片方は何故かアロハシャツなんか着ていた。
殴りかかってくるソイツらの拳をひょいひょいっと軽々避け、一瞬飛び退くと戒斗はそのままの勢いで目の前のテーブルに飛び乗る。
飛び乗って、左の軽いローキックを長身のサスペンダーの方に見舞った。続けて脚を入れ替えるように、間髪入れず右脚でも顔面に喰らわせる。香港の礼に倣うのか、何故だかカンフーっぽい動きだった。確実に戒斗は遊んでいた。
戒斗の両脚に襲い掛かられて怯んだサスペンダーの男へ、戒斗は左手に握り締めていた椅子の脚を叩き降ろした。椅子の脚が折れて砕けると共に、男の左肩もまた嫌な音を立てて砕ける。悲鳴とともにサスペンダーの男が床に転がった。
「野郎!」
仲間をやられたことに激昂し、もう一人のアロハシャツの方がテーブルの上にある戒斗の足首を掴もうと手を伸ばしてきた。
「よっと」
しかし、それを戒斗はひょいとその場で飛ぶことで軽々と回避。寧ろ着地しながら足の靴底で男の手を踏みつけて釘付けにした。バキリ、と手や指の骨が折れる感触がする。
そのまま戒斗は男の手ごとテーブルを蹴り、飛び上がればアロハシャツの側頭部へと強烈な回し蹴りを喰らわせる。頭蓋骨を確実に破砕されながら男は吹っ飛んで、遠くのテーブルを真っ二つに叩き割りながら床に転がった。
他の連中に背中を向けるようにして、戒斗が再び床に足を着き着地する。そして振り向きざまにもう一本の椅子の脚を投げて、向かってきていたナイフ持ちの一人の右腕に喰らわせてやる。男の手からナイフが滑り落ちる。
「ふっ――――!」
すぐさま戒斗は一気に距離を詰め、ナイフを落とした男の脚をまずは払う。バタンと男が仰向けに床に倒れれば、しゃがみ込んで鳩尾に左拳でキツい一撃を一発。嗚咽とともに男が気を失ったのを見て、戒斗は床に落ちていたナイフに手を伸ばした。
膝立ちのままナイフを手繰り寄せれば、左手の中でクルリと器用に回転。指先でブレードの側面を挟むようにして保持すれば、それをもう一人のナイフ持ちへと投げつけた。
彼の投げたそれは、ナイフを構えて戒斗に突撃を敢行していた男の右手首の少し上ぐらいに突き刺さる。丁度腕にある二本の骨の間を縫うようにしてグサリと腕の甲から裏側に突き抜けたナイフを見て、男は痛みと恐慌で我を忘れた。
間髪入れずに踏み込んだ戒斗は、その男へと一気に距離を詰め。飛び蹴り気味に男の胸を真っ正面から蹴り飛ばしてやると、店の外まで吹き飛ばした。
「ふ、ふざけやがって!」
と、事態が急変したのはその時だった。最後に残った一人――角刈りの男はやられた仲間の姿を見て戦慄すると、怯えた顔で怒鳴りながら背中の後ろに手を伸ばした。バッと戒斗の方に突き出された男の右手が握り締めていたのは、小振りなリヴォルヴァー拳銃の銃把だった。
ブラジル・トーラス社製の五連発リヴォルヴァー、モデル85。.38スペシャル弾を撃ち放つ短い銃身が睨めば、戒斗は一瞬だけ動きを止める。
「おいおい、反則だろ? 喧嘩はフェアにいこうぜ、なあ?」
「うるせえ! 何がフェアだこの野郎……! 何モンだ、本土のサツか!? 潜入捜査官か!?」
「残念、はーずーれ。大体、潜入捜査官ならもうちょい上手くやるさ」
だが、戒斗は決して臆したワケじゃなかった。寧ろ、降参の余地を与えてやっただけのことだ。
――――拳銃を持ち出してきたならば、話は別だ。死なない程度に酷い目に遭わせてやる。
「死ねーっ!!」
男が拳銃を発砲するより早く、戒斗は動いていた。
壊れたテーブルから転がってきたのだろう、偶然近くに転がっていたコショウの小瓶を掴み取れば、それを男の顔面目掛けて投げつける。小瓶が鼻先に激突すれば男は怯んで拳銃を手から滑らせ、そして蓋が外れてコショウが宙に舞えば戦うどころでなく、眼からは涙を流し口や鼻からはくしゃみの嵐で酷い顔になる。ちょっとした催涙グレネード代わりだ。
男がそんな風になっている隙に戒斗は一気に角刈りの男の懐へと飛び込んで、その腹に思い切り蹴りを喰らわせる。吹っ飛んだ男がテーブルを叩き割って仰向けに倒れたのを見れば、足元に転がっていたトーラス・モデル85を拾い上げた。
「はい、チェック・メイト」
と、倒れた男のすぐ傍まで近寄れば、右手に銃把を握り締めたモデル85を突き付けた。カチリ、と親指で撃鉄を起こし、シリンダーが五分の一回転をしたのを見ると、角刈りの男は「ヒッ」と容姿と不釣り合いな情けない声を漏らす。
「アンタ、もしかしなくても素人だろ? あんだけ余裕あったなら、ハンマーぐらい起こしておけよ」
角刈りの男に知識が無かったのか、撃鉄を起こすシングル・アクションでなく、直接引鉄を引くダブル・アクションで撃とうとしたのが男の敗因だった。撃鉄を起こした方が引鉄の引きしろも短く、そして少ない力で正確に撃てることは、少し聞きかじった程度の半人前シューターでも常識だ。
「こ、殺さないで……!」
「殺しゃしないよ、面倒くさい。それよりお仲間連れてさっさと出て行きな、いい加減アンタらの相手にも飽きてきたんだ」
戒斗が溜息と共に拳銃を引き、そして撃鉄を安全位置まで戻すと。すると角刈りの男は慌てて戒斗から飛び退き、意識の戻った仲間とともに他の気を失った奴らを引きずって、蜘蛛の子を散らすように店から出て行った。
「おい」
逃げていく角刈りの男を呼び止めて、再びモデル85を突き付けてやる。すると角刈りは「ヒッ」と心底怯えた声を出すものだから、戒斗はおかしくなってまた小さく笑った。
「忘れ物だ、持ってけよ」
そして、くるりと器用に向きを裏返した拳銃を左手に持ち替えさせ、ポイッと男に向けて投げつけた。男はそれを受け取り仕舞うと、今度こそ店から逃げていった。
「ヘッ、やっぱ香港と来たらこうでなくちゃな」




