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少女の観察眼




「お前ここに閉じ込められて居たんだろう? ここの場所の事、何も分からねぇのか?」


「分からない」


 小さな声で会話をする二人は、通気口を四つん這いになって進んでいた。男が先導を切って進んでいるが、中はかなり窮屈なのか、眉間にずっと皺を寄せている。


「しっかしよー。あんな所で十年近くも閉じ込められて居たら、俺なら舌噛んで死ぬわ。言葉はどうやって覚えたんだ?」


「本」


「あー。それで知識が偏ってる訳か」


 男が進んでいく中、少女は歩みを止めた。男もそれに気づいたのか、首を辛そうに曲げて背後を確認する。


「なんだ?」


「おにーさん。閉所恐怖症?」


「あぁ? 別に怖かねぇよ」


「そっか。口数が増えたから緊張してるのかなって」


 男は少しイラついた様子で返事をする。


「あぁ? なんだ? 馬鹿にしてんのか?」


 怒り気味の男に対して、少女は表情を崩さなかった。


「無理しない方が良いよ」


「逆にいつ殺されてもおかしくないこの状況で緊張しねぇ奴なんか、いねぇだろうが」


「でもさっきまでとは違ってここに来てから特別余裕が無いように見えるよ。それにここに入るのも躊躇ためらってた」


「うるせぇ! あまりガタガタ抜かすと殺すぞ!!」


 男は狭い空間で手を振り上げて床を叩いた。金属で出来た通気口が音を立てて振動する。

 少女は黙り、震えている男の足へ視線を落とした。

 そこで男は冷静になったのか、自分の頭を掻きながら言う。


「観察力だけは褒めてやる。だがその観察力がいつでもお前の味方をしてくれると思ったら大間違いだぞ」


「分かって……る。……だから私は閉じ込められていたんだと思う」


「あぁ?」


 男はそこで首が疲れたのか、視線を前に戻しながら適当に流すように返事をした。

 少女は少し俯いていたが、すぐに前を向いて言う。


「ねぇ……おにーさん」


「なんだ」


 めんどくさそうに返事をする男。


「本来、通気口は人が通る事など想定して作ってない」


「それがどうした? だから今、俺は窮屈な思いをしてんだろうが」


「そうじゃなくて……。さっきからおかしいよ、ここ。埃やすす、汚れも少ないしあまりにも都合が良いように整備されているような気がする」


「言ってる意味が分からねぇよ。もっと分かりやすく言え」


「だって普通の通気口ならもっと汚れていて、ネジとかが露出していて危ないよ」


 男は少し黙り込んで考え込んだが、納得の行く答えが出せなかったのか、少女に続けて問う。


「だから何が言いたい?」


「ここは罠だと思う。落とし穴があったくらいだから不思議じゃない」


 男は突然に襲い繰る焦りを隠し切れない様子でさらに聞いた。


「だ、だったらどうしたら良いんだよ」


「分からない。でも既に罠に掛かってるかも……。さっきおにーさんが床を叩いた時に、床の下から人の声が聞こえたけど、その声は突然の音にびっくりして声を潜めましたって感じだった」


「って事はあれかぁ? この下には既に敵が居るって事か?」


「うん」


「しかも俺達に気付いて、下で様子を見ているんだな?」


「うん」


「だったら裏を掻けば良いんだよ」


「え?」


 男は腰に掛けていた歯車を手に取ると、出せる限りの力で床に叩き付けた。歯車から刃が飛び出し床を貫通した所で、男は歯車を手前に引き、金属の床を切り裂く。

 そしてその切れ目へ男は再び歯車を叩きつけると、一気に穴が広がり、男が下の階へ転がり落ちた。


「なんだこいつは!? 罠に掛かってあのお部屋に向かっていたのではないのか!?」

「天井をぶち破りやがった! 罠だと見抜きやがったんだ!」


 困惑する二人の人物。

 そして男が天井を突き破った衝撃で、スプリンクラーから大量の水が放出される。

 そこは必要最低限の机や椅子、そしてパソコンが設置されているだけの部屋だった。スプリンクラーからの水はそれらの機材をあっという間に水浸しにしていく。

 男はすぐに立ち上がると銃口を向ける一人の人物へ素早く飛び掛かり、拳銃を蹴りで弾き飛ばし、歯車を首に突き刺した。そのまま悲鳴を上げる事無く倒れて行くその人物を男は掴み、もう一人の人物との軌道上へ捨てる。

 するとその死体が盾になるように銃弾から男を守りそのまま死体が地面に倒れ込んだ時には、もう一人の人物が男によって地面に捻じ伏せられたいた。


「死ね」


 男の歯車が頭を貫く。

 天井裏から見下ろす少女へ男は視線を向けると、拾った拳銃を少女目掛けて投げ捨てる。


「持っておけ。そいつの扱いは今見たんだろ?」


 少女はびしょ濡れの拳銃を、手の上であたふたとしながらも抱える形でキャッチすると、その拳銃をしばらく眺めてから返事をした。


「うん、見た」


「だったら説明はいらねぇな。行くぞ」


 男が歩みだそうとするが、少女は動かない。


「雨……?」


「じゃないのは分かってるんだろうが? めんどくせぇな」


「降りられない」


 男が返事に困っているとすぐ近くのパソコンが目に入る。そこには少女の写真と共に、少女に関する情報がつづられていた。

 男は少女への返事を忘れてそのパソコンを覗き込むと、


「リベル……」


 少女の名を口にする。

 そこでびしょ濡れのパソコンの画面が静かに消えた。


「なに?」


 天井から返事が返って来る。


「なに? じゃねぇよ。飛べ。着地の仕方くらいちゃんと見なくても想像できるだろうが」


「……」


 リベルはしばらく黙り込むと意を決して飛び降りる。

 そして溜まっている水の上に着地し、男同様にびしょ濡れになって言った。


「行けた」


「当たり前だろうが。めんどくせぇ。さっさと行くぞ」


 二人はこの場を足早に去って行く。

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