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気持ちの問い方

 小さなノックオンが部屋に響く。


「はい」

『只今戻りました、リズレインです』

『私もいますよぉー』


 返事をするメイドに、扉越しに二人の声がする。

 メイドが扉を開けると、カルとリズが入ってくる。


「む、戻ったかお前達」


 室内、中央のテーブル、その椅子に腰掛けた魔王が入ってきた二人に目を向ける。

 二人との目線が合う。

 動きを止める二人、その一人、リズの目が徐々に見開かれていく。そして、


「まお、魔王、魔王様ぁあああぁあああ!」

「!?」


 メイド服のリズが噛み噛みで叫びながら、魔王に抱きついてくる。

 魔王は目を白黒させながらそれを受け止める。


「リ、リズ? どうした?」

「魔王様が倒れて、ある意味私以上に心配していたのがリズでして……リズ、魔王様が困おられます、離れなさい」

「だ、だって……グズっ」


 リズは涙目でメイドに振り返る。

 その頭を魔王は苦笑しながら撫でる。


「ま、まぁ許せメイド、私の心配をしていたのだろう?」


 メイドは溜息を吐くと腕を組む。


「今回だけですよ」

 

 メイドの言葉に再びリズは魔王の服に顔を押し付ける。


「魔王様よかったあぁあ、もう目覚め、目覚めないかと……!」

「縁起でも無いことを言うな」

「それに、それに私、盾にもならなくて役立たずで、ほんと、本当に――」

「リズよ」


 涙目のリズの言葉を魔王は遮る。


「お前を連れてたのは私だ、その私がお前を守る事に何のおかしい事がある」

「ま、魔王様……」


 魔王の言葉にリズの頬が紅潮する。


「わ、私嬉しくて感激で……」


 紅潮した顔で一瞬の後、鼻血を吹き出して目を回す。


「お、おいリズ!?」


 慌てて魔王が支えるが完全に伸びている。


「感極まった感じですかね」

「……ふぅ、全く」


 歩み寄ってきたメイドが、リズの頭に手刀を入れる。


「はうぅんっ!?」


 間の抜けた叫び声と共にリズが飛び上がる。


「それより魔王様、その右腕」


 カルが視線で示してくる。

 リズも同時にあっと声をあげる。


「ん、あぁ、繋いだ、それなりに痛んだが」

「つ繋いだとか痛んだって、大丈夫なんですか?」


 リズが頭を押さえながら心配そうな顔をする。

 今はリズの頭の方が痛そうなのだが。


「大丈夫だ、もう殆ど違和感も無くなっているし、その内今まで通りになる」

「そ、そうですか」


 胸をなでおろすリズ。


「魔法ってなんでも出来るんですねぇ」


 魔王の対面、椅子に腰掛けながらカルが感嘆の声を漏らす。

 

「……なんでもではないが、極論言ってしまえば大抵の事は大体できるな」


 それ相応のコストを伴うが、と魔王はつなげる。


「コストと言いますと」

「まぁ大体は魔力だが……ほかに触媒であったり、行う魔法にもよる」

「へぇ……じゃあ逆に絶対出来ない事ってあるんですか?」

「ふむ……絶対に出来ないのかはわからんが、私の知っている限りでは時間の逆行、死者の蘇生はできん」

「封印されたと言う、時空間魔法なんかでも無理なんですか?」

「わからん。私が時空間魔法を知らないからな。しかし現状死んだ者を蘇生させたという伝承が無いのは事実だ」

「知識だけはある魔王様が言うからにはそうなんでしょうね」

「なんだ、誰か生き返らせたい相手でもいるのか?」


 魔王はカルの食付き具合に首をかしげる。


「いえ、ただの興味ですよ」


 しかし、カルはそう言って首を振った。





「で、真面目な話なんですが、魔王様」

「なんだかしこまって」


 テーブルを囲むように座った四人、テーブルの上にはいつもと違い、メイドでなくリズが用意した紅茶と、焼き菓子が置かれている。

 

