Execute.132:STRIKE ENFORCER./散華の残香①
走り出したカマロが行き着いた先は、しかし出てきたばかりのウェッソン銃砲店からさほど遠くなく。これまた大通りから少し入ったところにある、とあるバーの前だった。
「……へえ、此処が君の寄り道ってワケかい」
店の目の前に横付けする格好でカマロを路肩に停めると、助手席からバーを眺めるクララが言う。戒斗は「そうだ」と頷いて、
「でも、用があるのは二階の方だ」
言いながらカマロのエンジンを切り、車から降りる。
外に降りれば、吹き付けてくるのは柔な向かい風。髪を揺らされながら、カマロのドアが開いて閉じる音を聞きながら。戒斗は同じく降りた二人と一緒になって、目の前にしたそのバーを……正確には、そのバーの入るアパートじみた建屋を眺めていた。
一階部分にはバーの店があり、その隣には……恐らくは駐車スペースへと続いているだろう誘導路が見受けられる。シャッターこそ降りていて入れないが、確か車二台半分ぐらいが入れるスペースがあったはずだ。ちなみにバーの方だが、昼間は喫茶店として営業しているらしく。今も店は開かれていた。
そして、そんな喫茶店と兼業のバーのすぐ隣には、上階へと続く内階段があった。戒斗は「行くぞ」と言うと、エマとクララを伴ってその内階段を昇っていく。
トントントン、と三人分の足音が折り重なって、広くもなければ狭くもない、中途半端な幅の内階段を反響する。後ろを続く二人はさておくにしても、先頭を往く戒斗の足音は、心なしか重い。
昇っていけば、当然階段にも終わりがある。戒斗にとっては異様なまでに長く感じられた階段も、実際のところは大したことなくて。一分も掛からない内に登り切れば、踊り場めいたフラットな廊下が暫く続くそこには、一つだけ扉があった。
そこが、その扉の向こうこそが、戒斗の目指した目的地だった。
「カイト」
「分かってる」
きゅっと指を絡ませてくるエマの手を、戒斗もだらんとしたままの手で一度小さく握り返し。そうした後で、戒斗は扉の傍にあった呼び鈴を鳴らした。
『――――はい、お客さん?』
とすれば、扉の向こうから聞こえてくるのは、少女みたいに若々しい色をした女の子の声で。とたとたとたと扉に近づいてくる足音がすれば、戒斗たち三人が目の前にした扉は、内側からガチャリと音を立てて開かれた。
「……!? 貴方は」
「暫く振りだ、ソフィア」
開いた扉の向こう側から現れたのは、声音通りに女の子で。タイトなジーンズに黒いブラウス、袖を小さく折り曲げた焦げ茶色のジャケットを羽織る格好の彼女は、しかし戒斗の記憶にあった姿よりも幾分か成長していて。何処か、昔よりも大人びたような。悪い方へと言い方を変えれば、少しばかり荒んだような、そんなビターな雰囲気を纏っていた。
――――ソフィア・エヴァンス。
セミロングとまではいかない、首の付け根より少し長いぐらいの短さに切り揃えた、栗色の髪を揺らし。ほぼ同色の綺麗な琥珀色をした瞳を、戒斗たち三人の姿を視るその瞳を、驚きに満ちたように見開いて。彼女は……ソフィアは扉を中途半端に開いたまま、言葉を失っていた。




