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Execute.129:STRIKE ENFORCER./旅路の果て、遠い記憶を辿って③

「はーい、いらっしゃ…………っっっ!?!?!」

 店の戸を潜り、戒斗たちが足を踏み入れて。来客に気付いた、カウンターの向こうに居る店員の女の子は普段の調子で気さくに応じようとしたが、しかし客として現れた三人――主に戒斗の顔を一目見るなり、言葉を失ってしまっていた。

「邪魔をする、何年振りだ?」

 当たり前のような顔をして話しかけてくる戒斗の顔を、その店員の女の子は眼を見開いて、驚きのあまり言葉を紡ぎ出せずにいて。ただ、信じられないモノを視るような顔をしている。まるで、幽霊でも目撃してしまった時のように。

「か、戒斗くん……だ、よね?」

「他に思い当たる節、あるか?」

「だ、だって……死んじゃったって、グレイから聞いてて……!!」

「俺が幽霊だとでも? 生憎だが、ちゃんとこうして脚はある。触ってみろ、別に透けたりしてないぜ?」

 ニヤニヤと皮肉る戒斗に、やはり信じられないといった顔と視線を向けながら。やっとこさ言葉を紡ぎ出せたその女の子は、あわあわと慌てふためきつつカウンターの向こうから出てきて、戒斗たちの方に駆け寄ってくる。

「嘘っ、嘘ですっ……!」

「死亡説は、偽装の為に俺が流したブラフだ。何度も死にかけたが、死んじゃあいない。おかげさまで五体満足だ」

「そんな、そんなことって。戒斗くんが生きてた、生きてたんだ……!!」

 戒斗のすぐ目の前まで駆け寄ってきた女の子は、だらんとしていた戒斗の右手をぎゅっと両手で握り。何度も何度も感触を確かめながら、いつしかぽろぽろと涙をこぼし始めていた。

「……久し振りだな、シエラ嬢」

 ぐすっぐすっと鼻を啜り、ぽろぽろと泣き始める彼女――シエラにされるがままになりながら。戒斗は小さく、囁くような……低く落ち着いた、優しげな声音で。そんな声音で、彼女に言った。

「ほんとだよ、ほんとだよ……! あれから、ほんっとに大変だったんだから……! 戒斗くんに何回「助けて」って連絡しようとしたか、覚えてないぐらい……。

でも戒斗くんが死んじゃったかもしれないって、そうやってグレイに聞いてたから……!」

「色々とありすぎたんだ、色々と。……君の方も大変だったみたいだな、シエラ嬢。心中お察しするよ」

 言いながら、戒斗はハンカチを差し出そうと懐を弄った。だが入れ忘れていたのか、ポケットの中に突っ込んだ手は空を切るだけ。

「カイト、これ使って」

 そうして戒斗が困っていると、察したエマが自分の小さなハンドバッグから出したハンカチを、そっと戒斗の方に差し出してくれた。

 戒斗はそれを「すまんな」と言って受け取ると、片手を握ったままで泣き続けるシエラの目元を小さく拭ってから、彼女に渡してやる。そして暫くの間、彼女が落ち着くまでの間。戒斗はそのままの格好で立ち尽くしていた。

「……っ。ごめんね、急にこんなこと。戒斗くんの顔見たら、何だか感極まっちゃって」

 少し後、やっとこさ泣き止んだシエラは戒斗の手を握っていた両手を離し、顔を上げて。目元を赤くしながらも、戒斗たちに改めて向き直った。やっとこさいつもの調子を取り戻したみたいだ。

「カイト、いい加減訊きたいんだけどさ。この可愛い()ちゃんは、君の何だい?」

 すると、空気を読んで今まで黙りこくっていたクララが、戒斗の羽織るジャケットの裾をちょいちょいと引っ張りながらで問うてくる。

 戒斗がそれに「昔馴染みだ」と短く答えると。するとその頃になってシエラはハッとし、「あっ、ごめんなさい! 自己紹介がまだだったね」なんて風に、完全に普段の調子に戻して口を開いた。

「初めましてっ! 私、シエラ・ウェッソンっていいます。父は何年か前に引退して、今は一応、私がこの店のオーナー……なのかな?」

 腰まで届く、長いポニーテールの尾をフリフリと揺らし。ドデカく豊満なバストを見せつけるようなポーズをわざとらしくとりながら、彼女――シエラ・ウェッソンは、戒斗以外の初めてお目に掛かる二人へと、そう自身の名を名乗った。

