心配、心配
「先輩・・・大丈夫ですか?」
「何が?」
通学路、開口一番に根黒はそう聞いてきた。
「なんというか、いつにも増して陰気ですよ、顔が。」
「気のせいだろ。ていうか何げにいつも陰気な顔してるみたく言うんじゃねぇよ。」
「バレましたか。」ふふふと笑い「まぁ先輩が陰気でヘタレでダメダメなことはいつものことですしね。」
「罵倒しすぎだろ、先輩を・・・。まだお前と会ってから三日しか経ってねぇぞ。」
出会って三日のひとつしたの後輩にいいように罵倒される僕。
「そういえばそうでした。それより栞先輩は?」
「ああ、今日も早く行くってよ。今朝メールきてた。」
ほら、と携帯を見せる。根黒は明らかに嫌そうな顔をして
「・・・今日は陰気先輩と二人きりですか。」
「誰が陰気先輩だ。」コイツはいちいち一言多い。
「しかし、これは好都合ですね。」根黒はこちらを見上げる
「好都合って、何が?」
「もちろん、昨日の話の続きです栞先輩のことです。」
突然激しい頭痛に襲われ僕は思わず立ち止まる。今日見た夢を思い出す。真っ暗な闇闇闇。
「・・・先輩?どうしました?」遅れますよ。と根黒。
「ああ、なんでもない。」
僕は再び歩きだす。顔がこわばってうまく笑えなかった。根黒も慌てて付いてくる。
「陽斗先輩?ほんとに大丈夫ですか?」
少し不安げな表情で見上げてくる根黒。
「大丈夫だって。それより、早く学校行こうぜ。二日連続遅刻なんて嫌だからな。」
僕は足早に歩き出す。根黒は腑に落ちなさそうだったが、黙ってついてきた。結論から逃げているとはわかっていたけれど、今は何も話したくなかった。僕は根黒の言うとおり、ヘタレでダメダメなやつなんだと実感した。
「どうしたよアッキー。くらぁい顔しちゃってさ。」
お察しの通り佐伯だ。昼休みの教室で、佐伯は僕の前の席の椅子に後ろ向きに座っている。
「それもう朝聞かれた。」僕はため息をつく。頭痛はいつの間にか治まっていた。
「へぇ、誰に?彼女さん?あの黒髪の可愛い子?それとも5組の松井かな?」ニヤニヤしながら聞いてくる
「どっちも彼女じゃねぇよ!」
こいつは完璧僕をからかって遊んでいる。分かってはいるのだが、あまり友達のいなかった僕は冗談が苦手なのだ。
「それにしてもなぁ。あんな可愛い子一年にいたんだな。」
「最近引っ越してきたらしいよ。あいつも。」
「ふぅん?・・・聞いたことないな。」
「そりゃ一年のことだしな。知らなくて当たり前じゃないか?」
「んん。まぁそうなんだけどな・・・。」珍しく難しい顔をしている佐伯「あんな可愛い子、俺が見逃すかな・・・。」
「お前・・・。」こいつも僕と同じくらいだめな奴な気がした。
「正弘―。このプリント先生のとこ持ってっといてー。」
女子の声と共に大量のプリントが僕の机の上にバサっと置かれる。さっきの授業のプリントだ。たしか、今日読んだ教材の感想やら自分の思う要点やらをまとめろってやつだった。
「えぇ。こんなに?嫌だぞ俺。自分で持っていけよ愛美。」
「嫌よ。重いもの。」愛美と呼ばれた女性とは明るい茶髪の女生徒は続けて「どうせ暇でしょ?」と言う。
「超忙しいよ。俺はアッキーと話してるんだよ。」
「ぜんっぜん忙しくないじゃない!」
そしてこちらを向いてにこっと笑うと
「そういえば、自己紹介してなかったよね。私は津田愛美、陸上部よ。コイツとは幼馴染なの。よろしくね。」
幼馴染・・・。栞のことを思い出してズキっと頭が痛む。
「・・・?どうかした?野村くん。」
「いや、ごめん。なんでもない・・・です。」
「なんで敬語?」
津田が首をかしげると佐伯が突然僕と津田の間に割り込み
「お前が怖くてアッキービビっちゃっただろうが!」
「なっ・・・私のどこが怖いのよ!?野村くん!」
津田がバンッと机を叩く。プリントが落ちる。
「ヒッ!?」
声が裏返った。ほんと僕はビビリだ。それにしても女子だというのにかなりの強さだ。・・・じゃなくて
「い、いや、怖かったわけじゃな・・・佐伯!余計なこと言うなよ!」佐伯はニヤニヤしている。
「じゃあなんで敬語なのよ同級生なのに。」
「えっと、それは・・・。」
「だからお前が怖かったんだって。」
「正弘うるさい!あんただって野村くんに引かれてるじゃない!」
「はぁ?ひかれてねーし!」
「だいたいあんたはいっつも・・・」
目の前で繰り広げられる言葉の応酬についていけず、止めようかどうか迷っていると、後ろから手が伸びてきた。