「言っていたでしょう、説明してもらいますよって。あの黒いのは何だったんですか?」

「あぁ」


 そう言えばそんな事を、気を失う前に言っていた気がする。

 ……説明しろと言われてもな。

 実際の所魔王本人にもあの力が何なのかは分かっていない。

 ただ自分の内側に存在している力としか。


「わからん」


 だから魔王は素直にそう口にした。


「は?」

「だから、わからんのだ、私にも。あの力が何で、何故私の中にあるのか」


 カルはメイドに目をやると、メイドはただ黙って頷く。


「……嘘ではないみたいですが……わからないとは」

「ついでに言えば制御も出来ん」

「なんで偉そうなんですか」


 カルの呆れた声が返ってくる。


「あの、それって急に力が暴走したり、とかってないんですか?」

「今のところはないな、発現したのは数回だが、どれも私の命が危険に晒された時、だったと思う」


 リズの言葉に、やはり確証の無い魔王はぼんやりとした答えを返す。

 メイドは黙って紅茶を飲みながらその会話を聞いている。


「怖いだろう?」

「そうですねぇ……」


 焼き菓子を一つ、口に運びながらカルは黙る。


「リズはどうだ? 怖ければこれ以上はついて来なくてもよいのだぞ? それにこれからは人との命のやり取りになる可能性がある」

「え、人とって……」

「これからどうするおつもりで?」


「私と魔王様は襲撃してきた者の後を追います」


 カルの疑問に答えたのはメイドだった。

 魔王は頷く。


「メイドの言うとおり、奴らの狙いは魔王、私だった、それに『次』とも言っていた以上、いずれ同じように襲撃される可能性がある。なら先にこちらから出向いたほうが話が早い、周囲の無駄な被害も減らせるしな」

「奴らの狙いが本当に魔王様だけとは限りませんが?」

「その時はその時だ、奴ら条約で禁止された時空間魔法も使っていたからな」


 国際条約に違反し、それが露見すれば各所での追求は避けれない、そうなれば立場上不利になるのは確実に聖王国側だ。

 その危険を冒してでも手に入れる価値があるもの。

 何が目的かは不明瞭だが、国の上層部が本気であるのなら、最悪聖王国が抱える軍と争う事も考えられる。


「どんな事にせよ、世界に影響を及ぼすような事をしている以上、看過はできません」

 

 メイドが厳しい表情と声で言う。


「私はそれでも魔王様と行きます!」


 力強いリズの声。


「無理しなくてもよいのだぞ?」

「無理なんかしてません、それに、魔王様に助けていただいたこの命、魔王様のために使わせてください」


 胸に手をやりしっかりと自分を見つめてくるリズに、魔王はありがたいと思う反面、申し訳ないとも思う。


「そ、そんなに恩義だてしなくてもいいんだぞ? 助けたのは成り行きというのもあるし……」

「そんな事はありません!」


 鼻息荒く否定するリズに魔王は面食らう。


「そ、そうか」

「何をしているんですか……カル様はどうされますか」


 呆れた様子のメイドが、魔王とリズを眺めていたカルに尋ねる。


「どうする、とは?」

「話を聞いていたのですか……? このまま我々と共に行くか、別れるかですが」

「あぁ」


 そんなことか、とカルは続ける。


「別に、今まで通りご一緒させて頂きますよ」

「しかしさっき」


 怖いか、という問いに怖いと答えていたような。


「別に魔王様が暴れだしたら逃げればいいだけでしょう? こちらにいた方が面白いでしょうし」

「面白いってお前……」


 魔王は呆れた声を出す。

 それを尻目に追加の菓子を頬張りながら、


「大事な事ですよ、面白いっていうのは、退屈は人を殺しますからね。それに――」

「それに?」

「いえ、なんでもありません、お気になさらず」


 言いかけてカルは笑顔を浮かべる。

 いつもの胡散臭い笑顔を。

 相変わらず本心が読めない男だ。


「結局、お二人共ついてくるという事で良いのですね」


 自分のカップに新しい紅茶を注ぎながら、メイドはどこか呆れた調子の声でいう。


「はい」

「ええ」


 頷く二人。

 それを見て、それでは、と前置きをした後メイドは口を開く。


「明日は、先日捕らえた二人に、色々と話をする時間をカミオ様に頂いております。

 カル様はそれに同行を。リズは同様に、カミオ様に頼んで訓練を受けれるように頼んでありますので、それを受けてください」

「へぇ」

「く、訓練?」


 カルは面白そうな、そしてリズは戸惑いの声をあげる。

 魔王も初耳だった、と言うかついてくるか聞いておきながら、それ前提で予定を立てているとか。

 どうせ突っ込んでも無駄だろうからと、魔王は何も言わないが。


「はい、カミオ様に頼んで精鋭中の精鋭から訓練を受けれるように頼んでおきました」

「え、えぇ……」

「今のままでは盾にもなれませんから、ね?」

「!」


 メイドの言葉にリズが顔を赤くする。


「大丈夫かリズ」

「大丈夫です!」


 引き締めた表情で頷くリズ。


「必ず強くなって、魔王様たちをあっと驚かせて見せますから!」


 メイドは澄ました表情で紅茶を口にしている。

 ……この子も大概乗せられやすいというか、案外激情家なのだなぁ。

 そんな事を考えながら魔王は苦笑していた。

誤字脱字、矛盾点おかしな所ありましたらご指摘お願いします。

感想等も随時お待ちしております。

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