表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
125/279

Execute.125:STRIKE ENFORCER./不夜の街へ

「あ――――」

「…………」

 9mmパラベラムの、サイレンサーで抑えつけられた、くぐもった銃声が小さく木霊する。戒斗の視る先、グロック19の照門の向こうで、また一人が額に紅い華を咲かせ、事切れた。

「これで、五件目……」

 今の一人で、この拠点に居た連中は最後だ。この、L.A市内にあるクリムゾン・クロウ残党の拠点、安アパートの中に設けられた拠点に詰めていた最後の一人が、こうして戒斗の手で葬られた。

 ――――最初の、アナハイム市にある倉庫の襲撃を終えた夜から、既に十日あまりが経過していた。

 その間に、戒斗はほぼ一日おきのペースで、クララが纏め上げたリストにあった拠点に襲撃を掛けていた。だが、その全てがハズレで。倉庫で収集した情報以上に有力なモノは、未だに手に入れられていなかった。

「とにかく、これで此処はクリアだ」

 戒斗は小さく息をつくと、グロックを構えていた右手を下ろす。フレームに装着しておいたシュアファイア・X300フラッシュライトで照らしつつ、拠点になっていたアパートの部屋の中を、手早く検分し始めた。

「……やっぱり、此処もハズレか」

 が、やはり大したモノは見当たらない。とはいえ手持ち無沙汰で帰るのも何だと思い、戒斗は机の上に広げられていた幾つかの紙束を適当に掴み取っておくことにする。

 そうしていると、遠くからサイレンの音が近づいてくるのが分かった。今はもう亡骸となって床に転がっている連中。コイツらがブッ放した拳銃の銃声を聞きつけた近隣住民が、恐らくは警察に通報したのだろう。

「っと、こうしちゃいられねえか。さっさとズラかるとしよう……」

 サイレンの音が耳に入った途端、戒斗は首を横に振り。フラッシュライトの明かりを消すと、右手に拳銃、左手に頂戴した資料の紙束といった格好で、死臭と硝煙の香りが漂う安アパートの部屋を出た。





 真夜中の街を走り出した、深紅のダッジ・ヴァイパーGTSと何台ものパトカーがすれ違う。こんな夜更けに派手に暴れた張本人が対向車線に居るとも知らず、派手にサイレンを鳴らしてブッ飛ばすL.A.P.Dのパトカーたちとすれ違いながら、ステアリングを握る戒斗は独り、小さく溜息をつく。

「……ん?」

 とした折に、助手席へ雑に放ってあったスマートフォンがけたたましい着信音を奏で始めた。誰かと思い、戒斗はギアを切り替えるついでにその私物のスマートフォンを手に取る。ディスプレイに表示されていた電話の着信相手は、クララだった。

「俺だ、どうした?」

『調子はどうかと思ってね。どうやら、その様子だと無事なようだけど』

 聞こえてくるクララの声は、相変わらず外見不相応に落ち着いている、少し高めだがセクシーな声音だった。声だけ聞いていれば、風貌があんなに幼いとは想像も付かないほどに。

「今しがた、五件目が終わったところだ」

 戒斗はステアリングを片手に、スマートフォンを左耳に押し当てつつクララに応じると、

「……ま、大した新情報は無しだけどさ」

 と、溜息交じりに続けて言った。

『仕方ないさ、最初の一件での収穫が、あまりに大きすぎた』

 すると、クララもまた電話の向こうで肩を竦めながら、そう言う。彼女にとっても今日の収穫無しは予想の範疇であっただろうが、やはり肩透かし感は否めないらしい。

『とりあえず、L.A近郊で手頃なクリムゾン・クロウの根城は、そこで最後だよ』

「……とすると、やっぱり」

『そうだね』神妙な声で唸る戒斗に、クララが相槌を打った。

『向かうべきは、やはりシカゴみたいだ』

 言われて、戒斗はまた溜息をつく。分かりきっていたことだけに、どうしても溜息は漏れてしまうのだ。

「シカゴ、か……」

『君にとっても、縁の深い街みたいだね。僕も同じさ、出来ることならあまり近寄りたくはない』

「かといって、俺も君も行かざるを得ないだろうに」

『だからこそ、さ。カイトと同じように、溜息の一つでもつきたくなるのは』

 ――――シカゴ。

 合衆国の中部、イリノイ州にある大都市。東海岸のニューヨークと、そして此処ロス・アンジェルスに次ぐ人口密度の、眠らない街。戒斗にとっても思い出深く、そしてL.Aと同じぐらいに因縁深い街だった。

