Execute.130:STRIKE ENFORCER./旅路の果て、遠い記憶を辿って④
「裏の人間とも、最近はそこそこ取引があるからね。割と色んな物は融通できちゃうよ?」
シエラの言葉を片耳に聞きながら、戒斗とクララは銃砲店の中をザッと物色し始めていた。ちなみに、エマは戒斗のすぐ傍をチョコチョコと着いてきている。
「戒斗くんたちは、どんなのが欲しいのかな?」
「色々と、だ」と、戒斗。「でも、まずは拳銃の類を見せてくれ」
「あー、それなら一杯あるよ。どれが良い? ここに在る以外にも、奥に在庫は結構あるけれど」
そう言うシエラが視線で示すのは、ガラスのショーケースになったカウンターの中。そこに所狭しと並べられた拳銃たちだ。自動式に回転式、古いものから最新のポリマーフレーム・オートまで。多種多様な拳銃が取り揃えられているのは、一目で分かる。
「そうだな……」
着いてくるエマを傍らに、戒斗はそのショーケースの中を覗き込み。暫く思案した後、どれが良いのかある程度の目星を付けた。
「これにしよう、見せてくれ」
「ん、分かった」
ひとまず決めた戒斗が指し示すと、シエラがカウンターの中から指定した拳銃を出してくれる。
「ヴィッカース・エリート。ウチには最近入ってきたばかりの新製品だよ」
ゴトリ、と確かな重量感を感じさせる音を響かせながら、シエラの手でショーケースの上に置かれたのはグロック19の自動拳銃で。しかし、明らかに通常のグロック19とは見た目からして異なっていた。
―――ヴィッカース・エリート。
カスタム拳銃の名門たるウィルソン・コンバット社と、元デルタフォース隊員ラリー・ヴィッカースが組んで製作された特別なカスタム・グロック。それが、このヴィッカース・エリートなのだ。
第五世代のグロック19をベースに、細かな改良点まで上げていけばキリがないものの。しかし、細部に至るまで拘ってカスタマイズされた、地球上で最も優れた、最高のグロックの一つであることは間違いない。その分お値段は張るが、それだけの価値はある。
「ちょっと、借りるぞ」
戒斗は一言シエラに断ってから、そのヴィッカース・エリートのグロック19を手に取って、構えてみた。
何度か空撃ちをしてみたり、スライドの調子を確かめてみたり。後は銃把のグリッピングを確かめたりだとか、サイトの覗き具合を見てみたりだとか。本来の利き手である左にも持ち替えて、同じように戒斗はひとしきり具合を確かめる。
「よし、貰おう」
そうして検分した後、よっぽど戒斗は気に入ったのか。満足げな顔でグロックをカウンターの上に置き直すと、二つ返事でシエラにそう告げた。
「まいどありー♪」
すると、戒斗の決断を聞いたシエラはご機嫌そうな笑顔を浮かべる。
「ついでに予備の弾倉を幾つかと、ホルスターも頼む。弾倉は普通のグロック純正で構わないし、ホルスターはブレードテックか、あればサファリランドを」
「はいはい、すぐに用意するって♪ クララさんは、何か要らないの?」
「僕にはこれがあるからね、無用なのさ」
と、シエラに訊かれたクララは、サッと右腰から取り出した小振りな拳銃を彼女の方へ見せつける。
アンティークじみて古びたそれは、ベレッタの小型拳銃・モデル70"ピューマ"。クララが昔から愛用している一挺で、使う弾は9mmショートと小柄で低威力なモノだが。しかしクララの手に掛かれば、.50口径の重機関銃よりも厄介極まりないことは、戒斗もよく知っている。
「それじゃあ、エマちゃん……は、必要そうにないね。何となくそんな雰囲気だ」
「あはは……」
シエラが自分で察した通り、エマには特にこれといって必要はない。万が一の為に護身用でグロック42は持たせてあるし、それ以前にクララが警護に就いてくれている時点で、彼女がそんな事態に見舞われるコトは有り得ないのだから。
「後は、長物だが……。一応訊くが、シエラ嬢。フルオート・ウェポンの取り揃えは?」
「あー、それがねえ戒斗くん。昨日までは裏向けの在庫あったんだけど、丁度全部捌けちゃってさあ。今あるのは、合法なセミオートのしかないんだよね」
――――基本的に一部の州を除いて、米国内でフルオート射撃可能なライフルを持てる人間は、特殊なライセンス持ちに限られている。
だから、シエラは詫びてきたのだ。とはいえ仕方ないコトなので、戒斗は「そうか」とだけ言う。別に責める気はないのだ。シエラが悪いワケではないのだから、彼女を責め立てる道理もない。
「そうだな……」
とはいえ、使える長物がないと困るのも事実だ。戒斗は悩んだ顔でまた店内をぐるりと見渡し、良い具合に使えそうな物がないかを改めて探してみる。
「……よし、アレを貰おうか」
「アレで良いの?」
「使えないことはない」
結局、戒斗がチョイスしたのは、古めかしい自動ライフルだった。
スプリングフィールド・M1A。
シエラに取ってこさせ、カウンターの上に置かれた古典的な格好の自動ライフルが、それだ。ベトナム戦争前半の米軍主力ライフル・M14からフルオート機構を取り除いた民間仕様が、このスプリングフィールド・M1Aだった。
