魔王と魔王
いよいよ魔王が登場します。
最近色々自分の文って冗長な気がしてきました、短くまとめる様に心がけたいです。
*6/12一部改変
メルウスで行われる闘技大会は年に二回ほど開催される。
前期大会と後期大会と呼ばれるが、どちらも独立した大会であり、どちらかに優勝したので優待される、と言うような事はなく、全てが実力主義の大会となっている。
かと言って優勝すれば賞金だけかと言えばそうでもなく、その宣伝効果は高く、冒険者であればギルドのランクが上がったり、指名で依頼が来るようになったりと、結構な恩恵があるらしい。
「そもそも優勝賞金、金貨三百枚というので充分な気がするが」
観戦用の椅子、しかし一般とは違う少し豪華な椅子に腰掛けながら、パンフレット片手にカルの説明を聞いていた魔王は言う。
「まぁ確かに、ギルドの稼ぎ頭でも金貨三百となると、そこそこの時間かリスクを負わないと稼ぐのは難しいですね」
魔王たちは今、都市メルウスの中央、政府機関と都市の防衛組織のある場所、本来はその訓練場としての役割を持つ大闘技場、その特別席、来賓客用の席にいた。
少し離れた位置、中央の戦闘スペースを除いた、今は客席として改装されたエリアは、大勢の観客でごった返している。
「しかしまぁ、頼んでもいないのに観戦チケットを貰えるとは、いいタイミングの偶然ですね」
カルがメイドを見やる。
「確かに、タイミングには驚きましたが、送られてきた事自体はさして意外な事では」
「おや、そうなんですか?」
「……昔の話ですが、この闘技大会を提案したのは私でしたので」
「ほう、初耳だな」
魔王も初耳だった。
「当時はまだ世界が平定したてで、そこまで平和ではありませんでしたからね。
各種族が平和を約束したとして、いつどこで反故にされるかわからない以上、武力は必要でしたから」
「それを一定保つためのこの大会だと」
「でも、そういうのって本当は無い方がいいんですよね?」
リズがおずおずと聞いてくる。
「そうですね、本当なら武力なんて無い方が良いのでしょう。しかし平和を叫ぶだけでは理不尽な力には抗えません、その為には結局力が必要になってしまうのです」
悲しい話ですが、と言いながら彼女にしては珍しい、少し悲しそうな笑顔をした。
「まさか来ていただけるとは思いませんでしたな」
席の奥、来賓客用通路から護衛を引き連れたカミオが姿を現す。
「魔王様とリズに、色々な人々の強さを見ていただく良い機会かと思いまして、それに」
「それに?」
「魔王を騙る者が今回出場していると聞いたので、それを確かめに」
「ほう、魔王様を騙る者ですか、それは初耳ですな」
チラリとカミオが魔王を見る。
「なんだ、カミオは知らなかったのか?」
魔王の一つ隣、メイドを挟んだその位置に座ったカミオに尋ねる。
「知りませんな、出場者の名簿までは一々チェックしておりませんので、係りのものに一任しております。
それに魔王と言っても恐らく自称、それで一々報告もしておれんのでしょう」
……成程、いくらか前に会った自称勇者と同じようなものか。
そう考えると、確かに一々相手にはしていられないのかもしれない。
「そろそろ始まりますな」
護衛の耳打ちを聞き、カミオがそう言うと、合図のようにドラの音が闘技場を震わす。
拡声魔法によって声を大きくした司会が、闘技場全体に響き渡る宣言に合わせ、客席のギャラリーが湧く。
闘技場を震わす声に魔王は渋い表情で眉間を押さえる。
「おや、魔王様はこういった騒がしいのは苦手で?」
「……うむ、私も知らなかったが、ここに来て知ったがどうも煩いのや人が多いのは苦手らしい」
軽く指で弾くと、緑色の光が小さく弾ける。
頭痛軽減と気分解消の魔法だ。
「で、自称魔王が出るのは何試合目だ?」
「えぇと――三試合目です」
――第一試合目――
「ふむ、普通だな……」
「二人とも冒険者ギルドの者で、ランク五と六らしいですよ」
「ほー……」
「すごいですけど皆さんより全然遅くて、何かキレが無く感じます」
「……流石にアレくらいの方々と比べられるほど落ちてはおりませんので」
――第二試合目――
「魔法使い、らしいですが」
「わ、凄いですよあんなに大きな火球初めて見ました!」
「一方的だなぁ……」
「リズの方が魔力量は上ですから、上達すればあの方の魔法くらいは楽に使えるようになりますよ」
「え、ホントですか!?」
「と言うかここの件必要だったのか?」
「寝てたほうがマシだった気がしますね」
●
第三試合。
何故か疲れた様子の魔王とカル、そして厳しい顔つきのメイドに一人だけキラキラと目を輝かせ次を待つリズ。
そこに入場者の名を告げる放送がかかる。
『さあ続いては第三試合! 西は今大会の注目株の一人、嘘か真か、伝説の名を引っさげて登場するは、魔王ヘルヴェルト!』
西側の扉が開き、赤黒いマントで全身を覆った人物が入場してくる。
顔はシンプルな白い仮面で覆われており、性別は判断できない。
伸ばされた黒髪が背中まで伸びており、全体的に、黒い。
魔王はすぐに魔力の流れを見る。
普通、ごく普通の魔力の流れが見える、だが妙な違和感を感じる。
……一部で滞留している……?