 だからこそ、だろう。こうして溜息がつきたくなるのは。だからこそ、だろう。どうにも憂鬱っぽい気分になってくるのは。

『君が手に入れてくれた手掛かりを統合すると、どうやらクリムゾン・クロウ残党の合衆国に於ける本拠地は、シカゴにあると見て間違いない。ミリィ・レイスにも協力して貰ったけれど、やっぱり浅倉とアキトは、今もあの街に居る』

「……ちなみに訊くが、最後に奴らが確認されたのはいつだ?」

『三日前だね』

「だろうな……」

 また、戒斗は溜息をついた。

 ――――戒斗が今日までかき集めてきた情報。主に最初のアナハイムの倉庫襲撃で得られた、クリムゾン・クロウ残党に関する情報は、思いのほか凄まじいものだった。

 最初に戒斗が目論んだ通り、取引相手のリストは勿論。この合衆国内に於ける別の拠点と思しき場所の、その詳細な場所までもが……全てでは無いが、幾らか手に入った。

 それらの手掛かりを元に分かったことは、幾つかある。

 一つは、浅倉たちが手を広げていた範囲が、当初の予想を大幅に超えた広さだったこと。中東やアフリカなどの第三世界は当然のこと、東欧諸国やヨーロッパの中小国家、更には東南アジアの某国や、南米某国にまで太いパイプを浅倉一派は持っていたのだ。取引相手によっては、ロシア製のSu-34戦闘爆撃機の近代化改修キットまで納入していたほど。加えて、やはり武器商人レオニード・コロリョフ――数ヶ月前に日々谷の仕事で、戒斗が狙撃したあの男の名も、取引リストにあった。

 やはり、クララが予測していた通りのようだ。未だ推測の域は出ないものの、浅倉の目的が戦争の調律、即ち紛争のコントロールにある可能性が段々と色濃くなってきた。

(そして、もう一つは)

 ――――クリムゾン・クロウ残党の、浅倉一派の合衆国に於ける本拠地が、シカゴにあるということだ。

 それだけなら、まだ良かった。それだけならば、本拠地であるシカゴの拠点を潰し、浅倉たちにダメージを与えるだけで済んだのだ。

 しかし、問題はそこに浅倉と、そして暁斗までもが長期に渡って留まっていることにある。

(奴ら、何を考えている?)

 目的が、まるで見えてこない。それだけに戒斗は不気味なモノを感じていた。浅倉と暁斗、戒斗と……そしてエマにとって復讐すべき相手が、一同に介している。確かに凄まじいチャンスではあるが、それ以上に戒斗は妙な予感を感じてしまうのだ。