「で、戒斗くん。そちらのお二人はどちら様?」

「ああ、まずはこっちが――――」

 と、シエラに訊かれた戒斗が答えようとする前に。

「あ、僕はエマ・アジャーニ」

 それよりも早く、エマはシエラに向かってそう名乗っていた。

「よろしく、ええと……」

「シエラで良いよ、私もエマちゃんって呼ばせて貰うからさ」

 にしし、と悪戯っぽく笑いながらで、戸惑っていたエマにシエラが言う。

「それで……ええと、戒斗くん? この()は……?」

「エマちゃんかい? それなら、カイトのこれ(・・)だよ」

 続けてシエラが訊きづらそうに訊いてくれば、横から割り込んできたクララがニヤニヤとしながら、シエラの方に向かって小指をチョイと立ててみせる。それが暗喩するところを察すれば、シエラは「あららら……」と困り顔を浮かべた。

「ちなみに、僕はクララ・ムラサメだ。見知りおかなくても良いよ」

「クララ……って!? 貴女、まさかあのクララ・ムラサメなの!?」

 そのままの流れで自分から名乗ったクララの名を聞いた途端、またシエラが眼を見開いて驚く。

 何というか、シエラは相変わらず表情豊かで、見ていて飽きない。最後に逢ったときは二十代も前半だったはずだが、あれから結構な年月が経っている。今は多分、二十代も後半に差し掛かっているぐらいな年頃の筈だが、この表情の七変化っぷりは昔と変わらずだった。

「ん、シエラちゃんは僕のことを知ってくれているみたいだね」

「知ってるも何も、西海岸で伝説になってたスイーパーじゃないですかっ!? ここ暫くはあんまり噂は聞かなかったけれど……なんでっ!?」

「ちょっと、カイトの付き添いでね。日本でゆっくり休暇を過ごしてたつもりだったんだけれども、これが人気者の辛いところさ」

「……戒斗くん、いつの間にこんな凄いヒトと知り合いに…………?」

「成り行きだ、成り行き」

 シエラには物凄く不思議な顔をされるが、しかしクララとは本当に成り行き上で知人になってしまったのだから困る。誤魔化しているワケでも何でもなく、そう言うしか無いのだからどうしようもない。

「ところで、戒斗くん?」

 ひとしきり驚いた後で、クララはふと戒斗の回りを見渡し。そうすれば戒斗が「ん?」と反応するので、シエラは首を傾げる戒斗にこんなことを問うてみた。

「遥ちゃんや、リサさんたちの姿が見えないけれど……一緒じゃ、ないの?」

 ――――やっぱり、訊いてくるよな。

 戒斗は少しの間、シエラに何と言って説明して良いか分からず。ただ、開いた口で何度か言葉にならない言葉で空を切らせるのみだった。

「……死んだよ。みんな、いなくなった」

 やっと紡ぎ出せた言葉といえば、飾りっ気もなにもない、ただただ短いだけの、そんな一言だけ。

「嘘……」

 とすれば、シエラは自分の口元を両手で覆い、絶句する。

 シエラにしてみれば、無理もない反応だった。多分、遥たちが死んでしまったことを知るのは、今が初めてなのだろうから。

「嘘じゃない。……皆、死んじまったんだ。俺が、不甲斐なかったばっかりに」

 だが、戒斗は敢えてそう口にする。残酷すぎる事実かもしれないが、しかしこれが事実なのだ。上手い形に歪めて、優しい形に整形して、オブラートに包み込めるほど、戒斗は器用な男じゃなかった。

「……ごめんね、変なコト訊いて」

「気にするな、当然のことだ」

「そ、それより! ウチの物が要り用で来てくれたんでしょ? だったら、色々と融通を利かせられるから。何が欲しいの?」

 話題を無理矢理に吹っ切るみたいな態度で、シエラは店のカウンターの向こう側へと戻っていく。

 ショックを受けた心を、シエラは無理して押さえ付けているようでもあったが。しかし戒斗たちは、敢えてそれを追求しようとはしなかった。これは、シエラ自身の中で整理と区切りを付けるべきことだと、戒斗だけじゃない。エマもクララも、皆知りすぎていたことだから。

「そうだな……」

「まずは、どんなものがあるか見せてくれるかな? 出来る限りなら僕らも、すぐに持って帰れる在庫品で選びたいからね」

 故に、戒斗もクララも、そんなシエラを敢えて気にしないまま、本題へと踏み込んでいった。


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