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脱出。念願の外の世界


 ドラゴンが目を覚ますと、横でリベルが並んで眠っていた。そして起き上がって周囲を確認しながら言う。


「おい。起きろ。お前まで爆睡してどうする? 見張りの一つも出来ねぇのか」


 リベルは寝言を零すだけでそれ以上の反応が無かった。 


「おい! さっさと起きろ! リベル!」


 少し大きめの声にリベルが跳ねる様に起き上がると、ドラゴンの顔を見て返事をする。


「寝てた……」


「だから起こしてんだろうが。ったく寝すぎたか? それにしても誰も追って来てねぇってのはやっぱ不自然だな」


「うん……?」


「……なんだぁ? ただでさえ弱いおつむは寝起きになるともっと機能してねぇのか? さっさと行くぞ」


 ドラゴンが扉の前に置いた物を再び移動させようとしていると、リベルがベッドから立ち上がって言った。


「ここ一階だよ」


「何で分かる?」


「……。なんでだろう? なんとなく。たぶん壁を何枚か壊したら外に出られる。遠い記憶の中でそんな気がしてる」 


「そいつは随分と都合の良い話じゃねぇか。さすがに俺も根拠の無い話には付き合ってられねぇよ。それに敵に気付かれたらどうすんだよ」


 ドラゴンが片手で物を動かしていると、不意にその動きを止めて包帯を巻かれている左腕を見つめる。

 リベルが怪訝そうに見つめる中、するすると包帯を外していくドラゴン。

 そして床にほどき終えた包帯を捨てて言った。


「治ってやがる……」


 左腕の傷口は痕こそ残っているものの、完全に塞がっていた。ドラゴンもそれを確かめる様に手を握ったりしては腕を回したりしている。


「すごい。治ってる」


「さすがは高級薬と言った所か。足も完全に治したかったな……」


「そう言えばおにーさんは足をいたわってるね」


「お前には関係ねぇよ。さて、やるか」


 そうして全ての物を移動させたドラゴンは大きな溜息をしてから扉を少し開いて廊下を確認する。

 その瞬間、鼻を突く生臭さが部屋の中に流れ込んだ。

 比較的、扉から離れていたリベルも鼻を押さえて後退りをしながら言う。


「臭い」


「どうなってやがる……」


 ドラゴンが扉を開き切る。するとさらに臭いが充満すると同時に、もっと強烈な景色が扉の先には広がっていた。

 リベルも扉の外を見て思わず呟く。


「みんな死んでる……」


 鼻を突く臭いは死臭だった。ドラゴンは突如リベルの手首を掴むと、走り出した。

 廊下のあちらこちらに血痕が広がり、床は大量の血液が流れ、その上に無数の死体が転がっている。そんな中を二人は死体を飛び越える様に走り抜けていく。


「急にどうしたのおにーさん」


 走りながらもリベルは聞いた。


「どうしたもなにもこれだけの大量殺戮が壁の向こうで行われていて、俺達はその事に気付きも出来なかった。ろくに音も立てずにそれだけの事をしやがる奴がまだ近くに居るんだ。嫌な予感しかしねぇよ」


「その人の目的は?」


「分かる訳ねぇだろう! ここは一階なんだよな!? 確かに見覚えのある場所に出て来たような気がする。出口に急ぐぞ!」


 ドラゴンがリベルの手を掴んだまま、先陣をずっと走り抜ける。

 行く先行く先で絶えず死体は転がっていた。


「たぶんここの連中は全滅してるな。なんだって言うんだ……」


「じゃあ安全に抜けられるね」


「お前のその前向きな考え方には感心するぜ。……出口だ!」


 ドラゴンはここを最初に訪れた時に確認した玄関を見つけ、外まで一気に駆け抜ける。

 そして真っ先に声を上げたのはリベルだった。


「外!」


 玄関から出た先は運動場のような場所で、そのまま正面先に外門があった。また運動場はブロックの塀で囲まれており、そのブロックの塀の外は木々や植物が生い茂っていた。

 二人はそう遠くない外門に辿り着くと外に脱出し、アスファルトで整備されたくねくねした道を走り続ける。

 リベルは少し楽しそうに、遠くなっていく洋装の屋敷を見ながら言った。


「おにーさんはどうやって侵入したの?」


「植物の中掻い潜って屋敷の横から入ってやったんだよ」


「ザル警備って言うやつだね。でもなんでそんなに警備が甘かったんだろう」


「お得意の考察はもういい。興味ねぇ! そんな事より近くにバイクを止めてある! 後ろに乗れ!」


 ドラゴンがそう言ってすぐに、道路の端にバイクの置いてある場所に辿り着いた。

 リベルは興味深そうにバイクを観察する。


「確かバイクって貴族の乗り物って本に書いてた。おにーさんって貴族なの?」


 ドラゴンはバイクのエンジンを掛けながら返事をした。


「……貴族か。俺には関係ねぇな。こいつはその貴族から拝借したんだよ」


「盗んだ?」


「うるせぇな。さっさと乗れ!」


 ドラゴンはバイクにまたがり後ろを親指で指差しながら言った。

 リベルがバイクの後ろに座ってすぐにバイクを発進させる。


「きゃー!」


 初めて体感する速度に悲鳴を上げバランスを崩すリベルの手首を、ドラゴンは片手で掴むとそのまま腰に手を回させるように誘導する。

 リベルもすぐに慣れたのか、新体験に嬉々として言った。


「坂多い! 木いっぱい! ここ、山!? これ山の香り?!」


 後ろで何かを言っているのは聞こえるが風の音で何を言っているのかまでは分からないドラゴンはリベルを無視してひたすらバイクを走らせた。

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