Execute.124:STRIKE ENFORCER./Ultimatum
扉を蹴り開け、前転気味にその奥へと飛び込んで。キャットウォークを渡った先にある二階部分の事務所に飛び込んだ戒斗は、その中に四人の敵の姿を見た。
誰も彼も、イスラエル製のサブ・マシーンガン、ウージーを構えて戒斗を待ち構えていた。だが戒斗が飛び込んで来た速度があまりに速すぎて、狙いを定められないでいる。
まして、今回は戒斗の位置取りが良かった。戒斗が飛び込み、膝立ちに起き上がった場所は、丁度戒斗を囲む四人を対角線上で結んだ、その中央。つまり彼らは一度引鉄を引けば、対角線上に居る味方まで一緒に撃ち殺してしまうコトになるのだ。
だから、男たちは一瞬だけ引鉄を引くのを躊躇した。良く狙えば、戒斗だけを撃つことも出来たはずなのに。しかし銃口の先に仲間の姿を見てしまい、理性の方が撃つなと彼らに強要してしまっていたのだ。
――――それが、却って命取りだとも知らずに。
「ふっ……!」
戒斗は起き上がりざまに、左手一本でキンバー・K6Sを構え。そして、すぐさまその引鉄を引いた。
ダブル・アクション・オンリーの、フレーム無いに埋め込まれた細身の軽い撃鉄が起き、すぐさま撃針を叩く。凄まじい閃光と漂う硝煙とともに、.357マグナム弾の強烈な発砲音が響いた。
K6Sの銃口の先、胸に一撃を喰らった男がたたらを踏む。しかし戒斗は間髪入れずにもう一撃を叩き込み、そうすればその男は完全に脚のバランスを失い、後方へと吹っ飛んでしまう。
そして、戒斗は別の一人へと一瞬の内に切り替え。また二発ずつを見舞う形で、残りの三人も瞬時に射殺してしまった。一人二発ずつで、計六発。やはり、このサイズで六発装填のキンバー・K6Sは化け物だ……。
「……っ、ふぅ」
硝煙の漂う部屋の中、血の臭いが漂う部屋の中。戒斗は事務所の中から完全に敵の気配が消えたことを思うと、小さく息をつきながら立ち上がった。
そうしながら、キンバー・K6Sのシリンダーを左側に振り出し、シリンダーを固定する右手、その人差し指でエジェクター・ロッドを押し込む。白銅で出来た、銀色の空薬莢が六発、戒斗の足元に落ちた。
空薬莢を棄てると、戒斗はすぐさま左手で懐からスピードローダーを取り出し。六発の.357マグナムが一纏めになったそれをシリンダーに差し込めば、一気に六発全弾の再装填を終えた。シリンダーを元に戻し、左手で構えながら敵の来訪を警戒する。
だが、待てど暮らせど誰も来なかった。それどころか、足音一つ聞こえない。もしかすれば、この倉庫に詰めていた連中を全員仕留めてしまったのか。
確信が無い以上、戒斗は警戒しつつも。しかしK6Sを後ろ腰のホルスターへ戻せば、今度はグロック19の弾倉を入れ替えた。再び発砲できるようになったグロック19を片手にぶら下げながら、戒斗は事務所の中を検分し始める。
「おっと」
すると、真っ先に眼に飛び込んできたのは、監視カメラのシステムだった。机の上に置かれたそれには、記録用のハードディスクの姿もある。
戒斗はその監視システムからハードディスクを雑に引ったくると、足元に叩き棄てたそれを踏みつける。念入りに踏み壊した後で何発かグロックの9mmパラベラム弾を叩き込み、自分の姿が記録されたハードディスクを完全に破壊してやった。ついでに、机の上にある監視システムのコンピュータ自体にも、グロックの銃弾を見舞う。
「ご都合主義、じゃないけどな」
厄介だと思っていた監視カメラの証拠隠滅が思いのほか上手く行きすぎて、戒斗は自嘲気味に独り言を呟き。そうしてから、今度は事務所内を適当に、しかし手早く物色し始めた。
「正に宝の山だ、大当たりも良いところだぜ」
キャビネットを開け、机の上にある資料を漁り、幾つかあったノートパソコンは丸ごと頂戴し。手掛かりになりそうなものを片っ端から集めていけば、かなりの量の手掛かりが集まってしまった。
書類が数十束、地図が何枚か、名簿が数束。そして中身不明のノートパソコンが三台と、エトセトラ、エトセトラ……。
集まったのはいいが、これだけの量を持って帰るのは流石に骨が折れる……というか、手ぶらでは不可能だ。だが上手い具合に事務所の中にボストンバッグが転がっていたから、これを拝借することにする。
手に取ったボストンバッグの中身を丸ごと床に棄て、代わりに手に入れた手掛かりになりそうなものを片っ端から放り込んでいく。バッグがパンパンになるまでとはいかないまでも、バッグは結構な量と重さになった。
「これで終了。後は……」
と、事務所の手前に棄てたSCAR-Hを回収してきた戒斗は、ボストンバッグを肩に背負いながらでまた事務所の中を見回し。そうすれば、机の上へ雑に置かれていた、何本かの酒瓶に眼を付けた。
テキーラか何かの瓶だ。ラベルを見る限り、アルコール度数は割と高い。
「……ま、これでいいか」
爆薬代わりになりそうな物が無い以上、これを火種にするしか無さそうだ。
肩を竦めた戒斗は、一度バッグとSCARを下ろし。左手でSOGのM37Nのナイフを抜けば、手近に転がっている死体の服を適当に、細切りにするみたく切り裂いた。
そんな風にして集めた布きれを、蓋を開けたテキーラの瓶に詰め込んで。しっかりと酒を吸わせた布きれをちょいと瓶の口から出してやれば、即席の火炎瓶の出来上がりだ。即席なんてモンじゃなく、作りは結構雑だが。しかし、火種にするには充分だろう。
「さてと、そいじゃあお暇しますかね」
そうして火炎瓶を数本こしらえた戒斗は、ナイフを腰に収めた後で再びSCARとバッグを背負い。火炎瓶と化したテキーラの酒瓶をバッグの端に差し込んで、今度こそ事務所から出て行く。一見するとまるで飲んべえだが、別にコイツを呑む気はない。
戒斗は火炎瓶の内、一本を見繕って。それを手に取ると、カチンと鳴らしたジッポーで瓶の口から出ている布切れに火を付けた。
導火線めいた布切れに火が付いたそれを、ポイッと事務所の中に投げ込んでやる。床に当たって瓶がパリンと割れれば、火がテキーラのアルコール成分に引火し。途端に火の海が広がっていく。
そうして事務所に火を付けてから、戒斗はキャットウォークを歩きながら、残りの火炎瓶に次々と火を付けては、どんどん下にある倉庫スペースへと放り捨てていく。
火の海が広がる。この分だと、貯蔵してあるだろう弾薬に引火するのも時間の問題だろう。遅かれ早かれ、この倉庫は大爆発……とはいかないまでも、まあ丸焼けぐらいにはなるだろう。
火炎瓶を全部投げ終えた戒斗は、無事にキャットウォークの階段を下り。そして、元来た裏口の扉から倉庫の外へ悠々と歩き出て行った。
歩き去って行く戒斗の背後で、倉庫が燃えていく。天窓のガラスがパリンと割れ、燃え広がる火が篝火の如く外界へと躍り出た。
そんな、燃え盛る炎を背に。戒斗は独り、薄ら笑いとともに消えていった。影の中へと消えていくかのように。まるで初めから、そこに誰も居なかったかのように…………。




