表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/279

Execute.11:運び屋と不穏の気配

 それから日を跨ぎ、翌日。今日もまた鉄男の仮面を被った彼は日々谷警備保障の本社ビルを訪れていたが、しかし今日の業務といえば昨日の仕事二件の報告書と、そして朝の仕事の方の不始末に関しての始末書を仕上げるのみで、正午を過ぎれば途端に暇になってしまう。

 やることもなく、かといって超特急の緊急業務が舞い込む可能性も否定できず。仕方なしに鉄男は事務所にある休憩用のソファにごろりとだらしなく寝転がり、だらだらと雑誌を読んでいた。

 読んでいるのはアメリカの愛国系の傭兵専門誌「ソルジャー・オブ・フォーチュン」のバックナンバーだ。一昔前と違いアンダーグラウンドな雰囲気は消えて棘もなく、ちょっとしたミリタリー関係の情報誌程度に留まってしまっている。有益な情報は無くは無いが、しかしずっぽり裏稼業に全身浸かってしまっている鉄男にとって有益な情報は少ない。強いて言うならば、最新銃器のレビュー記事ぐらいだろうか。米軍の動向にはあまり興味が無い。最近では刊行数減少に伴い完全電子化が為された雑誌らしいが、面倒なのでそちらまで読む気にはなれなかった。

「うーん……」

 そうしていると、相変わらずデスクワークに励んでいる禅の思い悩んだような唸り声が聞こえてくる。すると途端に禅の方から「鉄男さん、ちょっと宜しいですか」と声を掛けられたものだから、鉄男は「んあー?」と反応し、雑誌を傍らのテーブルに放りながらソファより身体を起こす。

「昨晩の狙撃任務に関してですが、何か不審な点は感じなかったですか?」

「不審な点?」禅のデスクに近寄り、彼の方に肘を掛けながら鉄男が不審げに首を傾げる。「どういうこったよ」

「いえ、どうにも昨今のブラックマーケットの動きがおかしくてですね。武器の流通量が明らかに増えているのですよ。しかも、東西問わず最新鋭の高品質な物が増えている」

「……不審な点かどうかは知らないが」

 言い掛けた所で禅が振り向くのを確認し、一呼吸置いてから鉄男は続けた。

「朝の仕事なら、連中の獲物は明らかに上等すぎたように見えるね。とてもチンピラが持ってて良いモンじゃない」

「同感です」と、禅。「こちらでも色々と確認しました。鉄男さんは存じ上げないかと思いますが、僕が掃除したフロアにはRPD軽機関銃も転がっていました」

「RPD……ソ連製の?」

 それに禅が「はい」と頷くのを見て、鉄男は更に疑念を深めてしまう。

「尤も、肝心の使い手のオツムが致命的に足りていなかったようで、ロクに使えず置物になっていましたが」

「こっちでも色々と確認してる。覚えてるだけでもSWのチーフに、中華コピーAKの五六式まで持ってやがったぜ」

「……やはりですか。それで鉄男さん、コロリョフの一件に関しては?」

「うむむむ……」

 禅の肩から肘を放し、何とか思い出そうと鉄男は唸り頭を捻らせた。何かが頭の端で引っ掛かっているような感触がさっきからして仕方ない。どうにかしてこれを思い出さねばという気持ちにも駆られて、鉄男はひたすらに頭を捻る。

「あ、そういえば」

 と、数分唸ったところで漸くハッと思い出し。そうすれば禅が「何か思い出したのですか?」とやたら喰い気味に訊いてくるから、それに鉄男は「んだ」と首を縦に振り、

「なんかよく分かんねえけど、野郎何かに怯えてるみたいだった」

「怯えていた……レオニード・コロリョフが、ですか?」

「他に誰がいるのさ」と、鉄男は皮肉っぽい口振りで禅の言葉を肯定する。

「ほんの少しの間しか野郎の生きてる姿は拝んでないから、ハッキリとしたことは言えない。ただ、明らかに何かに怯えてた」

「我々の介入が、漏れていた……?」

 考え込む禅だったが、しかし鉄男は「いや、それはない」と即座に否定する。

「漏れてたなら、向こうから何らかのアクションはあったはずだ。それにあのベンツは防弾仕様、わざわざ降りてくるような真似はしない。第一、狙われてるのが分かってて来るほど、あのレオニード・コロリョフって野郎も馬鹿じゃあねえだろ」

