Execute.128:STRIKE ENFORCER./旅路の果て、遠い記憶を辿って②
北ミシガン通りをちょっと横丁に抜けた先。そんな横丁の片隅にある小さな銃砲店。そこが、戒斗の目指した目的地であり、そして戒斗が武器調達のアテにしていた、ほぼ唯一の場所だった。
「……カイト、此処なのかい?」
「ああ」首を傾げて訊くクララに頷きながら、戒斗は銃砲店の手狭な駐車スペースにカマロを突っ込む。
「この店に、カイトの知り合いが?」
「そうなるな。尤も、向こうが覚えてるかは微妙なトコだけどさ」
後ろから聞こえてくるエマの問いかけに反応しつつ、戒斗は駐車スペースに突っ込んだカマロの屋根を閉める。同じ幌屋根でもマツダ・ロードスターとは異なり、手動でなく電動開閉のオートルーフだから楽だ。ものの数秒で屋根が閉まれば、戒斗はカマロのエンジンを停めた。
三人揃って車を降りて、急に「一服したい」と言い出したクララが、マールボロ・ライトの煙草を一本吸い終えるのを待つ間。戒斗はふと、目の前にした銃砲店の看板を、何気なしに見上げていた。
(まさか、また此処に来る羽目になるなんて)
――――ウェッソン銃砲店。
店の看板には、当然の如く英語でそう刻まれている。戒斗にとっては昔懐かしく、そして苦々しくもある記憶の中にある名が、記憶の中と何ら変わらぬ形でそこにあった。
「懐かしそうだね、カイト」
そうして戒斗が店の看板を見上げていると、すぐ隣に立つエマが話しかけてくる。傍に立つ戒斗の肩に、ちょこんと傾げた頭を傾げるようにして。
「もう、二度と来ることは無いと思ってた。もう、二度と顔を合わせることなんか、あるはず無いと思ってた」
自分の肩に頭を預けてくるエマの、そんな彼女の肩をそっと片腕で抱き寄せつつ。戒斗は店の看板を見上げたまま、遠い眼をして呟いた。
「思ってたのに、気付けば俺はまた、此処に立ってるんだ。不思議な気分だよ。人生、何があるか分からないモンだ」
「だね」
郷愁に浸るような戒斗の言葉に、首を預けたままのエマが小さく相槌を打つ。
「前に、僕も聞いたような気がする」
「確かな、君にも話した覚えがある」
「でも、また教えてよ。君の口から、また聞かせて欲しい」
「エマが聞きたいのなら、何度でも俺は聞かせてやるさ。君だけには、全てを覚えていて欲しい」
何だか、不思議な気持ちだった。あの頃と変わらぬ形でそこにある店の前に、あまりに変わりすぎた自分が立っている。姿形も、きっと身に纏う雰囲気も。共に来てくれた彼女も、そして傍に抱き寄せる彼女も。あの頃と、何もかもが変わってしまった。
それなのに、それなのに。自分はまた、ここにいる。まだ、生きて此処に立っている。それが、戒斗にとっては何だか、物凄く不思議な気持ちだったのだ。
「待たせたね、カイト」
抱き寄せるエマとともに、戒斗がそうしていると。いつの間にか煙草を吸い終えていたクララが、可愛らしい小さな靴の底で吸い殻の火種を揉み消しつつ。満足げな顔で戒斗にそう話しかけてきた。
「じゃあカイト、入ろっか」
「ああ」
肩を抱いていた手を離し、預けていた首を離れさせ。少しだけ離れたエマと、そしてクララも一緒になって。戒斗はやっとこさその店の戸を潜った。ウェッソン銃砲店の、昔懐かしい敷居を、今一度跨いでいった。




