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Execute.18:マスカレード/仮面の下の涙を拭え

 その日から、戦部戒斗は表向きの顔を黒沢鉄男へと変え、そして再び後ろ暗い裏稼業の深みへと敢えて自らその身を投げ込んでいった。

 フリーランスの殺し屋として、やれることは何でもやった。殺しに狙撃、要人警護に機密文書の奪取、そして得意とする内部への潜入と密偵……。およそ殺し屋がすることとは思えないほどの高レベルな仕事も、しかし戒斗は難なくこなしてみせた。嘗て伝説と呼ばれた男の実力は、伊達ではなかった。

 時には昔懐かしいアメリカ西海岸で、伝説に名を残す凄腕の殺し屋たちと共演することもあった。ハリー・ムラサメにクララ・ムラサメ。あの二人のことは今でも覚えている。尤も、クララに初見で自分がA-9200であることを見抜かれてしまった時は、流石に度肝を抜かれたが……。

 途中で冴子の紹介でアメリカに渡ってきた東城とかいう十代半ばぐらいの若造を鍛え上げたりもしつつ、少しの間だったがアメリカで過ごした日々は楽しいものだった。クララの方は行方知れずだが、ハリー・ムラサメに関しては今では故郷の日本に戻ってフリーランスの殺し屋をやっているという。途中で奴と引き合わせてやった、戒斗の昔馴染みのコンピュータ関連のプロフェッショナル、ミリィ・レイスのコードネームを持つ少女も一緒にビジネスパートナーとして日本に帰ったと前に冴子から聞いた。もし機会があれば、また逢いたいものだと戒斗は思う。

 だが、肝心の浅倉と暁斗の行方は未だに分からないままだった。アメリカに飛んだのも奴らが西海岸に渡ったという情報を得たからというのが大きな理由だが、結局ハリーやクララの助けを得ても尚、奴らを捉えることは出来なかった。

 追っても追っても追いつけない相手を追い続ける日々の中、いつの間にか戒斗の精神は再び疲弊し切っていて。アメリカからまた日本に戻ってきたある日、遂に戒斗はエマに弱音を吐き出したのを覚えている。

「……疲れたよ、エマ。俺はもう疲れちまったよ。アイツの仮面を被り続けるのに、黒沢鉄男の名を借り続けるのにさ……」

 そんな弱音を吐く彼を、彼女は黙って抱き締めてくれた。そっと頭を撫でながら、奮い立たせるでもなく、責めるでもなく。ただ一言「無理しなくても良いんだよ」と……。

「僕は、君の傍に居るって決めたんだ。もし君が、此処で諦める選択肢を取っても、僕はそれでも君に着いて行く。それが君の選んだ答えなら、僕はそれでいいと思うな」

 聞こえ方次第では、諦めろと言っているようにも聞こえてしまうような言葉だった。しかしエマは、これで彼が折れるような男じゃないと知っていたから。だからこそ、敢えてこんな言葉を投げ掛けていた。勿論、仮に折れてしまったとしても構わなかった。放った言葉自体に、嘘はなかった……。

「……こんな俺の傍に、君は居てくれるのか?」

「うん、僕はいつまでだって此処にいる」

「エマ、君は……そこにいるのか?」

「心配しないで、僕はずっとここにいる。何があっても、僕だけは君の傍に居るから……」

 結果的に、その言葉は彼を再び奮い立たせ、再起させる切っ掛けとなった。

 一ヶ月の沈黙の後、黒沢鉄男の仮面を被った戒斗は再び活動を再開する。仮面の下の涙を拭いながら、ただひたすらに己と彼女の復讐を果たさんが為に、男は再び立ち上がったのだ。





(『孤独の復讐者』完)

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