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Execute.112:Deux personnes ensemble./裁くのは俺だ

 そんな二人は、彼女たちをじろじろと好色めいた風に遠くから見つめる視線に、悪意の籠もった視線に、全くと言っていいほどに気が付いていなかった。

 いや、気付けなかったといった方が正しいだろうか。ヒトの悪意に敏感な二人でも、この浅はかな悪意を感じ取ることは出来ないでいた。それは、互いに互いのことにだけ、互いの意識を傾けていたせいでもあるのだろう。或いは、単純に距離が遠すぎたからなのか。

「どうするよ、アレ」

「イケんじゃね?」

「わかる、連れとか居ねえべ?」

「居るわけねえべよ、女二人だべ? いつものパターンでチョチョイのチョイ、よ」

「んだな、今日もどうせいつもの店やろ? また二階の部屋借りれば良いんじゃねーの」

「いやいや、面倒くせーし、もう店ン中でいんじゃねーの? 皆で楽しく、さぁ」

 どちらにせよ、その二人の若い男がエマと葉月に向ける視線は、ロクでもないものだった。下卑た会話から察せる通り、見た目からしてロクでもない二人ではあったのだが。敢えてここでは、彼ら二人がどういった風貌の若者たちなのか、詳しく語ることは差し控えておくことにしよう。

 だって、何故なら――――。

「おっと、チョイと待ちなよお兄さんら」

 ――――怖い怖いお友達(・・・)が、もうすぐ傍まで来てくれていたのだから。

「ンだァ?」

 下卑た笑いを会話とともにひとしきり浮かべてから、二人の若者はエマと葉月の座るソファの方へと近づこうとしていたのだが。一歩も踏み出さない内に、前に立ち塞がった見知らぬ男に呼び止められていた。

 一瞬だった。パッと瞬きをし終えると、既にその男はそこに居た。サングラスを掛けた、黒っぽいスーツの上からファーの付いた厚手のジャケットを羽織る、そんな出で立ちをした長身の男だった。

「悪いが、あの二人に用があるなら事務所を通して貰わないとな。でなけりゃ、サインも握手もお断りだぜ。チンピラに構っていられるほど、暇な身分の女の子じゃあないんでね」

「ンだよ、ワケ分かんねえこと言ってっと――――」

 適当に脅してやれば、この手合いなら大人しく何処かに去って行くだろう。

 それぐらいの軽い気持ちで、若者の片割れが声を出した。

 ……出したが、しかし半ばにして言葉を紡げなくなってしまっていた。その男がサングラスを外した瞬間、男の双眸から視線を叩き付けられた瞬間に、全身が震え上がってしまったから。

 漏らさなかったのは、単に用を足した直後で運が良かったからだろう。言葉も出ないほどに恐怖が全身を駆け巡り、身体は石膏を注入されたみたいに動かなくなる。

 男の眼には、左眼には、よく分からない刀傷のような縦一文字のうっすらとした傷跡があった。あまり目立たない程度の、しかし確かに存在感のある、そんな傷跡が男の左眼、その目尻あたりに走っていた。

 それは、いい。問題は、その男の注いでくる視線だ。全身を震え上がらせ、凍り付かせるほどの凄まじい視線。何でそんな視線なのかは、男の眼の色を。瞳の色を注意深く窺ってみれば、明らかだった。

 ――――底がない。

 まるで、奈落の底を覗き込んでいるかのようだ。色も無く、大した感慨もなく、ただただ深い闇だけがその双眸に湛えられている。自分たち二人の生命(いのち)になんて、欠片も価値を見出していないかのような色だった。それこそ、今にも自分の首と胴体が、一瞬の内にバッサリとお別れしてしまいそうなぐらいに。

「――――おっと、いけませんな。わたくしの方にもお話を通して頂かなければ、困ってしまいます。アポイントメントもなしに面会ともあれば、本日の予定に大幅な狂いを生じさせてしまうことになりますので」

 と、また別の声。背後にもう一人の、今度は少しばかり更けたような声だった。口調こそへりくだって丁寧だが、やはり底の知れない闇を湛えた声だった。

「悪いな、この馬鹿二人をシメるのは、アンタに一任するよ」

「ええ、その方が宜しいでしょう。貴方様は万が一に備え、引き続き」

「分かってるよ、言われなくてもな」

「こちらも、すぐに終わらせますので。何、少しばかりお灸(・・)を据えてやるだけですから、そう時間は掛かりません」

「どうぞどうぞ、ごゆっくり」

 目の前に立つ、若い方の男が気怠そうに肩を竦める。そして、

「……さあ、アポイントメントの調整を致しましょう。何処か、落ち着いたところで」

 二人の若者は、後ろに立つ老けた声の男に、ポンッと肩を叩かれた。死神が、その鎌の切っ先を首筋に押し当てるかのように。

「――――大丈夫ですよ、すぐに終わります故」

 へりくだった声音とは裏腹に、それは死刑宣告に等しい色をしていた。

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