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それでも、と

長かったバトル編も一旦終了です。

削ったり足したり、日頃の暑さで頭がパーンしかけましたが何とかかんとか書けました。

視点移動やら描写やらまだまだ未熟ですが読んで頂けたら幸いです。

「神ですって?」

 周囲から襲いかかる無数の剣を、いくつかは避けつつ、両手に持った剣で打ち砕きつつ、メイドは声を上げる。

 言葉だけで考えるならとても信じられる言葉ではない、しかし実際の強さや旧知の様に会話をしながらも否定しない竜王の姿を見ると、一概に否定することも出来ない。

 幾つかの剣が、メイド服を容易く切り裂きメイドの腕や足をかすめ、幾つもの傷を作る。

 魔王製の布で造られたメイド服は、普通の魔法や物理程度では傷すらつかないハズだが、神と名乗った魔王の魔法はそんな様子を見せることもない。

 全ての刃を交わし終えると、手に持った剣を魔王に投げつける。

 が、魔王の直前で膜に吸い込まれるような波紋を作り、剣は消える。

 次の瞬間には、すぐ横の位置から同じ剣が、メイドに向かって全く同じように飛んでくる。

 もう一本の剣でそれを弾き上げると、頭上で剣は粉々に弾けた。

 チラリと横目で上空の竜王を見れば、竜王も防御ではなく回避の動きをとっている。

「それで、神様なぞが何故、魔王様の身体に?」

「何故も何もないのよ? だって――」

「何を!?」

 魔王の言葉を、悲鳴の様な声が遮った。









「何を、何をしてるんですか!?」

 リズは頭上に浮かぶ魔王、そして彼女に剣を向けるメイド双方に向かって叫ぶ。

 メイドは横目でチラリとリズを見ると、すぐに視線を魔王に戻した。

 そして魔王は、見下ろす形でこちらを見てくる。

 その赤黒く染まった金の目と目があった瞬間、リズの背中が総毛立つ。

 身体は微かに震え、歯の根が合わず、無意識のうちに歯がカチカチと鳴っていた。

 無意識に考えていた、話しかけなければ良かった、と。

 これが本当にあの魔王なのだろうか? 見下ろしているその目は虫でも見るかのように冷たい。

「あ、あの――」

 震えながら何とか声を絞り出す。

「何故、お二人が、敵、は、竜王ではなかった……のですか?」

 何度も言葉につまりながら、魔王より上空にいる、人型の竜王――変身する瞬間は遠くからも見えていた――をチラリと見ながらも、視線はメイドと魔王を行き来する。

 魔王の顔が、突然笑顔になる。

「これはね、リズレイン」

「リズ、耳を貸してはいけません」

「酷いのよリズレイン、メイドが竜王と結託して私と敵対しようとしたのよ」

 その言葉にリズは小さく震える。

 こちらに向かい、差し出される魔王の左、その異形の手。

「だから軽く御仕置きをしようと思っていたの、手伝って貰えないかしら?」

「リズ」

 交互に聞こえてくる魔王とメイドの声。

 震えながらリズは一度魔王を見、メイドを見て、

「……どうして?」

 呟く。

 メイドが渋い顔をし、小さく舌打ちをした音がする。

 魔王が笑顔でこちらを見ている。

 リズは震えながら再度魔王を見上げた。

「あなた、誰なんですか……?」

「あ?」

 リズの言葉に魔王が顔をしかめる。

「何言ってるの? 私は魔王よ、あなたの主の」

「違う」

 魔王の言葉にリズは即答する。

 震える身体を抑え、弓を強く握り、怒りの表情で魔王を見据える。

「魔王様は私の事をそんな風に呼ばない。そんな風に人を見下したりしない」

「リズ……」

 メイドの小さな声が聞こえる。

「魔王様は私なんかを相手でも優しく、友達になろうなどと言ってくださる方です、そんな風に主だなんて言いません。何より、あなたみたいな醜い笑顔で笑ったりしない!」

「フ、ハハハハ!」

 リズの悲鳴の様な声に、反応は意外なところから来た。

 一番上空にいる、浅黒い肌の色をした男、竜王が笑っていた。

「ククク、残念だな母よ、その器は存外求心力は有るらしいぞ」

 愉快そうに笑う竜王。

