Execute.113:Deux personnes ensemble./蒼と赤、二人だけの秘密
大方の用事は、すっかり終わってしまって。後はもう、帰るだけになってしまっていて。それなのに二人は何だか名残惜しい気分になって、エマと葉月はやはり
手を繋いだまま、ぷらぷらとアテもなくショッピングモールの中をうろうろと歩き回っていた。
あっちの店を覗き込めば、アレが可愛いだのこれが可愛いだの。モールの中に入っている、ちょっとしたゲームセンターのような場所に入れば、慣れない葉月が目を白黒させるのを、エマが面白そうに眺めたりして。後はなんだかんだ、とにかく、何処にでも居る女の子同士と、二人のしていることは何ら変わりなかった。
でも、それでも。そうして寄り道ばかりをしていても、車を……葉月のメガーヌRSを停めた辺りに近い出入り口は、どんどんと近づいてきてしまう。楽しかった時間はあっという間で、終わりの刻は、残酷なまでに容赦無く近づいてくる。
時間の流れというモノはあまりに不平等で、そして非情で。こんな楽しい、それこそ葉月にとっては夢のようなひとときほど、びっくりするほど早く終わりが近づいてきてしまう。相対性理論だって、色々な複雑な理屈なんか関係ない。
――――でも、今だけは。
今だけは、居るのかも定かじゃない神様に。適当な仕事で刻を司る馬鹿野郎に、それこそクロノスにでも文句の一つぐらい付けてやりたい気分だった。
分かっては、いるのだ。あまり長居はしていられないと。そろそろ、帰らなければいけないと。分かっているのに、それでも葉月は名残惜しい思いを、後ろ髪引かれる思いを、拭いきることが出来ないでいる。
――――なら、最後に此処に寄ろうか。
互いに口に出さないまま、手を繋ぎ歩く二人はふらりと、足の赴くまま気の向くままに、出口近くにある店にふらりと足を運んでいた。女性向けの雑貨が色々と置いてある、要は雑貨屋だった。
「ブランケットかあ、良いなあこれ。カイトに被せたい」
「ふかふかですねぇ」
「ねー、ふかふかだぁ」
畳んで棚に置いてあった、ふかふかのブランケット。その隙間についつい手を入れて、ふかふか具合を無意味に味わってみたり。
「わっ、カエルさんだぁ」
「……なんだか、みどりさんを思い出しますね」
「ふふっ。よく分かんないけど、こうしてあげればもっと可愛くなるんじゃないかな?」
「……ぷっ。う、腕組みしてます……!」
やったらめったらに手足の長い、カエルのぬいぐるみ。その不必要なまでに長い腕をきゅっと組ませ、エラそうに腕組みなんかさせてみたりして。
「エマさんなら、これ似合うんじゃないですか?」
「うーん、僕に帽子はなぁ」
「いやいや、似合ってますって!」
「じゃあ、葉月さんにはこれっ♪」
「わっ、私はもう被ってますからっ!!」
ニット帽やらベレー帽やら、その辺を互いにとっかえひっかえに被せ合ったりなんかもしたりして。
そんな風に、あれやこれやと雑貨屋を物色していると。店の奥の方に足を進めた時、ふと二人は互いに同じものに眼が留まっていた。
「「あ、かわいい……」」
同じような言葉を、声に出してしまったのも全く同時だった。それが何だかおかしくて、エマも葉月も、見合ってクスリと小さく笑い合う。
二人が手に取ったのは、華奢な指環だった。アネモネの花と葉があしらわれていて、それが指環に添って指に巻き付くような、そんなほっそりとした指環だった。
エマは蒼いアネモネを、葉月は赤いアネモネの花があしらわれている指環を手に取る。そうすれば、また思わず顔を見合わせて、二人はどちらからでも無く笑い出してしまった。
こんな、ショッピングモールの片隅にある雑貨屋で売っているような、そんな指環だ。宝石が埋め込まれているはずもなく、金色に見える指環自体も純金じゃなく、合金にメッキ塗装をしただけの安っぽい代物。当然、値段も超絶にお手頃で安く、葉月はともかくとして、エマにだってあまりに安すぎるような、そんな安物の指環だった。
でも、その小さな指環を。それを二人で同じように、可愛いと思ったこと。それだけは、紛れもない事実で。どんなに安っぽくても、その事実は歪むことはなくて。
「……買っちゃいましょうか」
「そうだね、買っちゃおうか」
二人は囁き合い、笑い合うと。それを買うことに決めた。まるで、二人だけで共有する秘密のように、クスッと楽しく笑い合って。会計の時だって、互いに小銭入れを覗き込んで「細かいのあるよー」なんてことも言い合ったりして。
そうして、エマと葉月は。二人は、二人だけの宝物を手に入れた。そんな宝物を手に、二人はやっとこさ帰路に就く。
「…………君が楽しそうで、本当に良かった」
「葉月様にも、たまにはこんな時間が必要なのやもしれませんね……」
陰ながら二人を見守っていた、二人の不器用な騎士の気配にも気付かぬまま。こうしてエマと葉月、二人の、二人だけの秘密の時間は、漸くの終わりを迎えたのだった…………。




