Execute.101:New Gun, and New Order.
もぎ取った一週間の有給休暇を充足感とともに終えた後、暫くの時間が平穏とともに過ぎていった。
そうして、あのサナトリウム襲撃から三週間ほどの刻が流れる。この日は珍しく全ての業務を休止し、社員ほぼ総出で遠出をする運びになっていた。行き先は県を一つ二つ跨いだ先にある山の奥深く、日々谷の所有する訓練用施設だ。
今日は此処で、ほぼ月イチで定例の業務訓練が行われることになっている。その為に射撃場や小振りなキルハウス(=屋内突入訓練用の、小振りで入り組んだ建造物)などを備えたこの訓練施設へと赴いたというワケだ。
「黒沢くん、どう?」
そんなこんなで、今の戒斗は訓練施設内の屋外シューティング・レンジに立っていて。見慣れない自動ライフルを構え撃ちまくっている傍ら、そんな風に社長から声を掛けられていた。
「悪くない」と、射撃をやめ構えを解いた戒斗が、社長の方へ振り向きながらで答えた。
「中々に良いんじゃないか? ちょっと撃っただけの感想だけども」
「まだ発売前の新製品だからね。また仕様は変わるかも知れないけれど、黒沢くん的な現状では割と好感触、ってことで良いのかしら?」
「そう受け取って貰っても、構わない」
戒斗が銃把を握るその見慣れない自動ライフルは、訓練も兼ねてと社長がテスト用で数挺ほど用意した新型ライフルの一挺だった。なんでも葉月経由で武器商、そして政府筋から連絡があり、参考用としてメーカーから提供され入手した内の何挺かを、参考程度に日々谷の方でも試して貰いたいとのことだそうだ。
――――HK433。
今、戒斗がシューティング・レンジの机に置いたその真っ黒な自動ライフルの名だ。ドイツの名門H&K社が今まさに世に放とうとしている、最新鋭の自動ライフル。ショットショーでも話題になっている、発売前の製品なのだ。
既にドイツ連邦軍に於いて、銃身基部が熱で歪む欠陥を指摘されたG36自動ライフルの後継として採用が内定しているHK433。近頃の銃器市場のトレンドを敏感に取り入れたHK433は、他に各国から注目の的となっている。
そのHK433、ルックス的には何処か没個性的で、操作系統こそM4A1に近いが、外見的にはブッシュマスターACRや、FNハースタルのSCARに近い感じだ。ハンドガードの上下に20mm寸法・ピカティニー規格のレールを有し、左右はKeymodによく似た独自規格のHKeyのホールが目立つHK433は、パッと見では何処かSF映画のプロップガンのようだ。
動作方式はショートストローク式のガスピストン、銃身は長さが幾つか選べるようだが、戒斗が撃っていた奴は汎用的なカービン寸法の十四・五インチの物らしい。最近の流行に漏れることなくマルチキャリバー方式で、こちらも戒斗の物は一般的な5.56mm×45NATOのカートリッジがチョイスされている。
「悪くないが、ボルトリリースの位置だけは正直、俺としては頂けないところだ」
そう言いながら、戒斗は再びHK433を構え直し。抜いた空弾倉の代わりに新しい三十連発の弾倉を左手で差し込む。
「それって、つまり?」
「両利き対応なのは良いが、人差し指で押す位置なんだ。マグウェルの近くで、AR-15ならマグキャッチがある場所に感覚としては近い。何となく押しにくいし、マグと間違えてボルトを閉鎖しちまいそうで怖いんだ」
首を傾げる社長へ簡潔に説明しつつ、戒斗は見せつけるようにHK433を傾けながら件のボルトリリース・ボタンを人差し指で押し込み、話にあったことを実演してみせる。ガシャンと熟れないような、新品めいたぎこちない音を響かせてボルトキャリアが前進するのを横から見れば、社長は「なるほどね」と納得したみたいに頷く。
「……けど、コイツがサムレストになるのは悪くない。構えやすいし、アングルグリップとの相性も良い」
と、戒斗は実際に構えて見せながら言った。ハンドガード下部のレールに取り付けられたマグプル製の、独特な角度の付いた形をしたグリップ。それを握り込みながら、戒斗の左手親指は確かに銃の上方にある出っ張りへと上手い具合に掛かっていた。
コッキング・ハンドルだ。G3やMP5と同じく非連動式で、位置関係的はSCARそっくりだが、レヴァーがペタッと折り畳める点は過去のG36ライフルを踏襲している。丁度そのコッキング・ハンドルが上手い具合に親指を引っ掛けられて、アングルグリップとの相性が良いのだ。
「撃ち味もそこそこマイルドで、取り回しも良い。俺としては慣れるし、実績のあるAR-15の方が何かと安心だけど、多分これなら流行るんじゃあないか?」
言いながら、戒斗は遙か遠くに見えるヒトを模ったスティール・ターゲットに向けて狙いを付ける。トップレール上に乗せたEOTechのEXPS-3ホロサイトに浮かぶ紅い光点越しに標的を捉えれば、戒斗はすぐさま引鉄を絞った。
新品の銃身から撃ち出された5.56mmの弾頭が、遠くのスティール・ターゲットに命中しカンッと気味の良い音を奏でる。その後で何発もセミオートで撃ってみるが、多少重めなライフルの重量も相まって、撃ち味はやはりそこそこマイルドで良い具合だと戒斗は感じていた。
「競合はやっぱりシグ・ザウエルのMCX、それにCZの805ブレンって所かしらね。黒沢くんなら、三つで選べって訊かれてどれを選ぶ?」
「俺ならMCXだ。慣れたAR-15に一番近いし、何よりSIGなら信頼できる」
「ホントに好きね、そんなにSIGの銃に思い入れがあるのかしら?」
「……まあ、色々とな」
何処か呆れっぽい顔の社長と言葉を交わしつつ、そのまま戒斗は弾倉を撃ち尽くすまで、真新しいそのHK433を撃ちまくっていた。