 それに対し、言われた魔王は不愉快そうに顔を歪め目を細める。

「五月蝿い子ね……それにソコの小娘も、私が醜いだなんて、よくも言うじゃない」

「魔王様、目を覚まして!」

「リズ、離れなさい!」

 メイドの強い声が聞こえてくるがリズは下がらない。

 リズ自身、引くつもりは無かったし、実際下がろうと思っても身体が震えて上手く動けないというのもあった。

 見下ろしてくる目、向けられる異形の手。

「バカっ!」

 メイドがリズに向かって地を蹴る。

 間に滑り込み、地面から氷の壁を伸ばす、が、伸ばされた魔王の爪は容易くそれを切り裂き、砕く。

「魔王様、魔王様――魔王様ァ!」

 悲鳴にも似た声、魔王に向かって手を伸ばす。

 その手に、伸ばされた異形の手が重なる。

 優しく握られるその手。

「――? っああぁ!?」

 優しさの中に僅かな期待を持った瞬間、瞬時に否定される。

 握った手の指、鋭い爪がリズの手の甲に食い込み血を流す。

「魔王……様……起き、て」

「リズ! 手を放しなさい!」

 向こうから握られているのだ、こちらから放したとしても逃れることは出来ない。だからリズは逆に強く握り返した。

 メイドが伸ばされた腕の部分に斬撃を何度も叩き込むが、全て弾かれている。

「無駄無駄むーだぁ、効かないし聞こえないから呼んでも叫んでもムーダ!」

 歪んだ笑顔で魔王は楽しそうに笑う。

 リズは血まみれで感覚のなくなりつつある右手、それを握る魔王の手に自身の左手を添え、震えながら抱きしめる。

 白い胸元が流血で真っ赤に染まる。

「無駄じゃない、無駄、じゃないから、届いて」

「あぁあもう鬱陶しいなぁガキのクセにぃ!」

 怒りの表情で右腕を振り上げた魔王は、その手の中に小さな光の玉を創り出す。

 超高温のエネルギー塊、当たれば周囲もろとも跡形もなくなるほどの威力を持った魔法。

 その時、魔王の身体がグラりと揺れた。

「な、に……?」

 右手の中の光が消え、リズの手を握っていた左腕が開かれる。

「っぅつぅ……」

 解放された瞬間、リズが腕を抑えてその場に膝をつく。

「リズ!」

 メイドはすぐ駆け寄るとその手に治癒の魔法をかける。

 傷は深く、所々が貫通し大きな穴を開け血が流れ出している。

「馬鹿な事を……」

「アァアアアア!」








 突然の雄叫びにメイドは振り向く。

 地上に降りた魔王が、額を押さえ叫びながら、フラフラと歩いていた。

「私は、私ガ……何をシタ……?」

 上手く呂律が回っていない。

 苦痛に歪んだ顔に、今まで異形を保っていた左腕が、黒い呪印の描かれたただの腕になっている。

 全身を、特に左半身を完全に覆っていた闇が、うっすらと散り始めている。

「ほぅ、まさかあの小娘の自我がまだ生きているとは」

 頭上、ローブ姿の竜王が降りてくる。

「ありえナイ……ありえない! 何故残ってる! 容れ物のクセに!」

 魔王が怒号を上げる。

「今なら仕留められそうだな……」

 手を上げようとする竜王の手をメイドが遮る。

「邪魔をするのか?」

「魔王様を殺す事は絶対に許しません」

「神を屠る千載一遇なのかもしれんのだぞ?」

「だとしてもです」

「……フン」

 竜王は手を下げる。

「……リズ、リズレイン……どこだ?」

 消え入りそうな、あまりにも頼りない声が魔王の口から出る。

 メイドの背後、治癒魔法にじっとしていたリズが、ハッと顔を上げ、魔王に駆け寄る。

 その動きに一切の迷いは無い。

「リズ! まだ近づいては――」

 メイドの言葉にも耳を貸さず、リズレインは倒れそうになる魔王を支える。

 その手の傷は未だに塞がりきっておらず、血に濡れている。

「魔王様! 魔王様! 私は、リズはここにいます!」

 虚ろな瞳の魔王、その顔に手を添える。

 血がべったりと張り付く。

「その、傷は……私ガわたしが、わたしガ!?」

 薄らいでいた闇が、湯気のように立ち昇る。

 支えていたリズを魔王は弾き飛ばす、飛ばされたリズはその場に座り込む。

