電球男
異様に大きく膨れ上がった頭は、羞恥と怨嗟の重苦しい瓦斯で満たされていた。彼はその軽い様で酷く重い頭を、暗いリビングの机の上に突っ伏して過ごした。
一日の大半は自分を見捨てた人間達を妄想の中で甚振ることに費やした。そして、その際限なく流れ出す厭らしい期待が、彼の脳の抵抗を受けて激しく発熱し、青白く白熱した。涙も瞬く間に蒸発した。
或る日遂に、熱に当たり続けた彼の頭皮はぶくぶくと音を立てて沸騰した。爛れた皮膚が机に流れ落ち、頭皮の下からは透明の頭蓋が露呈した。
およそ人間らしい機能を失った頭の中は、厭らしく澱んだガスの中でフィラメントと化した脳が激しい熱と光を放っていた。
電球になってから幾日か、既に数年経ったかも分からない。突然彼を捨てた妻と息子が帰って来た。電球は激しく光を放ち彼女等を威嚇した。
彼に残酷に甚振られた彼女等の顔からは、警戒や怒りは窺えない。寧ろ憐憫と後悔で青冷めていた。
鼻白むと同時に、涙が溢れフィラメントを濡らした。彼は虚弱な最後の暖光で家族を照らした。徐々に光を窶す彼を、彼女達は祈るように見守った。
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