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そこにいる者

遅めの投稿になります、すみません。


 一頻り嗤い終わった後、魔王はゆっくりと視線を横たわる竜王へ向ける。

「ふふ、少しはしたなかったかしら?」

『……』

 竜王は答えない。

「まぁいいわ、幾星霜ぶりかの再開だけれど、一時のお別れとしましょうか」

 異型と化した左腕を笑顔で持ち上げる。

「そこから離れなさい――」

 背後からの声、冷気を含んだような冷たい声に振り返ると、左手を振るう。

 飛来する人程もある大きさの無数の氷柱。

 それを退屈、或いは邪魔をされた苛立ちだろうか、その気分を表情に出しながら無造作に砕き散らす。

 左手から逃れた幾つかの氷柱も、魔王に届く前に不可視の壁に阻まれ砕ける。









 メイドの死体の側に座っていたリズは、状況が理解出来ずに呆然としていた。

 先程まで確かに息も無く、脈も熱も、全ての生命としての活動を停止していたメイドが、一瞬で蘇生したのだ。

 そして、これもまた、何が起こっているのかわからないが、別人の様に豹変した魔王の元へ、何も言わずに一瞬で跳んでいったのだ。

「メイドさん、確かに今の今まで死んでいたのでは?」

 近づいてきたカルがリズに問いかける。

「え、あ、はい……確かに」

 反射的に答えるが、リズにもよくわかっていない。

「擬似的な不老不死だと言ってた」

 その疑問に、意外な所から答えが来る。

 声の元、振り返るとトウカがいた。

「不老不死?」

「えぇ、彼女も私と同じ、異世界からこの世界に来た異邦人らしいわ、その影響か知らないけど、そういう身体になったのだと言っていたわ」

「初耳ですが、何故貴女にだけ?」

「知らないわよ」

 カルの疑問にトウカは首をかしげる、実際理由は何も言われていなかったからだ。

 メイドからすれば、同郷のよしみ、或いは少しの同情か、彼女自信も理由を問われてもわからない理由だったろう。

 ただ何となく語っていた事だった、故郷の世界と、自身の事を。

「不死って、最強じゃないですかね」

 カルがメイドの向かった方向を見る。

 最早人外の領域、とても手を出せる状況ではなくなった竜王と魔王の争う戦場を。

「……不滅ではないって言ってたわ、どれだけ死なないのかも、試した事はないからわからないと」

 リズはトウカ言葉を聞きながら唇を噛み締める。

 自然と手にも力が入り、地面を削り取り、痛いほどに握りしめていた。

 自分は何も知らず、何も出来ず、なんと無力なのか。

 何も知らされず、何も頼られず、ただその庇護の下にいるだけの自分。

 唇から赤い筋が流れ落ちた。

「……駄目」

 震える声で小さく呟き、立ち上がる。

「リズ?」

「私も、行かなきゃ」

 トウカの声に答えた訳ではなく、独り言の様に言うと、リズは矢の入った筒を肩にかけ、まだ戦いの続く戦場へ歩き出す。

 まだ魔王に魔力を込めてもらった矢は幾つか残っている、それがあれば何かは出来るはずだと願って。

「ちょ、ちょとリズ、ダメだって、無理だよちょっと!」

 トウカの制止する声が聞こえるが、リズは答えない。

 もう無理だった、待つのも無力な自分に耐えるのも。

 何も出来ずに何もしないままでいるなら、無力でも何でも、自己満足だって構わない、あの人の為に何かをして、死んだ方がマシだ。

 そう思いながら、リズはただひたすらに進んだ。










『時間がかかったな』

「申し訳ありません」

 竜王が声をかける方向、魔王の頭上、その後ろ側に、白と黒のシルエットが舞う。

「――誰?」

 眉間に皺を寄せながら、シルエットの主から放たれた高速の蹴りを受け、しかし微動だにせず魔王は問う。

「わかりませんか」

 ギシリと骨の軋む音を響かせ、跳躍すると白黒のシルエットは魔王から距離を取る。

 胸の中央に穴を開け、そこから肌色の覗く土の付いたメイド服を手で払いながら、開かれた青白い瞳で魔王を真っ直ぐ見つめる。

「――魔王様のメイドです」

 一言、手の中に氷のハルバードを創り出すと一度二度回転させ、構える。

「――メイド……?」

 怪訝な顔をする魔王。

 その瞬間、足下に横たわっていた竜王が飛び上がる。

「あら」

 一瞬バランスを崩した魔王は、しかしすぐに空中で静止する。

「もう治っちゃったのかしら、さすがの再生能力ねぇ」

 大体の傷を修復し、空中に飛び上がった竜王を見て魔王は感心するような声を上げる。

『そう創ったのは貴女だろう』

 竜王は渋い声で答える。

「そうね、貴方達の事を思っての事だったけど、相手にするとちょっと面倒ね」

 さしたる問題ではない、という風に笑いながら魔王は言う。

 そこへ振り下ろされるハルバード、それを何の変異もしていない、右腕の指一本で魔王は受け止める。

「そこのあなたは、私のメイドならば邪魔をしないでくれる?」

「私は『魔王様』のメイドであって貴女のメイドではありません。逆に問いましょう、貴女は誰ですか」

 ハルバードを捨て、両手に氷の剣を創り出し振り下ろすが、今度は不可視の壁に阻まれる。

「はん、言うわね『異物』のクセに」

 鼻を慣らし、笑顔から一変して鋭い視線をメイドに送ると、魔王は左腕を振るう。

 黒い闇の波が、後ろに跳んだメイドの目の前を薙ぎ払う。

 波はそのまま竜王を僅かに掠めて消える。

『このままではただの的だな』

 そう言うと翼で全身を覆い、黒い渦になった後、そこには黒い煌びやかなローブを羽織った男がいた。

「あら、人間は嫌いなのじゃなかったかしら?」

「歳を重ねれば考え方というものは変わるものだ母よ、まぁ嫌いなのは変わらんがね」

 人間の姿で竜王は流暢に言葉を話す。

 その周囲、ガラスのような透明な剣が出現し、それが魔王に降り注ぐ。

 しかしやはり、それも全て見えない壁に阻まれ、砕け散る。

「無駄よ無駄!」

 魔王は高らかに叫ぶ。

 その砕け散った破片の間を縫うように、氷を足場に跳んできたメイドの氷剣を、手を動かすことも無く同じような透明な剣を創り出し受け止める。

「先程の問いに答えていなかったわね」

 メイドと竜王の周囲に、十数本の剣が出現する。

「私は魔王などではないわ、私はこの世界の全ての母、全てを創り出した者」

 剣が、一斉に二人に襲いかかる。

「私が神よ」

誤字脱字、矛盾点等ありましたらご指摘お願いします。

感想等もいつでもお待ちしております。

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