「触るな小娘……あぁ、アァウザイ。なんで消えてないんだオマエエエエエ!」

 独り言を繰り返す魔王、その視線が竜王を捉える。

「なんで、ナンデ生きてるンダお前、お前はあああぁああ!」

「魔王様」

 溢れ出す怒号と殺意の奔流を前に、メイドが竜王の前に立つ。

「メ、イド……?」

「はい、私です」

 敵意と殺意の波が、引いていく。

「ナン、デ? あの時シン――」

「こうして生きております」

 言葉を遮り、胸元の穴から除く肌色を強調しつつ、微笑む。

「ずっとお傍に、約束しておりましたから」

 魔王の顔がクシャりと歪む、今にも泣き出しそうな顔に。

 闇が、その背中に覆いかぶさる。

「アァ、五月蝿い小娘ガ、オマエガ弱イから全部無くすんだよ、だから私に――」

「顕在化する力の源はこの闇ですかね」

 背後、男の声に魔王が振り向く。

 そこには帽子をかぶった男、カルが立っていた。

「キサ――」

「頂戴しますよ」

 闇が、魔王を覆っていた大量の闇がカルの手の平を中心に、渦に吸い込まれるように消えていく。

「こいつは……重い……!」

 カルの額に汗が浮かぶ。

 吸っても吸ってもキリがないのは、魔王の体からその闇が常に放出されているからだ。

「ほら、さっさと目覚めちゃってくださいよ」

「魔王!」

 カルの言葉と同時に凛とした声が響く。

 トウカが、メイドの横に立ち、魔王を見据えていた。

「まだ約束を果たしてもらって無い、私にだけ働かせて自分は約束を破る気!?」

「トウ、か……」

「そうですよ」

 立ち上がり、すぐ傍に寄っていたリズが再び魔王を支える。

「まだ私はあなたに何の恩返しも出来ていません、だから、帰ってきて下さい」

「リ、ズ……」

 その背後でドサりと、カルが膝をつく。

「いや、流石にこれ以上は喰えませんね……」

 膝を付き冷や汗を流すカル。

 リズの身体を魔王が押し返す。

 先程のように、跳ね飛ばしたりするのではなく、手で軽く押し飛ばすだけだ。

「何故、だ。私は、神、ナンダゾ……貴様が望んで……」

「残念だが母よ、今ここで一番不要とされているものが貴女で、必要とされているものが貴女の中にいる者の様だ」

 竜王が冷ややかな言葉を浴びせる。

「フザケ……ふざけたことを!」

 髪の毛を逆立てる魔王の両手を、メイドが掴む。

「いつまで良いように身体を使われているのですか、魔王様」

 フッと表情が変わり、魔王は苦笑する。

「相手は、神様だぞ……」

「だからなんですか、あなたは魔王でしょう」

「……いつでも手厳しいなぁ」

「今日は随分と待った分甘い方ですよ……さぁ、早く黙らせてきなさい、バカ娘」

 軽い抱擁の後、突き放すメイド、その顔は笑顔だ。

 脇腹、闇が溢れ出す傷口を押さえ、魔王は冷や汗を流しながら苦笑する。

 その場の全員が魔王を見ている。

『何故、私が貴方達なんぞに……』

「そう言わないで、後は向こうで話そうか」

 一人呟く魔王は、自らの目の前で手を打ち鳴らした。

 その瞬間、瞼が閉じられ、魔王の身体がグラリと揺れる。

「魔王様!」

 リズが慌てて駆け寄り、身体を支える。

 それを横から、メイドが抱えなおす。

「あなたは手の傷がまだ治りきっていないでしょう」

「で、でも」

「血がついて汚れてしまうと言っているのです」

「あっ――ごめんな、さい……」

「気にしないで……貴女には感謝しているのだから」

「え?」

 小さくなって聞き取れなかった言葉をリズは聞き返す。

 だがメイドは答えない。

 そして魔王を抱えたメイドの視線の先には竜王が立っている。

「まだ、何か文句を付けたい事がございますか?」

 好戦的なメイドの言葉に、魔王は表情を変えず小さく鼻を鳴らす。

「認めてやろう、そして、約束通りだ、城へ連れて行こう」

 竜王は背を向ける。

「そこで我の知る全てを教えてやる」

誤字脱字、矛盾点等ありましたらご指摘お願いします。

感想等も随時お待ちしております。

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