Execute.15:REASON/復讐するは我にあり
――――戦部戒斗の記憶に深く刻まれた最も古い光景。それは、燃え盛る火の海だった。
嘗て、彼にも家族というモノが存在していた時期があった。幼き頃、父と母、そして弟と妹。両親こそ謎多き二人だったが、しかし人並み以上に幸せな家庭だった。幸福で、愛に満ち溢れていた家庭が、確かに過去には存在していた。
しかし、その全てを一度に奪われた。米国へ向かおうとしていた最中に起きた、飛行機の墜落事故。戒斗は奇跡的にただ独りその事故を生き延びるが、しかし自分以外の家族全員が永遠に喪われてしまった瞬間でもあった。その時の記憶が、燃え盛る火の海の中に佇む自分自身、というワケだ。
不幸な事故として片付けられたその墜落事故は、しかしある男に仕組まれたモノだった。嘗て政府の秘密諜報機関・セキュリティ・インテリジェンス・エージェンシー――S.I.Aのエージェントだった父・崇矢の因縁だった男の手によって意図的に引き起こされた撃墜事件だった。
「浅倉……浅倉悟志」
その名は、今でも忘れてはいない。己から全てを奪い去った男の名を、例え葬り去ったとしても、きっと戒斗は生涯忘れることはないだろう。
……話を戻そう。
そうして天涯孤独の身の上となった戒斗だったが、しかし幸運なことに親代わりとなる女が現れた。リサ・レインフィールドと名乗ったアメリカ人の女は天涯孤独の戒斗を引き取り、そして超一流の戦士に彼を育て上げた。母親のようで、姉のようで。それでいて厳しい師だった彼女と過ごした時間は、戒斗にとっては実の家族と過ごしていた時間よりも色濃い時間だった。
やがて、彼女は戒斗を己が組織に引き入れた。嘗て父が所属していたS.I.Aを前身とする政府の秘密諜報組織・内閣先述諜報ユニット"C.T.I.U"。そこで戒斗は中でも最精鋭のエージェント・コードA-9として戦い続けた。師たるリサ・レインフィールドと共に。
しかし、浅倉は再び彼の前に姿を現した。死んだはずの弟、戦部暁斗を引き連れて。
それからは、あまりに凄惨な戦いの日々だった。血で血を洗うとは正にこのことを言うのだろう。仲間も、殆ど無関係だった友人も、そして師と、最愛の女ですらも。その悉くが浅倉と暁斗の手によって殺された。
ウェズリー・"ウェズ"・クロウフォード、貝塚凛子、橘のおやっさん、最上先生、ラッセル・ロイに伏見彩佳、片桐優衣にリサ・レインフィールド。そして……長月遥。
「俺は、忘れない。お前たちを、決して忘れたりはしない……!」
他にも、多くの人間が散っていった。彼が戦部戒斗であったことが殆ど記憶から忘れ去られるほどに、多くの人間が死んでいった。愛していたはずの彼女でさえ、遥でさえもが、戒斗の目の前で殺された。……実の弟、暁斗の手によって。
やがて、C.T.I.Uそのものが熾烈な戦いの末に壊滅状態へと陥った。既に瀕死だった統合作戦本部司令・貝塚凛子が僅かなC.T.I.U残存戦力に向け最期に発動した起死回生の一手、桜花零号作戦ですらも不発に終わり、そして僅かに生き残った戒斗を初めとする面々は散り散りになっていった。失意のままに、ただ己の身を隠すことだけしか出来ないままに……。
それでも、戒斗は一人きりで戦い続けた。ただひとり、誰の助けも得られないままに、独り戦い続けた。
標的の名は"クリムゾン・クロウ"。世界紛争の影で暗躍する巨大な犯罪組織。この数年間の戒斗の執念と死闘が実を結び、結果としてこの組織は彼単独の手によって壊滅した。既にクリムゾン・クロウという史上最悪の犯罪組織は、もうこの世に存在しない。
だが、肝心の二人は未だに取り逃がしたままだった。浅倉悟志と戦部暁斗。生き残ったクリムゾン・クロウの腕利きを数人引き抜き、未だにフリーランスで世界を駆け回っているということまでしか現状、掴めていない。
「……浅倉、そして暁斗。お前たち二人は、必ず俺が殺す。俺がやらなきゃいけないんだ。必ず、この手で……!」
戦部戒斗の復讐も、そして戦いも、未だ終わりを迎えてはいない。この二人をこの世界から抹殺した時、その時に初めて、己は死ぬことを赦されるのだと戒斗は信じていた。その先にある場所へと、辿り着く為に。その為に、男は今日も孤独な戦いに身を投じるのだ。




