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Execute.131:STRIKE ENFORCER./往くべき場所は

 ウェッソン銃砲店を出て、購入したばかりの武器弾薬を一杯に詰め込んだ、ドデカいボストンバッグをカマロのトランクに投げ入れて。そうすれば三人は、再び白いコンバーチブルのカマロへと乗り込んでいく。

「……カイト、さっきの話」

 コクピット・シートに収まった戒斗がカマロのエンジンに火を入れていると、後ろから小さく乗り出してきたエマが話しかけてくる。

 それに、戒斗は「ああ」とだけ頷いた。

「もしかして、前に話してた……あの、彼のこと?」

「ああ」

 また、戒斗は小さく頷くだけ。だが、その後で戒斗は二の言葉を紡ぎ出した。エマが何かを言い出すよりも、ずっと早く。

「……少し前に、良くない噂を聞いた。アイツに関する、良くない噂を」

「良くない、噂……」

 その言葉の裏に隠された意味を、影色を秘めた色の意味を。エマは機微にそれを察したのか、小さく反芻するように呟くだけで。深くまでを、戒斗に追求することはしない。

 そんな彼女の優しさが、少しだけ戒斗は胸に刺さる思いだった。

「この辺りで、そういうアレね……。なるほど。僕にも何となく予想は付いたよ、カイト」

 とすれば、隣でクララまでもがそんなことを言ってくる。先程のシエラとの会話と、そしてたった今、戒斗が口にしたことから。彼女もまた何か思い当たるところがあったのだろう。クララもまた敢えてそれを明確な形で口にすることはしなかったが、しかしこの三人の間で、ある一つの共通認識が生まれていること。それだけは、どうやら間違いなさそうだった。

「で、カイト。どうするんだい? どうしたいのかな、君は」

「俺は……」

 どうしたい、とは答えられなかった。口ごもるだけで、クララの問いに答えることは、出来なかった。

 ――――逢いたくない、と言えば、それは嘘だ。

 折角、こうしてシカゴくんだりまで来る羽目になったのだ。折角なら、顔ぐらいは合わせておきたいのが、戒斗の正直なところの気持ちだ。

 でも、それ以上に戒斗は怖かったのだ。今のアイツ(・・・)を、今のアイツ(・・・)の姿を、自分の眼で目の当たりにしてしまうのが。

 あの噂を耳にしたのは、数ヶ月前のことだった。確か、会社で……社長だったか、みどりだったか、或いは禅だったか。とにかく、誰かしらの口から聞かされたのを、今でもハッキリと覚えている。

 出来ることなら、嘘であって欲しいと思っていた。出来ることなら、単なる与太話であって欲しいと思っていた。出来ることなら、それが噂に尾ひれが付きまくった、その程度のオチであって欲しかった。

 でも、今しがたシエラの話を聞いて。それが事実であると、戒斗は知ってしまった。知りたくもなかった真実を、知ってしまったのだ。

 だからこそ、だろう。戒斗がここまで怖がっているのは。今まで、多くのモノを喪いすぎてきたが故に。それが故に、更に喪ってしまったことを知ってしまうのを、戒斗は過剰なまでに怖がっているのだろう。

 ――――だって、アイツ(・・・)は。戦部戒斗という男を真に知る、今となっては数少ない一人なのだから。

「……カイト」

 それを、暗黙の内に理解したからこそ。だからこそ、エマは背中越しに彼の身体にそっと両腕を回した。シートの後ろから、シート越しに。それごと包み込んでしまうかのように、エマは彼の首からそっと腕を回す。

「一旦、落ち着いて。大丈夫だから、ここには僕がいる」

「…………」

「少し、落ち着こう。僕の手に……触って?」

 言われるがまま、戒斗は胸の辺りに回っていた、エマの手に自分の手を触れさせた。

 すると、エマはきゅっとその手を握り返して来てくれる。触れた戒斗の手を、小さく優しく。

 真っ白くて長い、華奢な指先。そこから彼女の少しひんやりとした体温と、確かな鼓動を感じて。握り返し絡む指先の力を感じれば、戒斗は混濁していた胸の内が、少しずつ落ち着いていくのを感じていた。

「落ち着いた?」

「……おかげさまで、な。悪いな、手間を掛けさせて」

「良いさ、君がそういう性格なのは、よく知ってるから」

 落ち着いてきた心で戒斗が言うと、エマがクスッと笑うのが背中越しで分かった。

「行こうよ、カイト」

 そうして、エマは小さく微笑むと。すると戒斗の手を握ったまま、彼にそう言う。

「君は……ううん、僕たちはそこに行くべきだって、僕は思う。きっと、そうすべきだって」

「エマ……」

「それに、多分これが最後のチャンスになるかもしれないから」

 その言葉に、エマは確たる根拠は持ち合わせてはいなかった。

 が、第六感というのだろうか。それが、不気味なほどに訴えかけてくるのだ。エマの内側にある、彼女でない何かが、怖いぐらいに何度も訴えかけてくるのだ。今だけは、彼を逃がすべきじゃない。向き合うべきだと。彼を、あの場所に連れて行くべきだと……。

 だからこそ、エマは戒斗に向かってそう告げていた。

 ……もしかすれば、彼にとって酷なことかも知れないと分かっていても。

 それでも、今だけは敢えて心を鬼にして。エマは、戒斗の背中を押すようなことを彼に言っていた。

「……そう、なのかな」

「多分、きっとそうなんだと……僕は、思う」

 最後の一押しを、エマが言った。

「……分かったよ」

 すると、戒斗はフッと笑って頷く。仕方なさそうな顔で、肩を竦めて。いつもの飄々とした態度で、疲れたような声音で。

「女の子の言うことは、割に素直に聞くように心掛けてるんだ」

「特に僕のは……だっけ?」

「そういうことだ」

 バック・ミラー越しに視線を交わし合って、二人は小さな微笑みを交わした。左眼に一筋の傷跡の走る双眸と、アイオライトのように深い蒼をした瞳とで、視線を交わし合って、笑った。

「行こうか、カイト」

「ああ」

 そうして、エマが延ばしていた腕を解くと。戒斗は長らくアイドリングで待たせっぱなしだったカマロのギアを入れる。

「話は、決まったようだね」

 カマロが動き始めると、助手席で退屈していたクララが言うものだから。ステアリングを握り締めた戒斗はそれに「ああ」と頷き、

「二人とも、悪いが少し寄り道だ。ちょっとだけ、俺のワガママに付き合ってくれ」

 重厚な低い唸り声を上げて、白いカマロが吹っ飛ぶように走り出す。


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