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Execute.110:Deux personnes ensemble./愛、胸に抱く想いはただ一人だけに

 そんな風に、遠くから見守る二つの視線があることはいざ知らず。迷った葉月は結局、エマに勧められるがまま、スカートを二色も買ってしまっていた。ちなみにエマの方も傍らで紙袋をぶら下げていて、自分の分のロング丈なカーディガンを確保している辺り、ちゃっかりしているというか何というか。

 とりあえず、これで服の方はひとまず完了だ。完了だが……ここに来て、エマは大事なことを失念していたことに気付いてしまう。

「葉月さん、今履いてる奴以外でさ、靴下にタイツにストッキングに……とにかく、その類って持ってるの?」

「一応、一応は」しどろもどろになりながら、葉月が答える。

「あ、でも本当に一応レベルなんです。……あ、でも足袋の形をした靴下は、結構持ってるんですよ? おうちでぼんやーりしてる時は、足袋だと堅苦しくて。結構、そんな感じの靴下で誤魔化してるんです」

 ひとしきり言い終えた後、えへへ……と、葉月は何だか照れくさそうに笑う。そんな葉月に、エマは心の赴くままにパッと飛びつき、抱きつく。

「うわーっ、可愛いっ。葉月さんかーわいいなぁ」

「ひゃああああ!?!? え、エマさんんんん!?!?」

「ほら、ほら! ぎゅーってするとすっぽり収まっちゃった! 髪もサラッサラ! あーもう可愛い! 持って帰りたいっ!!」

 と、ひとしきり撫で倒して楽しんだ後で、エマは取っていた葉月のキャスケットをスポッと彼女の頭に被せ直して、

「それじゃあ、靴下も探そうよっ。丁度あそこに、靴下売ってるお店もあるしね♪」

 なんて言うと、葉月に抱きついたままの格好で遠くを指差した。

 葉月が視線を向けると、確かに彼女のほっそりとした長い指が指し示す先には、靴下の専門店があった。若い女の子向けの、可愛らしい奴を多く取りそろえたような店だ。

「あ、はいっ。じゃあ行きましょうか」

「うんうん、行こう行こうっ。ごーごー、れっつごーだよー!」

 手を引かれ、葉月はご機嫌なエマとともに靴下の店に入っていく。

「……凄いですね、この加工。正に職人芸といったところでしょうか…………」

 と、店の裏事情を何となく把握している葉月が、並べられた靴下の、地味ながら高い技術力に割と真面目な方向で感心している傍ら。少し眼を離した隙に、エマは店でも少しだけ離れた一角……メンズ用の棚の方へ、ふらふらと近寄っていた。

「あら、エマさん?」

「ん? あ、ごめんね。ちょっと、折角だしカイト用のも探しておきたくてさ」

 そう言いながら、エマは厚手の靴下ばかりを手に取っていく。実用というより、部屋着……という言い方はおかしいが、自宅で防寒用に使うような靴下ばかりだ。もこもことしていて、見るからに暖かそうな靴下を、エマは次から次へと手に取っている。

「カイトってば、寒いのは苦手だーって言う癖にさ、裸足でフローリングをちょこちょこ歩き回ってるんだよね。とりあえずスリッパは用意したんだけれど、面倒なのかあんまり履かないし。

 ……だから、だったらいっそ、ルームソックスでも履いて貰うかなって思って。これなら、毎回履いたり脱いだりする手間も、そんなに無いからさっ」

「あー! 良いですねぇ! 冬の板の間って、氷かってぐらいに冷たいですもんね」

「そうそう、ちょっとした拷問だよね。なのにカイト、裸足でそこら中行ったり来たりするから……」

 ブツブツ言いながらも、戒斗用のもこもこした厚手のルームソックスを選び、手に取っていくエマの横顔は、今までに無いほどに柔らかく、にこやかな笑顔でいっぱいだった。

 そんな彼女の横顔を見つめていると、なんだかこっちまで暖かい気持ちになってきて。葉月はエマの横顔をすぐ傍で眺めながら、同じように微笑んでしまう。

「鉄男さん……」

 言い掛けたところで、葉月はぶんぶんと首を横に振り。

「――――いえ、戒斗さんのこと。本当に、大好きなのですね」

 葉月が言うと、振り向いたエマはやはり笑顔だった。見る者を丸ごとひっくるめて幸せにしてしまうかのような、そんな暖かい笑顔を、彼女は綺麗な顔立ちの顔いっぱいに浮かべていた。

「うんっ! 誰よりも……何よりも。僕はカイトのことが一番好きで、一番大事で。そして……世界の誰よりも、愛してるから」

 誰よりも、何よりも。きっと、この先も変わらない。この気持ちは、この愛は。何が起こったって、揺らぐことは有り得ないんだ。





「グワーッ!! サヨナラーッ!!」

「オイィーッ!? 大丈夫か、しっかりしろォッ! 気を、気を確かに持てェーッ!」

「いや、死ぬ! 死ぬ! 駄目よアレは死んじゃう! もうだめ……」

「お前ェ! 仮にも同棲してるんだろうが! そんなんで毎日生きられるのか!?」

「……毎日が命日よ、毎日死んじゃってるよ。まして今日のは、俺の居ないところでのだからさ……あー無理、しんどい」

「踏ん張れー! 踏ん張れよ、諦めんなよォ!! 帰ったらアレ渡されるんだぞ、多分あの()から! 直接!」

「渡され……」

「起きろーッ! 寝たら、寝たら死ぬぞォーッ!」

「かゆ、うま」

「正気を保てーッ!!」

 …………そんな笑顔の裏で、一人の男が出血多量(主に鼻血)で死にかけていて。それをもう一人の男が看取っていたことを、彼女たち二人が知ることはない。

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