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情報


そして1時間が経った頃だった。やっとのことで積山書店の目の前まで来た。



僕は車の免許を持っているが、車や原付を買える金はないので外での移動は大体徒歩で済ましているのだ。




積山書店は年季を感じさせる木造で看板も錆びて文字が見えなくなっていた。ドアは開きっぱなしで、店の目の前にはいくつかの子供用の自転車と傘立てが置いてあり、子供たちが出入りしている。



外見でいうと書店というより駄菓子屋のように見えるのだがほんとにここで合っているのだろうか...?



中に入ってみると子供の時によく食べた10〜30円程のお菓子が置かれてる棚がいくつかある。棚と棚の間は大人1人がギリギリ通れるくらいで、肩などが当たってお菓子たちを落とさぬよう慎重にくぐり抜ける。



すると何百冊かの本が並んでいる棚に辿りついた。

なるほど、ここは駄菓子屋でもあり本屋でもあるのか。



すると横から



「お、もう来たのかい兄ちゃん」



20代後半、または30代だろうか、黒い髪に左側を刈り上げられサングラスをかけているちょいワルオヤジ風のおじさんに声をかけられた。



「あの、先ほど電話をいただいた一茶ってものなんですが、ここって積山書店でよろしいんでしょうか?」




僕はマスクを右手の指先で鼻の部分を掴み、クイッと持ち上げる。人見知りのため人と接する時は少しでも顔を隠そうとして身についた癖だ。




だが相手は初対面で年上のため、礼儀として僕はマスクを外しポケットに雑に詰め込む。



「あい、ご名答。その通りここは積山書店。そしてわたしが積山 塵というものだ。みんなからジンさんと呼ばれてるよ。だからジンさんって呼んでね」



そのジンさんという人はニヤリとこちら見つめた後、目線を外し「千里ちゃーん!ちょっと僕チン出てくるからあと頼んだね!」と少し大きめの声で叫んだ。



するとどこからか黒髪でポニーテールのスーツを着たお姉さんが無言で出てきた。



この人が電話をしてきた人かな?と考えていたら



「彼女は歩道 千里ちゃんだよ。彼女、随分美人だろ〜もうすぐ30ちゃい!」



ブンッ

横から目覚まし時計がジンさんの頭に向かって飛んできた。それを見事にキャッチして(千里ちゃんもこの人もこわっ!)なにもなかったかのように笑顔でコッチを向き



「ま、兄ちゃん、こっちにおいで。そっちの姉ちゃんもね。」


そう言いながらジンさんは店の外に出て行った



「...!」


やっぱりこの人も日傘が見えるのか

僕と日傘は驚いたのを確認し合うように目を合わせた



見た目は胡散臭いのでまだあんまり信用できないが僕と日傘はジンさんについていくことにした。



日傘は納得してないようにジンさんを後ろから睨み付けている




「まあまあ、姉ちゃんも兄ちゃんもそんなに警戒しないでよ。別に2人に悪さしようってわけじゃないんだからさ」

「うるさい。わたしはね、あんたみたいな胡散臭いジジイは大っ嫌いなんだよ」

「おーこわいこわい」



とジンさんは首を横に振りながら軽く日傘の毒舌をうけながした。



「さーこっちにおいで」



僕たちは店の裏にある土壁でできた古い家に招かれた。

中は冷房で涼しくしてあったが壁に穴が多数あいてあり、蟻や蜘蛛が出入りしていた。



奥の部屋には机とその周りに座布団が置いてあり、上座の方にジンさんは座って「どうぞ」と僕ら2人を下座に座らせた。



「さて、せっかく来てもらったんでね、話をしようか」



とジンさんは僕ら2人を交互にみながら



「ところでさ、最初からずーっと質問したいことがあったんだけどいいかな?」

「はい」

「あの〜そこの姉ちゃんってなんで...足がちゃんとあるのかな?」

「え?!」



ジンさんは少し困った顔で僕の顔を見ていたが困ったのは僕のほうだ




「あ、あのっ、幽霊って普通足があるんじゃないんですか?それにこいつ、日傘は僕に触れることができるんです。僕からは触れないけど」

「いや〜この仕事もう始めて7年くらいになるけどそんなのは聞いたことも見たこともないよ〜。ていうか兄ちゃん、せっかくこんな美人さんがいるのにそれは寸止めだね〜わたしだったら発狂しているよ」



ジンさんはケケケと笑いながら答える。



どういうことだ?

