友達、手紙
「なぁなぁ。アッキー!アッキーってば!」
「・・・」
あくる日の授業後、僕がいつも通り帰ろうとすると、佐伯が僕のとなりの机に腰掛けて、足を上げて行く手を阻まれた。
諦めて遠回りしようとすると、器用に体を回転させて阻んできた。ナニコイツ。
「アッキー聞こえてる?よね?」
「・・・聞こえてるよ。うるさいな」
「だってアッキー。聞こえない振りするときあるからさ」
「聞きたくないからな」
「ひっでぇ!」
と言いながら、ケラケラと笑っている。・・・机から降りろよ。行儀悪い。
「それで、何の用だよ。佐伯」
「ん?いや別に用はないけど」
「・・・」
僕がさらに遠回りして帰ろうとすると、佐伯は思いついたように言った。
「あー、いや!そういえば、毎朝一緒に登校してきてる、あの黒髪の美少女は何者なんだ?まさか・・・」
「違う!断じて違う!!」
大声が出た。僕もびっくりだ。出した本人がびっくりしてるんだから、残ってたクラスメイトもかなり驚いた顔をしていた。
「えー。なんだよ、面白くないなぁ。もっと青春しろよアッキー」
「余計なお世話だ、佐伯」
「正弘のほうがいいんだけど」
「あ、そういえば、僕も佐伯に聞きたいことがあったんだ」
「ん?何?」
「佐伯さぁ、5組のクラス委員って、誰か知ってるか?」
クラス委員の長である佐伯なら、それくらい知っているかもしれない。5組は、栞のクラスだ。佐伯は怪訝そうな顔をしたが、答えてくれた。
「知ってるよ。浅野だろ?浅野明菜。」
「ふぅん・・・浅野さん。ね。」
「けっこう美人だぞ。」
「興味ないけどな・・・。」
「だから青春しろって、アッキー。・・・だけど、浅野はおすすめしないかな。」
「・・・?」
「あいつさ、会議とかにはちゃんと出てるけど、クラス委員としての仕事は全然やってないみたいでな。」
佐伯は困った顔をした。
「・・・。」
「クラス委員になったからには、ちゃんとやってほしいんだけどなー。」
「・・・そうだな。」
「で、なんでそんなことを?」
「別に、なんでもない。」
「松井栞だな。」
「・・・え?」
「前、アッキーに会いに来てた子。5組の松井だろ?」
なんで知ってるんだ。
「一年の時、クラス委員だったからな。松井。会議でみかけたことあるし。」
「・・・。」
「そうかそうか、本命は松井だったのか。」
「はぁ!?」
突然何を言い出すのか、この男は。佐伯はニヤニヤしながら
「まぁわかるぜ?松井って結構かわいいもんな。」
「だから違うって!ただの幼馴染だ!それより佐伯!部活いいのかよ!」
「あ、やべぇ。怒られる!」
佐伯は慌てた様子で教室を出て行った。が、さり際に「なにか進展あったらおしえろよ?」と、いたずらっぽい笑みを残していった。
何が進展だ。そんなのあるわけないだろ。それにしても、浅野明菜・・・か。
知ったところで、どうにかなるわけでもない。ただの栞の友達なのだろう。
そう思うのに、そのはずなのに、頭の中はモヤモヤしていた。
その日は珍しく、栞もともに学校に入った。一年と二年では階が違うので根黒はここにはいない。
「・・・ん?」
自分の下駄箱を開けると、折りたたまれた一枚のメモが入っていた。これはまさか・・・・・・!!噂のあれだろうか、あの、体育館裏で待ってます的な・・・!?そんな淡い期待を胸に周りを確認してからそっと開く。しかしそこには、僕の期待していたようなことは書かれてはいなかった。そこには一文だけ
『松井栞に近づくな』
と、そう書かれていた。心臓がバクバクと音をたてる。これはいわゆる、脅迫状・・・?
「どうしたの?陽斗?つっ立っちゃって。」
と、栞が手元を覗き込んでくる。
「い、いや、なんでもねぇよ。それより早く行こうぜ。遅刻するぞ。」
「・・・?まだまだ時間早いよ?もう、変な陽斗。あたし今日も仕事あるからさ、先行くね。バイバーイ。」
「お、おう・・・。」
ぎこちない笑顔で栞を見送る。それにしても、せっかく一緒に来たのに。教室まで一緒に行くものだと思っていたけれど
「・・・?」
そこでやっと、周りの生徒たちがざわついていることに気づいた。何かこちらをチラチラみながら話している。
なにかおかしなことでもあっただろうか。居心地が悪かったので、僕はメモをくしゃくしゃにしてポケットにつっこんだ。