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猫と約束  作者: 窪井 柚希
3/13

遭遇、再再会

「・・・朝か」僕はいつものように自分の部屋で目を覚ました。「・・・。」

もちろん、昨日のことは夢オチなどではない。昨日、思わぬところで栞ちゃんらしき人物・・・というか、モロ栞ちゃんなのだけれど。ここは一応、もしかしたら違うかもしれないから、栞ちゃん(仮)としておこう。とにかく、栞ちゃん(仮)に再会した僕は、まぁ、そこで当然、感動の再会となるべきところで逃げてしまったのだ。走って。全速力で。なんでかって言われても、そんなの僕が聞きたい。なんだか気が動転したというか久しぶりすぎて恥ずかしかったし、なにより一番の原因は・・・。

「・・・」

原因は、なんだっただろうか。覚えていない


なんやかんやで遅刻ギリギリの時間である。モヤモヤとした気分のまま、僕は学校に向かう。土手沿いを歩く。そういえば、このあたりで昔、よく栞ちゃん(仮)・・・いや、栞ちゃんと遊んだ。土筆を採ったり、坂を転がったり。そういえば、子猫を助けたこともあった。そんなことを考えながら歩いていると突然

「おはようございます」

と声がかかった。声の主は、僕の真正面にいた。

「・・・おはよう・・・ございます」

ひとことで言えば、美少女だった。腰のあたりまである長い艶やかな黒髪をなびかせ、同じ黒い色をした目でこちらを見上げている。そしてなにより、同じ学校の制服を着ていた。その少女はあまり表情を動かさず訪ねてきた

「見ない顔ですね。お名前は?」

「・・・野村陽斗です。昨日転校してきたんで・・・」

「そうですか、私もです」

「へ?」

「私も昨日転校してきました」

「・・・」付け加えて、一年生です。と少女。じゃあ見ない顔なのは当然だろ

「ねくろさくらこです」

「へ?」

「・・・さっきから「へ?」しか言っていませんが、大丈夫ですか?頭」

「余計なお世話だ・・・」なんだこの不思議ちゃん

「ねくろさくらこです・・・私の名前」

「は?・・・ねこ?」

「真っ黒な根っこの桜の子で、根黒桜子です」

「はぁ・・・変わった名前だね・・・」

「よく言われます」

「・・・」「・・・」沈黙。

なんで話しかけてきたんだこの子。

「えーっと。根黒・・・桜子ちゃん?」

「私のことは、根黒と呼んでください」

「・・・根黒」

「はいなんでしょう」

「きみはなんで、僕に話しかけてきたんだ?」

少女、もとい根黒は一瞬キョトンとして、首をかしげて、そのままこう言った

「なんとなく、ですよ」

「なんとなく・・・ですか」

「えぇ」と根黒。「ですが、そうですね。あえて理由を付けるとすれば、朝から陰気な顔をした同じ学校の制服を着た男子生徒が見えたので、付け入る隙がありそうだなと・・・」

「あえて理由つけなくていいから!付け入る隙ってお前、僕に一体何を・・・」

「あ、陽斗先輩時間大丈夫ですか?」

「え?」腕時計を見る「ってうわ、やば」

「こんな風におしゃべりしている暇は、あなたにはあるんですか?」

「お前が呼び止めたんだろ!?ってかやばいのはお前も同じ・・・」

「残念。私はチャリ通です。では、頑張ってください」

と、根黒は自転車にまたがる。

「遅刻したらお前のせいだからな!」

「先輩、アディオス!」

「何がアディオスだ!っておい!」

根黒は、先輩を一人残し、颯爽と去っていった。

僕は再度時計を見る。走っても、到底間に合いそうになかった



「あいつ、ほんとなんだったんだ・・・」

昼休み、僕は教室で一人愚痴る。結局僕は遅刻した。転校二日目にして遅刻。最悪だ。

「大体、なんだよ陰気な顔って・・・生まれつきだよコノヤロー」

僕は結構根に持つタイプだ。

「どうした~?アッキー。陰気な顔して」

と、底抜けに明るい声がかかる。

「・・・お前もか」僕は低い声で呟く

「え?何が?」声をかけてきたクラスメイトの男子、もとい

「陰気じゃない・・・それに、アッキーはやめてくれって言ったよな。佐伯委員長」

このクラスの委員長。佐伯正弘。クラスの中心人物で、明るくて正義感のある人気者だ。

佐伯はニッと笑って

「いいじゃん。アッキー。俺は気に入ってるんだけど」

「佐伯が気に入ってても、僕は気に入ってない」

「あはは」

「あははじゃねぇよ」

「でもさ、みんな気に入ってるし、いいだろ?」

「あのな・・・」と、僕がしかめっ面で反論しようとしたとき

「アッキー。お客来てるよ」と、クラスメイトの女子が僕たちのほうに駆け寄ってきた。僕が複雑そうな顔をしていると、佐伯はニヤニヤと笑って「ほらな」と小声で言った。

「・・・」

僕は渋い表情のままその女子に礼だけ言って足早に戸口に向かう。正直、佐伯のニヤついた顔が不愉快だった。

「・・・?」

やけに教室がざわついている気がした。他のクラスから人が来るのが、そんなに珍しいことなのだろうか。

「・・・あ」

僕を待っていたのは、他でもない。栞ちゃん(仮)だった。



「あー・・・えっと・・・」

どうすればいいのだろう、この状況。見た瞬間思わず逃げ出した相手に、昨日の今日で、どう接すればいい。

「・・・」

栞ちゃん(仮)は、黙ってうつむいていたが、突然顔を上げて

「ちょっとついてきて・・・ください。なるべく距離をとって」

「・・・」

きょ、距離をとって・・・?やはり僕は昨日、かなりまずいことをしてしまったのだろう。そりゃそうだ。一目散にダッシュしたのだから。そんな間に栞ちゃん(仮)は・・・というか、今日ここに来た時点で(仮)ではないか。栞ちゃんは、踵を返してさっさと歩いて行ってしまう。

「ちょ・・・」

僕は慌てて後を追う。なるべく、距離をとって。

連れてこられたのは、というか、ついて行った先は人気のない廊下だった。僕はまだ転校してきたばかりなので、ここがどこなのか、いまいちよくわからない。ただそこで、栞ちゃんは足をとめた。そのまま僕の方を向かず、じっとしていた。

「・・・あー、あの・・・栞・・・ちゃん。だよな?」僕は恐る恐る聞く

「・・・」無言だ。

「えーっと、き、昨日はごめん。その、僕、いきなりでビックリしたというか、動揺しちゃって」

「・・・」無視だ。

「あの、栞・・・さん?・・・・聞いてる?」

「・・・」もう胸が痛い。心が折れそうだ。

しばらくどっちも無言のままだった。僕はいよいよ土下座でもしようかと思っていると、突然栞ちゃんが振り返った。その目には、涙が溜まっていて、それを必死に我慢しているような顔をしていて

「・・・!?」僕は、唖然としてしまった。

「あっちゃん・・・。久しぶり・・・。また会えて、すっごく、嬉しいよ」

と言って、笑った。


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