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変化



ガチャッ


家の鍵を閉める。あれから大家さんに連絡してこっぴどく怒られながらも業者に頼んでもらい、ドアを直してもらった。



新しいドアなのでやはり前のように引っかかって30分ほどドアの前で戦い続けることなくスッと鍵を閉めることができた。




向かう先は七重さんがいるバーだ。日傘と話し合って七重さんを救うことにしてから一週間。毎日「Octet」に僕らは通っている。



Octet付近にあるどの店も何年か前に閉店しておりここらへんは人通りがあまりない。



もう見慣れてきた静かな細い道を進みコッコッと自分の足音だけが鳴り響く。路地裏に入って目印である点灯していない「ジャズバーOctet」の看板を探す。



「おっと、ここか」


周りの建物で太陽の光が遮断されており少し暗く見えにくいため、ちょっと通りすぎてしまったが目印の看板をみつけドアの取手を掴んでまわし中に入った。




少し暗めの道を歩いて目が慣れたため、店の中に入っても真っ暗で何も見えないということはなかった。昨日と同じようにステージで七重さんが立っている。



「こんにちは。今日も来ましたよ七重さん。」



返事をされないことをわかっていながら挨拶する。日傘もだいぶ慣れたみたいで「やっほー」と挨拶した。



さて今日はどうしようか。



「この一週間いろいろと話しかけたり踊ったりしてみたけど、なんにも反応なかったよね〜。ま、目が聞こえないし耳も見えないからあたり前なんだけど。」

「おい、目と耳が逆になってるぞ」

「えへへ、わざとよ。」



日傘は歯を見せて笑いかけてくる。まるで天使みたいだ。いや、みたいだではなく現在進行形だから天使ing(てんしんぐ)だ。


僕は頬を赤らめた。



日傘はどうやら慣れるというよりも友達になるというイメージで接してるらしい。そのため七重さんに対して言葉遣いが少しみだれている。




「今日は八重ちゃんにお触りできるか試してみようか!」

「異議なし!!!!」




ドゴッ



まるで風の様に素早く返答した僕はまるで風の様な日傘の強烈な飛び蹴りを喰らい七重さんの方に飛ばされる。



この勢いを利用して事故に装い七重さんのおっぱいに照準を定める。



僕は断然足派だ。もし足かおっぱい、どっちかを好きにしていいよーと言われれば確実に足を選びぺろぺろするだろう。だがしかし、僕はおっぱいもちゃんと大好きだ。七重さんの足は煙化されてるため選択肢は一つしかない。


僕は近づいてくる地面をドンッと蹴って軌道を修正し、童貞なる僕は全神経を両手に集中させ、七重さんのダブル富士山に手を伸ばす。



近づくおっぱい。綺麗な人のおっぱい。柔らかそうなおっぱい。



いざ、楽園へ!






「...アレ?なんか硬いぞ?」



完全なる誤算だった。触れる前提だったのだ。なんと通り抜けてしまったのだ。



ドンッ!ガシャガシャン!ゴロゴロ!



飛んだ勢いで僕は激しく転んだ。無念。



「あたしにも触れないあんたが触れるわけないでしょ」



日傘はため息まじりにそう云って、自分も触れるか確認しようとする。

しかし、日傘は動きを止めた。



七重さんが動きだしたのだ。僕の転んだ振動で自分以外に何かいると気づいたのだろう。だれかいるのかと顔をキョロキョロしている。



「大丈夫よ、八重ちゃん」


と日傘は安心させようと肩に手を置こうとするが通り抜けてしまった。どうやら同じ幽霊の日傘でも触れないみたいだ。




七重さんは「あぁ...ぅぁ..」と声を出しながらキョロキョロししている。唸り声だったが元の声は透き通るような声だと感じさせる綺麗な声だった。



するとその唸り声がだんだん大きくなっていく。



「...ぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!」



そしていつの間にか叫び声に変わり空気が震える。耳が聞こえなくて制御できないのか狂ったようなハイトーンで叫んでいた。



ズキッ



...なんだ?


胸辺りが少し痛みを感じた。まるで心臓を締め付けられるような痛みでだんだん強さが増して行く。



ズキッ、ズキズキッズキッ!



もう呼吸が難しくなるほどの痛みになっていた。



「うっ...あっ...」



どうやら日傘も同じことが起こったみたいで胸を抑えながらうずくまっていた。僕はマズイと感じ必死に立ち上がって日傘の方に向かった。




「...日傘っ!...立ち..上がれっ!...出る..ぞ!」



七重さんの叫び声に消されぬように僕も今出せる1番大きな声で叫んだ。


日傘は僕の声に気づき必死に立ち上がって僕についてくる。そして壁で足手まといの身体を支えながらドアをバンッと開け外に出た。


七重さんの声は聞こえなくなり、少しずつ痛みがひいていく。



「くそっ」



僕は壁をドンッと叩く。


考えが甘かった。僕らは成仏させることしか考えてなかった。どうにか意思疎通の手段を見つけ七重さんがして欲しいことを聞いて実行すれば解決するんじゃないかとおもっていた。



だけど、だけどもし意思疎通の手段を見つけたとして、成し遂げたいことがあんな姿にさせられた相手への「復讐」だとしたら?



千里さんは悪霊じゃなければ退治できないといってたけど、それは意思疎通ができないから悪霊かどうかわからないだけで、もし七重さんが悪霊だとしたら?



日傘は痛みはなくなった筈だが、まだ胸をおさえて黙っていた。


さっきのは下手したら日傘は魂が消滅して、僕は死んでいたかもしれないという想像が頭をよぎる。



僕は拳をギリッと握りしめた。



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