日傘は他の幽霊と違うのか?



そして疑問だらけの僕はとりあえずジンさんに日傘がお腹が減ること、その時僕に憑依させて僕のかわりにご飯を食べている等々の他の幽霊にはなさそうな情報を話した。



「ほう...」



ジンさんは興味深そうな顔しながらアゴヒゲを触り、その後少し考えるような素振りをした



「まずひとつ云うとね、幽霊がお腹をすかすというのはあり得ないことだね。」

「ですよね..」

「そもそも幽霊っていうのはね、エネルギー体に近いものなんだよ。兄ちゃんは魂の質量というものを知ってるかい?」

「噂で聞いたことがありますね。確か21g...ですよね?」



日傘が「噂じゃなくてネットだろ?噂話する友達いないくせに」と笑いながら小突いてくる



噂だもん。パソコンも友達だし



「その通り、21gだ。人の死の直前と直後の重さの差だね。つまりだ、魂と言う名のエネルギーが存在している。このエネルギーが人間という器を出たことによって、人体の干渉を受けず、直接自然のエネルギーを吸収することができるんだ。」

「ということは人間のお腹が空くというエネルギーを欲している現象は幽霊にはないってことですね?」

「ご名答だよ。さすが兄ちゃん、理解がはやいね〜。そこの姉ちゃんは...ちょっと残念みたいだけど」



ヒヨコを頭の上で飛ばしてる日傘が隣にはいた。どうやら今の会話だけでグロッキーのようだ



ただ...どういうことだ?日傘は実は幽霊じゃないのか?でも僕には触れないし幽霊以外であるとも思えない。


そうやって僕が悩んでいると




「ハハハッ、まぁ安心しなよ。そこの姉ちゃんはちゃんと幽霊だよ。僕にも大体予想はついたよ」

「...! ほんとですか!?」



さっき見たことも聞いたこともないとか言ってたくせにどういうことだ?




「だけどね、残念なお知らせがあるんだよ。」

「残念なお知らせ...?」

「うんそうだよ。まずね、わたしには姉ちゃんを成仏させることができない。んでもって千里ちゃん、彼女は退治専門なんだけどね、退治することもできないんだよ」

「どういうことですか?」



僕はゴクリと唾を飲み込んだ。そういえば緊張のせいで喉が乾いているのを忘れてた



「んーとね、姉ちゃんはおそらくだが...いや、やめておこう。」

「ちょっと!茶化さないでくださいよ!」

「ダメだよ。そうやって答えをすぐ知ろうとして楽するのは若い子たちの悪いクセだ」



こっちにグッと指をさしながらジンさんは言った



若いとか関係ないだろ...と少し苛立ちを覚えながらも僕はだまって話を聞くことにした


「いい子だ。今この話をすればね、君はすぐにでも行動するだろう。でもね、こればっかしはおそらく姉ちゃん自身の問題で姉ちゃん自身にしか解決できないことだよ」

「どういうことだよおっさん!」



今まで静かだった日傘が急に机をバンッと叩いて立ち上がり、叫びだす



「わたしはもう死んでるんだ!私自身の問題ってどういうことだよ!」

「姉ちゃん、君には本当に覚えがないのかい?」



さっきまでヘラヘラしていたジンさんは急に真面目な顔をして、ギラリと鋭い眼光を日傘に向け、少し声を大きくした



「君が1番わかってるんじゃないかなぁ?君が今なぜ幽霊なのか、そしてなぜ一茶君の隣にいるのかを!」

「!」



今僕の名前を呼ばれたか?どういうことだ?




すると日傘は力をなくしたようにペタリと座布団の上に座りこんだ





「わたしはなにもわかんない...。わたしが死んだ時のこと、全く覚えてないんだ...。それに生きてる時の記憶チラホラとしか...」

「...そうかい。そりゃ悪かったね姉ちゃん。わたしも少し取り乱してしまった。」


ジンさんはほっぺをカリカリと掻きながら反省の顔を見せる。

そして少しの間沈黙が流れた。



「あ、そうだ一茶君」

「は、はい?なんですか?」



急に名前で呼び出すなよ...びっくりするだろ...



「答え。知りたいならちょっと提案があるんだけど。」

「?」










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