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Execute.118:STRIKE ENFORCER./ミッシング・エース③

 エマの希望により、途中で立ち寄った大仰なスーパー・マーケットで適当に食料品の買い出しを終えた後。それらを詰め込んだ240SXで一行が辿り着いたのは、ロス・アンジェルス郊外にある一件の邸宅だった。

 そこそこ広い庭と、併設されたシャッター付きの屋内ガレージ。家屋自体は木造の二階建てで、米国にしたら割とありふれた感じの一件だった。周囲に人家はあるもののそれほどの量でもなく、まさに隠れ家にするのはうってつけの立地といえよう。

 クララはそのガレージの傍らに240SXを突っ込むと、降りた戒斗たち二人を誘い、家の中へと足を踏み入れる。日本式と違い、当然ながら家の中も土足のままだ。

「長旅で疲れただろう。どうかな、珈琲でもご馳走しようか?」

「クララ、悪いが俺は紅茶派だ」

「あはは、僕も右に同じく」

「分かってるよ、言ってみただけだ。ちゃんと君たちの為に買い置きしてあるから、心配要らないよ。二人とも、ストレートで良かったかな?」

「頼む」

 その家のダイニング兼用のリビングで、相も変わらずエマと横並びになって腰掛けた戒斗に、クララが早速紅茶を振る舞ってくれた。

 湯気の立つ赤茶色の液体が並々と注がれたティーカップが二つ、二人が前にしたテーブルに並べられる。自分の分も置いたクララは戒斗たちの対面にスッと腰掛けると、二人とタイミングをほぼ同じくしてカップに口を付けた後、小さく息をついて、それからやっとこさ口を開く。

「どうかな、この家は。二人とも、気に入ってくれたかな?」

「悪くない」

「うん、良い感じじゃないかな?」

 戒斗もエマも、二人とも良い反応を示したのを見て、クララは「そうかい」と少しだけ嬉しそうに表情を綻ばせる。

「暫くは此処で暮らすことになるからね、家の物は好きに使ってくれて構わないよ。君らの部屋は一階で、僕は二階だ。割と防音はしっかりしてる部類の造りだからね、君らがどうしたところで、多分僕の部屋までは届かないよ」

 と、続けてクララは冗談っぽく言った後で、また何度かカップに口を付け。注いだ紅茶の半分ほどを飲み干したところで「それじゃあ、お待ちかねのお話だ」と言い、顔色を少しだけ神妙な方向へと切り替える。

「まずは、カイトにはこれを渡しておこうか」

 クララは言うと、テーブルの傍らへ雑に放置してあった茶封筒を戒斗の方へと滑らせる。それを受け取る戒斗は「これは?」と首を傾げた。

「合衆国で見つけたクリムゾン・クロウ残党の拠点、その詳細な場所と、ある程度の情報。纏めておいたから、一つずつ潰して回れば良いんじゃないかな?」

 彼女の言う通り、封筒の中身は幾つかの場所に赤いマーカーペンで印が付けられた地図やら、写真やら。そして、それらの詳細がレポートの形として記された書類が、それぞれクリップで一纏めずつにして、束になった形で収められていた。何というか、クララらしい几帳面な纏め方だった。

「地味な作業になりそうだ」

「いつものことじゃないか」戒斗の皮肉っぽい言葉に、クララが同じような皮肉で返す。戒斗は小さく苦笑いをした。

「二、三日はゆっくりすると良いよ。あんまり急に動き出してもアレだしね。浅倉やアキトに逃げられる心配は、今回に関しては少なそうだし」

「どういうことだ?」

「言葉通りの意味さ。……理由は分からないけれど、連中はかなり長いこと、この合衆国に留まってる。取引をしている様子もないし、不審だけれど。でも、好機といえば好機だ」

 ――――誘われているのか?

 クララの言葉を聞いて、戒斗はふとそんなことを思っていた。

 今まで、浅倉たちがこんな行動に出ることはなかった。あまりに不自然すぎて、まるで自分をおびき寄せているように、一種の罠のようにすら感じられてしまう。

 だが、敢えてその罠に掛かってやろうと戒斗は思っていた。虎穴に入らずんば何とやら。誘われているのであれそうでないのであれ、今回が最大のチャンスであることに変わりはない。次があるかも分からないような機会、飛びつくべきだ。

「一応、ある程度の場所には僕も直接出向いてみたけれど、君の実力なら余裕で吹き飛ばせるよ。数少ない残党どもといえ、クリムゾン・クロウも地に落ちたものだね」

「大事な部分は、全部俺が潰して回ったからな。後は浅倉さえいなくなってしまえば、放っておいても自然に瓦解する」

「違いない。クリムゾン・クロウの生き残りが大半流れた"スタビリティ"も、今はハリーのお陰で消えてしまったしね」

 ふふっ、とクララが小さく笑う。弟子のことを……ハリー・ムラサメのことを思い出しているのか、今のクララの微笑みはいつにも増して楽しげで、そしてご機嫌そうな笑顔だった。

 そうしてひとしきり微笑んだ後、クララは「……まあ何にせよ、何日かはゆっくりするといいさ」と言って、カップに半分ほど残った紅茶を一気に飲み干す。

「……っと、そうだ。一応、これを渡しておくよ」

 と、中身が空になったカップを置いたクララは、やはりテーブルへ乱雑に置かれていた小さな何かを、また同じように戒斗の方に滑らせてきた。

 クララの小さく華奢な手でテーブルの上を滑らされ、ピッタリと戒斗の目の前に滑ってきたそれは、車のキーだった。

 いや、キーという言い方は少し語弊があるか。鍵の部分を持たない、どちらかといえばリモコンといった趣のそれは、流行りのスマートキーという奴で。プッシュ式のボタンでエンジンを起動させる、今時のキーだった。

「今日から暫く、君やエマちゃんの足になる子だ。さっき見たと思うけど、あの子が今日から君たちの相棒だよ」

 クララの言葉を片耳に聞きながら、戒斗は滑り込んで来たそのスマートキーを手に取った。SRTの三文字が刻まれた、その四角いキーを。

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