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目的

「さて、これからの予定ですが」

 風呂が終わり、それぞれ身奇麗になった後、元々食事をとるためとしての大部屋、その中央にあるテーブルに五人座っていた。

 会話を取り仕切っているのはメイドだ。

 本来ならリーダー的立ち位置の魔王がやるべきなのだろうが、基本いつもメイドが仕切る上、魔王自身それに馴れてしまっていた為、仕切り役は完全にメイドのものになっている。

 ちなみに五人の服装だが、メイドとリズはいつものメイド服にカルも同じく黒コート、魔王は前のワンピースがダメになった為、今は濃い紫と白のツートーンのワンピース、そして紺色で腕を通す穴の空いた長いストールを巻いている。

 トウカは魔王と戦っていた時の白い鎧があるが、あくまで戦闘服という事で脱いでいる。その為今はシンプルな白いシャツに、黒いレギンスといった出で立ちで、四人の中で一番ラフな姿に見える。

「なんか私だけ質素っていうか、粗末って言うか、なんか一緒にここにいて申し訳なくなるんだけど……」

「お気になさらず、足りなければ後日買い足すか見繕いますので」

「はぁ」

 トウカをなだめるとメイドは再度四人に向き直る。目は閉じているが。

「トウカ様の情報により、敵の今回の目標が魔王様である事がわかりました。今回は何とか防げましたが、いつ次の襲撃があるともわからない以上、場所を知られているここに、あまり長居するのは得策ではないでしょう」

 そう、トウカが仲間になるためにこちらに差し出したのは情報。あの時ただ一人逃げ延びた聖王女と名乗ったアルエラ、彼女はトウカの話では聖王都の王女の一人であり、王都一の魔法使い、つまり賢者の称号を持っているらしい、語った肩書きは嘘では無かったという事だ。

 そして、そんな肩書きを持つ者に、自らの意思でなければ、命令として指示できる者が居るとすれば、自ずと答えは限られる。

 魔王が最悪として予想していた通り、トウカ達に魔王討伐の命を下していたのは聖王都の王、現聖王だったのだ。

 これでは事が公になった時、各国――主に聖王都が問題を抱える事は明白だ。

 平和とはこうも容易く壊されてしまう物なのか。

 魔王は改めて先代、自らの父であろう魔王が作り上げた平和というものの、その脆さと尊さを痛感する。

 トウカが言うには、あの時の三人の実質リーダーはアルエラであり、指示もアルエラから受けていたらしい。

 その際に、魔王を斃す時は、必ず心臓に傷をつけない、心臓は無傷で手に入れる必要がある、という指示を受けていたらしい。

 理由に関しては、その時は聞く気も無かったし、恐らく聞いても教えてはくれなかっただろうという事だった。

「私の心臓かぁ……」

 頬杖を着いていた魔王の口から、ボンヤリと考えていた事が出る。

「心臓と言えば魔力の核……どうせロクでもない事をする算段なのだろうなぁ……」

「……そうですね」

 メイドが頷く。

「魔王様の仰る通り、和平協定を無視してでも行おうとする事、その様な事にロクなこと等ありません、断固として阻止すべきでしょう」

「阻止すると言っても、具体的にどうするんです?」

 手をヒラヒラとさせながらカルが軽く言う、どうにもこの男は緊張感がない。

「……まぁ実際にはこちらから何かすると言うのは、今の所ありませんね、こちらがヘタに刺激すれば逆に問題になりかねませんし、今は相手の出方を待ちつつ、情報収集、向こうが何かしてきた場合は迎撃、その場合によっては攻めに転じる事もあるかもしれません」

「成程」

 メイドにしてみれば、現在の平和な時勢を壊すような事は出来る限りしたくないのだろう、それは魔王にしても同じ事だった。

 だから、攻めの口実はあったとしても外交問題にしたりはしない。

 実際起こった事は魔王に対する襲撃のみ、白昼の公衆でに起こった事とはいえ、詳細を知っている一般人は皆無だ。

 『魔王』という存在が弱くなりつつある現在において、それで無理矢理国家間の軋轢を起こす事はない。現にここメルウスの実質統治者であるカミオは、聖王都側に対して何も行動を起こしていない。

 ならば自分達が大仰にでしゃばるべきではない。

 あくまで、トウカ達と同じように、秘密裏に裏を取り、あくまで魔王とその側近たちとして、それに対応すべきなのだ。

「案外甘いのですねぇ」

「私はただ今の平穏な世界を壊したくないだけです」

 笑顔で言うカルにメイドはきっぱりと答える。

「平穏ですかねぇ……」

 カルはリズとトウカを交互に見比べる。

「べ、別に私は魔王様に会うまでずっと悲惨な目にあっていた訳では……!」

「私はそもそも別の世界の人間だから、この世界の常識とかはよく……」

 リズとトウカがそれぞれフォローの様な言葉を口にする。

「……確かに二人が平穏だったかと言われれば否かもしれぬが、戦時であればもっと酷い事が起きていたのは明白だろう? それともお前は今が不満なのか?」

 魔王は訝しげにカルを見やる。

「そんな事はありませんが、案外リアリストですね魔王様」

「……結局、ここまで来ておいて貴方の望みは一体何なのですか、『元第一勇者』カルヴァリア様」

「候補、と言っていたハズですが」

「決まっていたようなものでしょう」

 メイドの言葉にカルの表情から笑みが消え、目が細められる。

「地獄耳ですね、聞かれていたとは」

「えぇ、偶然にも」

 その言い方をするメイドの偶然は絶対偶然ではない、魔王はそう確信する。

 室内に嫌な緊張感が走る。

「……ふむ」

 その緊張感を解いたのは、当人であるカルだった。

 緩い溜息を吐いた後、弛緩させ姿勢を崩した身体をだらりと椅子にもたれかける。

「目的と言えば、まぁ最初にお二人に言った『世界征服』」

「本気か?」

 魔王の反応に、ニヤリといつもの含みのある笑顔をした後、カルは口を開く。

「――をしようとするような奴を、ブッ殺す事ですかね」

「――」

 いつもと同じ軽い調子の、しかしどこか違う、心の底が冷えるような声で言いうカルに魔王は言葉に詰まる。

「では、最初に我々が出会った時、もしも頷いていたら私達とも敵対していたと?」

「そうですねぇ、まぁ、話した瞬間魔王様にそんな気概が無いのは直ぐにわかったので、安心しましたが」

「そんな心算だったとは……」

「魔王様が平和主義者で良かったですよ」

 今度は普通の笑顔で魔王に笑いかける。

「カルさんは、敵なのですか……?」

 リズが不安そうな声を出す。

「今は違いますよ、言ったでしょう、私の敵は世界征服とか馬鹿な事を考える輩ですから」

「しかし、それでは我々の味方になる理由も無いと思いますが?」

 メイドが疑問符を投げかける。

 その言葉に肩をすくめながら、

「メイドさんにしてはお察しが悪い」

「……どういう事でしょうか」

「よく考えてくださいよ、私が元勇者候補でありながら貴方達二人の前に現れ、『世界征服』を促した。そして私の敵は世界征服を企む輩です」

「もしかして……」

 メイドではなく、トウカが何かに気づいたような声を出す。

 魔王はサッパリだ。

「あの人達の目的って」

「トウカさんお察しが良い、そうですよ、私も勇者に任命されそうになった時聞いてましてね」

「まさか」

 そこでメイドもハッとする。

「聖王都、聖王を中心とする彼らの目的、それこそが『世界征服』なんですよ」

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