Execute.135:STRIKE ENFORCER./散華の残香④
それから、ソフィアとは色んな話をした。今までのこと、今のこと。そして、これからのことを。彼女の話を戒斗は、そして彼の傍でぎゅっと手を握るエマと、壁にもたれて腕を組むクララも。言葉一つ発さぬまま、ただ車椅子に座るだけのアールグレイに寄り添うソフィアの言葉に、ただただ耳を傾けていた。
「ですから、今はグレイのお世話は私が主にしてるんです。他のヒトには、あんまり任せられませんし……。
それに私、これでも昔は看護婦さんだったんですよ? 白衣の天使さんだったんです。といっても、今じゃこんなのですけれどね」
自嘲するみたいに言って、ソフィアは焦げ茶のジャケットに包まれた小振りな肩を揺らし、小さくそれを竦めてみせる。
「……今のなんでも屋は、君が?」
と、そうしながらも久方振りに笑顔を見せたソフィアに、戒斗が訊くと。ソフィアは「はい」とやはり車椅子に寄り添いながら肯定し、
「グレイの代わりに、今は私が。この場所は、なんでも屋はグレイの帰る場所ですから。だから、私が守らないとって。そう思ったんです、何となく」
「……なんでも屋アールグレイ、か」
そんな風な、車椅子のアールグレイに後ろから抱きつくソフィアが言った言葉に反応したのは。意外にも、壁際にもたれて腕を組んでいたクララだった。
「噂には聞いたことがあるよ、良いウデだったって。僕は西海岸だったから、直接彼と何かする機会は無かったけれどね。でも、彼の噂はこっちにまで届いてた」
「えーと……クララさん、だったっけ。もしかして、貴女も私たちと同じ」
「クララで良いよ」と、クララ。「クララ・ムラサメ。ひけらかすようで悪いけれど、聞き覚えあるんじゃないかな?」
敢えてクララがそういう言い方をしたのは、同じ世界の人間なら当然、この名前を出しただけで分かるはずだと思っていたからだ。何せクララ・ムラサメは西海岸中どころか全米、いや全世界の殺し屋界隈にその名を轟かせたほどの伝説的な女。同じ稼業に身をやつしているのならば、知っていて当然だとも言える。クララだけじゃない、それは戒斗もそう思っていたことだ。
「うーん、ごめんね。私にはちょっと、思い当たる節がないや」
しかし、当のソフィアといえばこんな具合で。人差し指を唇に当てて悩んだ割に、出てきた答えがそれだから、クララは思わず拍子抜けしてしまう。「……そうかい」とだけ、短い言葉だけしか返せなくなったほどに、クララは予想外の肩透かしを食らっていた。
「ま、私たちの話はこれぐらいかな。……ごめんね、戒斗さん。あんな風に怒ったりなんかして。戒斗くん、何も悪くないはずなのにさ」
申し訳なさそうな視線を向けてくるソフィアに、戒斗は「いや」と首を横に振る。
「……ソフィア」
その後で、戒斗は小さく彼女の名を呼び。するとソフィアは「どうしたの?」と優しげな顔で応じるから、戒斗は続けてこう言った。
「俺も、君に話しておきたいことがある。礼に応じる、ってワケでもないが。でも……知っていて欲しい。君と、ソイツには」
――――例え、片方には届かぬ言葉だとしても。
それでも、戒斗は話しておきたかった。遠い過去、彼女たちと別れてから、自分がどんな日々を辿ってきたか。それを、どうにも知っていて欲しかった。




