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一時の休息

大変遅くなりました、投稿になります。

会話メインの話が続きます。

長くなってくると自分で「この話出したっけか」と過去分を読み返す事が多くなって回想作業も中々大変ですね。

「ゲート」

 人の姿をした竜王がそう言うと、その目の前に大凡二メートル程度の鏡のようなものが出現する。

「転移の魔法だ、ここをくぐれば我の城に行くことができる」

「……信じてもいいんですか?」

 右手に布を巻き、胸元を赤く染めたままのリズが懐疑的な視線でメイドを見る。

「以前訪れた時も同じ案内を受けましたので、問題ないでしょう。それに――」

 リズの視線を受けたメイドは軽く頷くと腕の中に抱く魔王の顔を見る。

 土に汚れた全身、破れた腹部からは傷ではなく塞がった腹部、しかし黒く染まったそこが見える。

 左腕全体、そして覗く首筋から顎にかけて、黒い筋、模様が浮かんでいる。

「魔王様を早く安全な所に運びたいのです。皆様に休憩も必要でしょうし」

 全員、まだ絶界に来たばかりだというのに、ボロボロに汚れている。

「……意見はまとまったか?」

「えぇ、お待たせしました」

 竜王は軽く鼻を鳴らすような仕草のあと、鏡に手を伸ばすと、その中に沈むように姿を消す。

「行きましょう」

 後を追うってメイドと、抱きかかえられた魔王が消える。

「あ、待って…」

 リズが慌ててそれに続き、溜息を吐きながらトウカが消える。

 カルは一度雪の降るねずみ色の空を見上げ、

「随分と遠い所にきたものだ」

 一人呟くと最後に鏡の中に消えた。









 鏡を抜けると、そこは大きな城の中だった。

「……広い」

 リズは頭上を見上げながら感嘆の声を上げる。

 リズ本人は城等見たことは無いが、場所的にここは謁見の間的な場所なのだろうか。

 目の前に続く汚れのない赤い絨毯と、その先にある巨大な玉座、そして装飾は少ないが白く飾られ天高くまで抜ける天井とステンドグラス、端々を飾る灯り。

 メルウスで宿泊した宿も充分に豪華な場所だったが、ここは桁が違った。

 まぁそもそも宿と城を比べる方が間違っているのかもしれないが。

 玉座の両脇を飾る大きな竜の彫像、それを見ていた時、その玉座に向かって竜王が一人歩いている事に気づく。

 その人の姿が一瞬ブレ、次の瞬間、巨大な竜の姿に戻る。

『ふむ……』

 嘆息の後、振り返り、巨大な玉座に腰をかける。

 その姿は外で戦った黒い竜の姿とは違い、人のように深紅と金に彩られた豪奢なローブを着流した金色の鱗を持つ竜だった。

 竜王は玉座に肘をつき拳の上に顎を乗せる。

『さて、悪いがこの城にはお前達の様なメイドと言ったような従者というものはいない」

「存じておりましたが、相変わらずなのですね」

 メイドがいつものように、淡々とした調子で答える。

 この感じも随分久しぶりに感じるが、そう言えば竜王とメイドは既知の仲のようだったが、一体どういう面識なのだろうか?