「……確かに」

 鉄男が説明すると、禅は一応納得してくれたような様子だった。

「何にせよ、この件はもう少し洗ってみる必要がありそうですね。朝のチンピラと武器商人レオニード・コロリョフ、何か別の糸で結ばれていてもおかしくない」

「禅ちゃん、その根拠は?」

「勘です」と、禅。

「勘か……」

「鉄男さん、勘を嘗めてはいけませんよ。

 ……まあ勘を抜きにしても、あのチンピラたちが幾らかの下請けバイヤーを通じてレオニード・コロリョフから武器弾薬を購入していたことは事実です。その方面からも改めて洗ってみるとしましょう」

 そうしていると、事務所の扉が外側から開かれ。向こう側から社長の姿が見えたものだから、禅は「おはようございます」と礼儀正しい挨拶を。そして鉄男は「おはよーごぜーまーす」とだらけた挨拶を投げ掛ける。

「はい、おはよう。今日は少ないのね、人数」

 そう言うスカートスタイルのスーツを纏う社長は、名を日々谷小百合(ひびや さゆり)といった。先述した通りにこの日々谷警備保障の社長で、ファミリー・ネームからもその事実は明らかだ。ピシッとした凜々しい雰囲気は明らかにキャリアウーマン然としていて、何処からどう見ても仕事が出来る風。禅とよく似ていて、対照的に鉄男とは正反対といった具合だろうか。

「はい」と、禅が眼鏡をクイッと押し上げながら頷く。「他の皆さんは潜入任務だったり、オフだったりですね」

「あっしも居ますぜえヘッヘッヘッ」

 と、影からぬいっと妖怪のような引き笑いで出てきたのは事務員の坂木(さかき)みどりだ。どこぞの路地裏に潜む情報屋か風車をくるくるさせてるニンジャっぽい引き笑いだが、一応これでも女性なのだ。尤も社長とはことなり、不真面目そのものといった感じだが……。

「さっきはねえ、鉄ちゃんと禅くんの絡みなんてものすごーいレアなショットを頂いちゃいましたからねえあっしは。こりゃあもう色々と捗るってモンですよヘッヘッヘッヘ」

 スマートフォン片手に物凄い下卑た笑みを隠すこともなく浮かべたみどりが何やら凄まじく不穏なことを口走れば、禅は明らかに動揺した様子でガタッと立ち上がり「ちょ、ちょっとみどりさんんん!?!?」と口をパクパクさせる。

「おっほ、可愛いなあ禅ちゃんはウヒョヒョヒョ」

「と、撮らないで! 撮らないでくださいってみどりさんっ! 嫌ぁー!!」

「口ではそう言っても身体は正直だなあウエッヘッヘッヘ」

 あたふたとする禅と、それを隙あらばパシャパシャと写真に収めるみどり。そんな二人のやり取りを間近で眺めながら鉄男が「おいおい……」と肩を竦めていれば、すると社長が「ちょっと、黒沢くん」と彼の肩を叩いて声を掛けてくる。

「急で悪いけれど、兎塚くんに届け物を頼まれてくれないかしら?」

「届け物?」首を傾げる鉄男。「構わないけど、うさぎのおっさん今は学校で教師ごっこの最中だろ?」

「その件で、ひとつ用心しておきたいと先程私の方に連絡があってね。彼の仕事道具を少しだけ、学校まで届けて貰えないかしら?」

 現在、兎塚二郎は某所にある私立高校、私立仙石寺大学・付属高等部へ数学教師として潜入中だ。どんな仕事でそんなことをやらされているのか、詳しいことは鉄男は知らない。だが彼が"用心しておきたい"と言ったのなら、相応の鉄火場が遅かれ早かれ待ち受けているのは何となく察せられた。ちなみに余談だが、別の社員の荒木伯(あらき はく)も生徒として同高校に潜入中である。また本来ならばみどりも潜入中のはずなのだが、どういうわけか今日は高校の方に有給を貰っている様子だった。理由は不明。

「ま、事情はともあれ了解だ社長。おっさんの仕事道具は用意してあるのか?」

「ええ。休憩室の方に一通り用意してある。ライフル用のガンケースと武器弾薬入りのボストンバッグ一個、それが今回君に運んで貰う荷物よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