Execute.108:Deux personnes ensemble./心地の良い迷い道
そんなこんなで、エマと葉月は何故か手と手を繋ぎっ放しのままショッピングモールに入り、アテもなく店内をぶらぶらと二人並んで歩き回り始めたのだった。
ショッピングモール自体は四階構造で、所々が上まで吹き抜けになっている開放感に溢れた造りだ。開店してからそこまでの年数が経っていないこともあって、何もかもがどことなく新しいような雰囲気を漂わせている。ちなみに余談だが、屋上は案の定と言うべきか、駐車スペースだ。
そんな具合のショッピングモールには、名前に恥じぬだけの多種多様なテナントが軒を連ねている。服飾店や和洋中の飲食店は当然のこと、ちょっとした映画館まで入っているぐらいに、だ。変な話、此処で一日を遊んで過ごすことも不可能ではない。若者が遊ぶ場所に困るような地方都市なら、それこそ聖地の如き扱いを受けてしまうほどに。
「まずは、何から見ようか」
「えーっと……まずは、お洋服を探そうかなと思うのですっ。お着物は……その、仕事上のこともあって、それなりに数を揃えてはいるのですが。あちらばかりを着すぎていて、その、お洋服はあまり持ち合わせが無いので……」
確かに、納得だ。
初対面の時も、葉月は着物で現れていた。戒斗からちょくちょく話を聞く限り、会社に……日々谷に現れる時もそうらしい。着物が仕事着であるのなら数を持っているのは納得だし、過度の外出も憚られる立場だけあって、洋服のレパートリーが少ないのにも頷けるというものだ。
「今着ているものも、その、随分と昔に買ったものでして。引っ張り出してきたのを、なんとなーく、自分の好きなものを適当に選んでみただけなもので、これで本当にいいのかも、何というか……お恥ずかしいお話ですけれど、分からないんです」
と、葉月はやっぱり縮こまるようにして言った。よっぽど自分のチョイスに自信が無いのだろうか。その自信のなさの割に、それなりに上手くコーディネイト出来ているように、少なくともエマの眼からは見えているのだが。
「よし、じゃあ僕が見繕ってあげるよ」
かといって、本人に自信が無いのなら仕方がない。意を決してエマが提案すると、葉月は「良いのですか?」と訊き返してきた。エマはそれに「うんっ」と頷いてやり、
「どのみち、僕もちょっとした羽織りものが欲しかったところなんだ。だから……一石二鳥って奴かな?」
「お羽織りもの、ですか……コートではなく?」
「うん。もっと薄くて気楽な、カーディガンとかそういう感じのね」
「あ、良いですねっ。私はどうしようかなあ……」
「百聞は一見に如かず、ってね。とりあえず、入ってみてから考えようよ。えーと……」
「葉月、で結構ですよ? ね、エマさんっ?」
「……じゃあ、葉月さんっ。とにかく入ろうよ、話はそれからさっ!」
とまあ、そんなこんなでエマは葉月の手を引き、手近にあった服飾店……ショッピングモールの二階にあったそこへ飛び込んでいった。
「うーん、こういうのとかどうかなっ?」
入って暫くもしない内に、葉月が慣れない店に目を白黒させている内に、エマは早速目星を付けた一着を手に取り、それを葉月の方へ見せてくる。
「えっ、えっ、これですか?」
それは、ピンストライプ柄のふわっとしたスカートだった。裾がふわふわとしたような格好の奴で、腰の辺りには幅広な可愛らしいリボンベルトがアクセントとしてあしらわれている。ニーソックス系の長い靴下とか、タイツとか。或いはちょっと大人っぽく、ガーターベルトでも合うかもしれない。最後のはさておくとしても、前者二つは確実に似合うだろう。
「あの、私あまり脚を出さないものでして、その、大丈夫なんでしょうか……?」
葉月がやたらとしどろもどろしているワケは、エマが手に取るそのスカートが膝丈だからだろう。普段着が着物が故の抵抗というのか、膝から下を出す機会が当然のようにあるはずもない葉月が、こんな風に戸惑うのも無理ないのだ。
が、エマはそれを承知した上で、敢えて膝丈のスカートを選んでいた。完全な確信犯だった。普段やらない格好だからこそ、ここぞというときにお洒落としてやってみて欲しい、という気持ちがあったことは、エマ自身も否定できないことだった。
「大丈夫だよ、大丈夫だって! 絶対、ぜーったい似合うから!」
だから、こんな風に勢いだけで押し切る。アイオライトみたく蒼い瞳を輝かせながら、ぐいぐいと葉月に迫って、勢いのまま葉月に有無を言わさない。
とすると、葉月も段々と満更でも無くなってきたのか、「そ、そうでしょうか……?」なんて具合に、戸惑いの色が薄れていく。実際抵抗があるといえ、葉月本人にもこんな服を着てみたい気持ちがあったのだろう。
「うーん、でもカラバリあって迷っちゃうねえ。無地もあるし……っと、そうだ。葉月さんは何色が好きかな?」
「淡い色とか、後は紺色ですとか。そういった感じの、濃いめの色もアリといえばアリかも……ううっ、どうしましょう。本当にどうしましょう。迷ってしまいます、迷ってしまいますぅ……うぅ」
こんな風に葉月が優柔不断っぽく悩むのも、無理ないというか当然のことだ。何せ本人が言っていたように、こういったことには慣れていないのだから。
故に、エマとしては楽しくなってくる。段々と着せ替え人形感覚になってくるぐらいに、エマはらしくもなく我を忘れていた。
よく考えれば、こんな風に女同士で遊びに出掛けるだなんて、パリに居た頃以来かもしれない。不幸が起きて、戒斗に拾われて。それからは、ミリィ・レイスや香華、最近ではレヴィなんかとも友達として親しくして貰っているし、それに昔はクララ・ムラサメにも良くして貰っていた。
なのだが、しかしこうして女同士で楽しくショッピングと洒落込むことなんて、そういえば拾われてから今日まで、一度も無かったような気がする。それが哀しいとは思わないが、でも久々にこんな機会と巡り逢ったことに、エマ自身が無自覚の内に浮き足立っていることは、事実だった。
「……よーし、試着だ! 試着しようっ! 迷ったときはとりあえず着てみるに限るんだよ! ささ、とりあえず適当に着てみて! その間に僕がちゃっちゃと上も選んでおくから!」
「えっ、えっ、エマさん? エマさん!?」
「良いから良いから、ほらほら早く早くっ!」
戸惑う葉月を、試着室に押し込んで。何だか鼻息も荒くなってきたエマの手で、こうして着せ替え人形じみた葉月のコーディネイトが始まったのだった。