だが、戒斗がチョイスした物は、中でもSOCOM-16という特殊なバリエーションだった。
通常で二〇インチと長大なM1Aの銃身を、およそ一六インチの限界ギリギリにまで縮めた、接近戦用モデル。樹脂性のシャーシにはアタッチメント用の20mmレールも備えられている、近代的な仕様の一挺だ。
また、シエラの店で在庫になっていて、今こうして戒斗の目の前に現れた一挺はCQBモデル。通常のシャーシとは違い、ピストル・グリップとAR-15ライクな伸縮式銃床を備えた物だ。近距離で扱いづらいとされるM14系列でも、ここまで手が入っていれば十二分に扱いこなせるだろう。大口径ライフル弾の威力面も加味して、戒斗はそう思ってこれをチョイスしたのだ。
「ダットサイトと、適当なフラッシュライトも一緒に頼む。弾倉と弾も幾つか」
「はいはい、まいどぉー♪」
結局、戒斗はこれを買うことにして。受け取る頃にはエイムポイント製のCOMP-M4ダットサイト照準器が乗っかり、側面にはシュアファイアのフラッシュライトが取り付けられた格好にSOCOM-16は変わり果てていた。
その後、クララは伸縮銃床のベネリ・M4自動ショットガンを弾と一緒に購入し。そんなこんなで、漸く戒斗たちの買い物は終了する。
「とっとっと……。うん、足りてる。いやー、まいどまいどー♪」
戒斗に代金として渡されたドル札の束を数え終え、シエラはご満悦な笑顔を浮かべる。
それを見届け、シエラに貰ったボストンバッグに放り込んだ武器類を抱えて戒斗が二人と一緒に店を立ち去ろうとすると。そんな背中を、シエラが「待って」と呼び止めた。
「出来れば……出来ればで良いの。出来たら、あっちにも寄ってあげて」
「…………」
――――シエラの言葉が意味するところは、戒斗には痛いほど分かっている。
故に、戒斗は無言だった。アイツの話を、風の噂で何となく聞いているから。だからこそ、戒斗は答えられなかった。出来ることなら、立ち寄りたくはないのだから。
「多分、戒斗くんも分かってるんだと思う。……それでも、顔だけは見せてあげて欲しい」
「……今更、合わせる顔なんか無いさ」
「それでも、だよ」と、首だけ振り返る戒斗に、シエラが少し強い語気で言う。
「戒斗くんが、そう思ってても。アイツの方は違うかもしれない。……今じゃあ、私にだって分からないんだけどさ」
「……口振りから察するに、あの噂は本当なのか」
首で振り向いた格好で視線を向ける戒斗が言えば、シエラは一瞬の逡巡の後。「……うん」と、躊躇うように小さく、ほんの小さく頷く。
「今は、ソフィアちゃんが頑張ってる。色んなヒトがいなくなって、色んなモノを失ったけれど。それでも、ソフィアちゃんは前を向いて、今を生きてるよ」
「……そうか、ソフィアが」
また、昔懐かしい名が出てきたものだ。
戒斗はシエラの口から出てきたその名を聞いて、記憶の糸を手繰り寄せ。嘗て出逢って、何度も言葉を交わした、あの少女のコトを思い出していた。栗色の髪が可愛らしかった、あの少女のことを。
あれから、随分と長い月日が経ってしまった。あれだけ可愛らしかったあの娘も、もう随分と成長して、大人びた風貌になっているのだろうか。どんな女の子に、彼女は……ソフィアは、成長したのだろうか。
それを思うと、戒斗は少しだけ楽しみに思うところもあった。同時に、彼女が今も生きていると知って、少しだけ安堵する気分も味わっていた。
「……だから」
と、戒斗が昔のことを思い返していると。シエラが少しだけ真剣な眼差しで、続ける言葉を紡ごうと口を開く。
「だから、出来れば逢ってあげて欲しい。戒斗くんに、アイツと逢って欲しい」
「……俺には」
「逢う資格がない、とは言わせないよ。戒斗くんの噂は、私も色々と聞いてたんだから」
「……すまない」
気付けば、戒斗は何故か詫びていた。詫びる必要なんか無いはずなのに、何故かシエラに詫びてしまっていた。
すると、シエラは「謝る必要なんか、何処にもないよ」と、励ますように言ってくれる。言ってくれた後で、シエラはまた自分の言葉を紡ぎ始めた。
「戒斗くんが、どんな目的があって此処に居るのか。どういう意図があって、またシカゴに戻ってきたのか。それは私も訊かないよ。……ううん、知りたくもない」
でもね、戒斗くん。
「貴方には、一度で良い。一目で良いから、アイツに逢っていって欲しいんだ。……ソフィアちゃんの為にも、一度で良いから」
それが、私から貴方へのお願い。久し振りに逢えた友達に対する、私からのお願い。
「私が言いたいのは、それだけ」
「……そうか」
言い終えたシエラに、戒斗はそれだけを言って、ほんの小さく頷いて。そうすれば振り向いていた顔を元に戻し、一言も発さないままに、今度こそ店を出て行ってしまう。
「またね、戒斗くん」
最後に後ろ手を振って出て行った、そんな男の背中を独りカウンター越しに見送りながら。シエラは小さく、ほんの小さく、呟いていた。




