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猫と約束  作者: 窪井 柚希
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出会い、始まり

「へぇー。昨日転校してきたんだ・・・」

栞ちゃんは笑顔のまま、ふぅん。と嬉しそうに言った

「それで、あたしに会って、嬉しくって動揺しちゃって思わず駆け出しちゃったって、そういうことね?」

「・・・うん。概ねその通りだよ」嘘をついた。

「そっかそっかぁ。あっちゃんってば、可愛いねぇ」なんて、笑いながら言う。

「・・・」

「ん?どうしたの?あっちゃん」

「いや、この年になってあっちゃんって呼ばれるの、恥ずかしいなって」

「そう?じゃあ陽斗。陽斗って呼ぶね。陽斗もあたしのこと、栞でいいから」

栞ちゃんはサラッとなんでもなさそうに言った。

「あっちゃん。いや、陽斗」

「ん、何、栞」

「今日一緒に帰ろうよ」

「え?」

「ダメ?」と上目遣いで聞いてくる栞。

「い、いや。別にダメじゃないけど・・・」

「じゃあ決まりね!あ、私このあとちょーっと予定があるから、帰りね!校門で待ち合わせにしよっか!じゃね!絶対だよ!」

と、くどいぐらいに念を押して去って行った。

「・・・!」

そこで僕は重要なことに気がついた。


ここはどこだ。あいつ、栞。置いてくなよ僕を。



さて、授業後。僕は校門に一人立っていた。無論、栞を待っているのだ。

結構待っているのだが、なかなか栞は来ない。だからって僕はそのくらい小言を言うような男ではないと、思う。なくありたい。

「遅いな・・・」それでも呟かなくはいれない。もう帰宅組第一陣は帰ってしまっただろう。いつもなら僕も、その中にいるのに、今頃電車の中だ。

すっかり人気のなくなった頃に、栞はやってきた。

「ごめんごめん。遅くなっちゃって!待たせたよね」

なんて笑顔で言ってきたから、僕は気を使わせないように

「あぁ、待った超待った」

使わせないように、出来なかった。僕はなんて小さな男なんだろう。

「そこは、今来たことっていうとこでしょ」

栞は笑うと、行こうか。と、歩き出した。


「あ、ここ」と、栞は突然立ち止まった。

「ここ、昔よく遊んだね」そう言って微笑んだ。

「ああ。そうだな」僕はその土手を見渡す。朝通った土手だ。

「ほんとにさ、毎日のように遊んでたよね」楽しかったなぁ、あの頃は。と、栞。僕は違和感を感じた。

まるで今が

楽しくないみたいに

「・・・今は楽しくないのか?」思わず尋ねる。すると栞は慌てて

「ううん・・・。そんなこと、ないよ。楽しいよ。こうして、陽斗にも会えたし・・・」

そして栞は、話し出す

「ほんとさ、色々したね。ほら、覚えてる?ここで猫を助けたの」

「うん」

「いじめっ子から子猫助けてさ、あそこらへんで」

栞は立ち上がって橋のほうに歩いていく。川の上にまたがる橋。

「ここに家作って一ヶ月くらいだっけ、飼ってたね」栞は思い出すように目を細めた。

「名前を何にするかで、もめたよな」僕は笑って言う。

「そうそう!もう、陽斗がそのまんまの名前つけるからさ、あたし嫌っていってさ」

と、楽しそうに話す栞。さっきの違和感は、ただの勘違いだろう。ほんとにただ、懐かしんでただけで

「こんなところで、何してるんですか?陽斗先輩」

と、僕の背後で最近聞いたような声が聞こえた。嘘だろ。と思ったが振り返ると、やはりそこには 

黒髪の謎の少女。根黒桜子が無表情で立っていた。


「・・・それはこっちのセリフだよ、根黒」

僕は半眼で彼女を見ながら言った。

「別に私は、ただ、無様に遅刻したであろう先輩のことを少々からかってやろうと思いまして。それより・・・」

それよりじゃねぇよ。この娘、失礼だよ。

根黒の目が獲物を狩る獣の目になる。嫌な予感がする。

「そちらの方は・・・?」栞のことを、じっと見つめている。なんだか少し嬉しそうに見つめている。

「・・・幼馴染の松井栞。栞、こいつは根黒桜子。根黒って呼べって・・・」

「いいえ」と、突然根黒が割り込んでくる。「私のことは、桜子と呼んでください。栞先輩」

「はぁ?」と僕。「なんで僕と栞で違うんだよ?」

「それはあなたがあなただからですよ、先輩」意味がわからん

「えーっと・・・?根黒・・・桜子ちゃん?は、陽斗と、どんな関係で・・・?」

栞がだいぶ困惑した様子で尋ねる。僕は今朝の一件を伝えた。

「へぇー。朝あったばっかりなのね。それにしては仲いいのね」

「どこが?って、おいなんだよ」突然後ろから引っ張られた。もちろん犯人は根黒だ。

「先輩、栞先輩は、彼女ですか?」

ワクワクしていることを隠そうとしない瞳が、僕を捉えている。女子ってほんと、こういうの好きだな。

「違う。ただの幼馴染だって・・・」

「なんでですか!!」怒鳴られた。

「いや、なんでって・・・どういうことだ?」

「そこは付き合いましょうよ!六年ぶりの感動の再会なのでしょう!?」

何言ってるんだこの娘は

「いや、そんな、そこまでじゃねぇよ。それにその考え方だと、僕はここに住んでた頃の女友達みんなと付き合わなきゃいけないぜ?」

「七年ぶりですよ!?普通会えませんよ!?」

何を興奮してるんだ?それに、そういえば・・・

「・・・おい、根黒。お前なんで七年ぶりだって知ってるんだよ?」

「え・・・?」

根黒は目に見えて慌て始めた。

「僕、言ったっけ?」

「え・・・ええ!言いましたよ!七年ぶりだって!ここに来たのは七年ぶりだーみたいなこと、言ってましたから!それで・・・」

言っていただろうか、記憶が曖昧だ。

「絶対言ってましたから!なんだったらここで、そのシーンを再現しましょうか!?」

「いや、いいよそんな・・・」何をそんなに慌ててるんだ、こいつ。

「あのー・・・?」と、そこで栞の声。しまった。忘れてた。

「悪い、栞。帰ろうか」と、僕。

「私もご一緒してもいいでしょうか?」と、根黒。

「嫌だ」

「陽斗先輩には聞いてません。私は栞先輩に聞いたんです」

「僕にも拒否権はあるだろ」

二人でにらみ合っていると

「あー、もう!喧嘩しない!ほら!帰ろう!」

栞が突然そう言って、根黒の方を向く

「ほら、桜子ちゃんも」すると、根黒は嬉しそうに

「はい!」と、栞について行った

「陽斗先輩何ちんたらしているんですか!早く!」

「なんか・・・僕の扱いひどくないか・・・?」

僕は呆れてため息をつく。そして、前を行く二人を追いかけた。





この日から、僕たち三人の一ヶ月間の物語が始まった。


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