通常魔力は魔王のような特殊な体質を除けば、身体を血液のように循環し、そして外へ流れるように出て行くようになっている。
『対する東は――』
「どうですか、魔王様」
メイドが問うてくる。
「まだわからん、妙な違和感はあるが、それ以外は普通にしか見えぬ」
「そうですか」
試合が、始まる。
開始と同時に、東の、メイドに遮られて魔王は上手く聞き取れなかったのだが、魔法剣士だったか、長剣と盾を構えた女性が地を蹴り、赤黒の魔王ヘルヴェルトへと接近する。
間際、長剣に光の粒子が集まるのが見えた。魔力によるエンチャントだろう、光属性だろうか。
しかし、対するヘルヴェルトは逆に、ゆっくりとした動作でマントのしたから細腕を見せ、正面に構える。
瞬間、変化が起きた。
高速で突っ込んでいた魔法剣士は、まるで見えない壁にぶつかる様に動きを止められ、しかしすぐさま後ろに飛び下がる。
傍目には何が起こったのかわからない、魔法剣士が急に距離をとったようにしか見えなかったが、魔力感知が得意な者なら一目だっただろう。
ヘルヴェルトの眼前数メートルに不可視の防壁が出来たことが。
「無限魔力だと!?」
唐突に魔王は声を上げ席を立つ。
「魔王様」
「む、すまぬ……」
たしなめるようなメイドの声に、魔王は席に座りなおすと、忌々しそうな視線を闘技場に向ける。
「誰が無限魔力だと?」
「あの、ヘルヴェルト、だったか、偽魔王だ。
魔力が体内から、しかも大量に放出されている、アレではまるで私の無限魔力と変わらん……。
だがおかしい、なぜ……」
メイドの声に応えつつ、後半は独り言のように呟く。
……ありえない、私のようなイレギュラーな能力は簡単に生まれるようにできていないはずだ……だとすれば先ほどからの違和感は……。
ヘルヴェルトをじっと見つめる魔王、その時ヘルヴェルトが先ほどとは逆の腕を頭上に上げる。
そこに巨大な火球、直径は四メートルはあろうかという、まさに魔王が使うようなファイアーボールが作り出される。
観客が湧き、魔法剣士が明らかに動揺し後退するのが見えた。
その瞬間の魔力の流れを見て、魔王は理解する。
「ただのアーティファクトではない、レガシーか……しかしどこで」
「さっきから魔王様何一人でブツブツ言ってるんですか?」
リズの隣のカルが問いかけてくる。
「偽魔王が無限魔力と先ほど仰っていましたが、タネがわかったのですか?」
魔王は黙って頷く。
「レガシー、古代の遺産だな。恐らくあのマスクだ、マスクの額を中心に膨大な魔力が発生している」
タネが割れてしまえば何の事は無い、確かに使った二つの魔法は無詠唱で唱えている所を見ると、魔術師としての腕自体はそこそこあるようだが、やっている事は魔力を法外につぎ込んで魔法を強化しているだけだ。
「レガシーってなんですか?」
リズが首をかしげる。
知らないのも無理はない、魔王も知識として知っているだけで現物を見たのは初めてだ。
「古代、或いは神の遺産と呼ばれる理外の力を持ったアーティファクトの事だ、メイドは見たことあるか?」
「……大戦時に何度か、どれも頭抜けた力とリスクを持ったモノでしたが――」
突如、ヘルヴェルトが頭上に構えていた火球が弾け、霧散する。
突然の爆発と光に客席からは悲鳴が上がり、ヘルヴェルト自身も意図していなかった事なのか、仮面の下の顔で頭上を見上げている。
その時魔王は見た、客席から闘技場へ飛び出す三つの人影を。
そして闘技場に凛とした声が響く。
「見つけたぞ魔王! 諸悪の権化よ!」
闘技場中心、声の主達は三人、魔王から魔法剣士を守る様に、彼女の前に立っていた。
誤字脱字、おかしなところや矛盾点などありましたらご指摘ください。
感想等もお待ちしていますのでよろしくお願いします。
*6/12話の展開の為、最後の名乗り文句から勇者の文を削除させていただきました。