『何にせよ、どういう意図があるにせよ。僕らはあそこに行かざるを得ないんだ。誘い込まれているようで、何だか癪に障るけど』

「……だな」

 クラッチを切り、シフトノブに右手を走らせ。ヴァイパーのギアを一段落としつつ、戒斗は電話越しにクララに同意を口にする。

『一応、僕の方でも向こうで協力者は用意してあるけど。カイト、君の方でもアテはないかな? 使える駒は多いに越したことはない』

「あるには、ある」

 また溜息をつきながら、戒斗はクララの問いを肯定した。

「……あまり、使いたくはないがな」

『でも、四の五の言っていられる状況でもないだろうに。君とエマちゃんにとって、確かにこれは最大のチャンスなんだ。分かっていないとは言わせないよ、カイト?』

「分かってるさ、分かってるよ。その辺は割り切るさ」

 と言ったところで、やっぱり漏れてくる溜息は抑えられないのが哀しいところだ。溜息だけで済んでいる辺り、我ながら大人しいモノだとは思うのだが。

「とにかく、もう帰ってるところだ。話は追々にしよう。……それでクララ、エマの様子は?」

『ぐっすり寝てるよ、可愛らしい寝顔だ。食べちゃいたいぐらいに可愛いよ、君には勿体ない。ねぇカイト、いっそエマちゃん、僕にくれないかな?』

「……次にそんなこと言ってみろ、幾ら君とて容赦はしない」

『おお、怖い怖い。伝説のA-9200様に言われると、寒気がする。

 …………大丈夫だよ、ただの冗談だ。別に彼女を取って食おうってワケじゃあない。エマちゃんが君にゾッコンなのは、僕が誰よりも分かってるつもりだから』

「なら、俺も冗談にしとくよ」

 クララの冗談に聞こえない冗談に、戒斗は苦笑いしつつ。口ではああは言ってみたものの、クララがしっかりエマの面倒を見ていてくれていることに、今はただ感謝したい気分だった。

(エマは、いつ狙われるか分からない)

 クリムゾン・クロウの残党が、浅倉や暁斗が、エマの存在を掴んでいないという絶対の保証はないのだ。

 戒斗にとって、エマの存在は唯一と言っていい急所。事あるごとに戒斗が彼女に付き添うのは、何も心配性だとか、束縛が強いだとかなんて理由ではないのだ。……尤も、凄まじい心配性なのは否定できないのだが。

 とにかく、エマは常に危険と隣り合わせなのだ。だから正直、今まで思うように身動きが取れなかったことも多い。エマを護ることを、エマの身の安全を最優先に考えた結果、浅倉たちを追い詰めるチャンスがあっても、動けなかったことは決して少なくない。

 でも、今はこうしてクララが彼女を護ってくれている。最強と謳われた殺し屋、あのハリー・ムラサメの師匠だ。ハリーはおろか、変な話戒斗でも勝てるかどうか分からない女。そんなクララがエマの身辺警護に就いてくれていると考えれば、これほど安心して攻勢に打って出られる状況は他にない。

 だからこそ、戒斗は何だかんだ言いつつも、クララにかなり感謝していた。彼女が協力者として同伴してくれているからこそ、戒斗は安心してアグレッシヴに動き回れているのだ。真面目な話、全部終わったら一杯奢りたいぐらいに、戒斗は彼女に対して並々ならぬ恩義を感じている。

『とにかく、早く帰ってきてあげてよ。君が隣に居ないと、エマちゃんの寝顔も心なしか寂しそうだ。早く帰って、ぎゅーっとしてあげなよ』

「分かってる」

 クララの冗談めかした言葉に、戒斗は表情を綻ばせた。溜息は、もう漏れない。

「全部終わってる、すぐに帰るさ。クララ、くれぐれもエマのことは」

『皆まで言わなくても良い。大体、僕を誰だと思ってるんだい、君は?』

「地上最強の女、チャック・ノリスも裸足で逃げ出すクララ・ムラサメ様だ」

『僕を随分と高く買ってくれているみたいだね、何だか照れちゃうよ。

 ……ともかく、早く帰っておいで。こんなに可愛くて健気な()、あんまり独りぼっちにしておくもんじゃない』

 そう言うと、クララは戒斗の返す言葉も聞かず。一方的に電話を切ってしまった。

「……出来ることなら、傍を離れたくなんかないさ。片時も、ね」

 ツーッ、ツーッと無機質な信号音が響くスマートフォンを耳から外し、ディスプレイを落としたソイツを助手席に放り。そうしながら、戒斗はポツリとひとりごちる。

「シカゴ、か…………」

 そして、思いを馳せるは遠いあの街。思い出と因縁深き、あのシカゴの街だ。

「アイツは―――――」

 ステアリングを握る戒斗の、脳裏に過ぎったのは、ある一人の男。生きてるのか、死んでいるのかも分からない。ただ、シカゴの名を聞いた途端、その男が戒斗の脳裏に過ぎったこと…………。

 それだけは、確かなことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