 そんな事を考えていると、リズ達の頭上を風が吹き抜けていく。

 同時に振り向くと、部屋の後方、そして横に備え付けられ、火の灯っていなかった蝋燭に次々と火が灯っていく。

『ふむ、覚えているなら説明は不要か? 貴様が案内できるのなら案内しろ、城内は好きに使って構わん』

「そうですね、大体は覚えておりますので大丈夫かと。しかし太っ腹ですね?」

『簡単な詫びも兼ねている、無論程度は弁えろ』

 メイドの言葉に眉間に皺を寄せる竜王。

 黒竜の姿の時より心なしか表情が読み取りやすく感じる気がする。

『身支度や休憩が済むか、まぁ適当にここに戻ってくるがいい、話はそれからだ』

「何時までも戻ってこなかった場合は?」

『? 無駄な問答をさせるな』

「そうですね、では、また後ほど」

 しかめっ面の竜王と、小さく笑ったメイドは頭を下げると、後ろ、自分たちのいる方向へ振り返る。

「あ、あの――」

「私達完全に置いてけぼりなのですが」

 遮りカルが言葉を放つ。

 大体自分が思っていた事と同じなのでリズは黙る。

「竜王様の仰っていた通りです、使用人がいないそうですが、施設的には必要な所は私が覚えておりますので、ご案内しますよ」

「そこですよ、何故お二人は知り合いなんですか? なのになんで……」

 あんな命のやり取りをしなければならなかったのか、傍目に見ても二人が殺し合う程に仲が悪いとは思えない。

 メイドが軽く竜王の方に顔を向けるが、竜王は固めを閉じた状態でこちらを見るだけで、何も言わない。

 それを何も説明する気はないと判断したのか、メイドは顔を戻すと三人を横の扉へと促す。

「ちょっと、まだ何も――」

「それも」

 メイドが強い口調でトウカの声を遮る。

 気圧されたのか、不満気な顔をしつつもトウカは黙る。

「――含めて、休憩しながらお話しますので」









 竜王の城だからとでも言うか、元々人間用として作られていないからか、どの扉も設備も巨大なものが殆どだった。

 と言っても、一応は昔に来客用、或いはそういった用途でもあったのだろうか、人のサイズでも使える設備も幾つかは残っていた。

 どうやら人を対象として敷設されたであろうエリアをメイドに案内される三人。

 広めの廊下を進みながら、説明するメイドの声だけが空間に響く。

「両脇にある扉はそれぞれ個室になっております、奥は厨房と食堂が。左右に分かれた道の先はそれぞれ男性用と女性用の浴場が」

 説明を聞きながら扉を開くと、確かに、個室とは言い難い程広く感じる部屋になっている。

「ねぇ、メイドさん」

 トウカが軽く睨むような視線でメイドを呼ぶ。

「何でしょう」

 それに対し、あくまでメイドは冷静な声だ。

「ちゃんと話しなさいよ」

「ちょ、ちょっとトウカさん」

 キツイ口調のトウカに思わずリズが慌てる。

「……せっかちな人ですね」

「こっちは命かけて戦ってたのよ、当然の権利でしょ」

 足を一度踏み鳴らし腕を組んだトウカの視線が、メイドの腕の中で静かに寝息をたてる魔王に向けられる。

 小さな溜息を一つ。

「昔、前魔王様と世界の和平条約を各代表と結ぶ時、ここに来た時がありました、その時あの竜王様とお会いし、そして魔王様を見つけたのです」

「……それだけ?」

「簡単に言ってしまえばそれだけです、だから面識があったと」

「…………」

 トウカは眉間をおさえる。

「……魔王様を横にして差し上げたいので、もうよろしいですか」

「……そうね」

「我々も着替えたりした方がいいでしょう? ついでに軽く何か食べた方がいいでしょうし」

 黙っていたカルが言う。

「……そーね、疲れたしお腹減ったものね……」

 力の抜けた表情で溜息を吐くトウカに、リズは思わず安堵の息をつく。

「では、私は魔王様の世話をしますので、あちらの部屋に。皆様は休憩等をご自由にされた後、食堂で待機されて下さい」

 早口でそう言うと、メイドは扉を開けて部屋の中に入っていってしまった。

「部屋で寝たりしたらダメなんですかね……」

「竜王と話もしないといけないんだしダメでしょ、どうしてもなら食堂で寝なさいよ」

 カルとトウカの会話にリズは苦笑する。









 広い室内、ベッドではなくソファーに魔王を寝し、一旦衣服を全て脱がせる。

 なされるがままの魔王は起きる気配もなく、その呼吸は一定のリズムを刻んでいる。

 その体を、特に汚れた場所を濡れたタオルで念入りに拭きながら、メイドは魔王の身体に目をやる。

 左脇腹付近、恐らく傷があった場所を塗りつぶす、光を一切反射しない黒。

 そこを始点に、渦のように幾つもの細い黒い筋が、腹から胸を越え、顎付近まで、そして左腕を染めている。

「…………っ」

 新しい服を取り出すと、それを隠すように手早く魔王に着せていく。

 長袖、襟付きの服だが、首元や手首付近からどうしても黒い模様が覗いている。

 包帯を取り出すと、首と左手を不自由にならない程度に一度巻く。

 ため息の後、綺麗になった魔王をもう一度抱きかかえ、ベッドに移す。

 厚みはあるが非常に軽い掛布団を上からかけながら、メイドはベッドの横に膝をつく。

 魔王の細い手を両手で握り、自らの額に祈るような姿勢で押し付ける。

「魔王様……ヒース……どうか、お願い……」

 誰にも聞こえない小さなその声はか細く、あまりにも弱々しかった。

 

誤字脱字、矛盾点等ありましたらご指摘お願いします。

感想等も随時お待ちしています。

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