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奢らせる者 驕る者

 今魔王とリズ、そして財布役であるカルは一般区画の服屋に来ていた。

 勿論リズの私服を買うためである。

 店内は、冒険者用の実用的なものから、貴族用の物程ではないにせよ、御洒落を意識したデザインの服まで、幅広く揃えられている。

 その店内で魔王とリズは騒がしく、そしてカルは二人を若干困り気味な表情で見ていた。

「これなどどうだ? ここら辺のフリルがいい感じに可愛らしいと思うのだが――」

「あ、あのえっと魔王様……」

 魔王の手渡してくる服を受け取りながら、リズが苦笑いを浮かべている。


「魔王様、そんな魔王様の趣味押し付けないでリズさんの意見を聞きませんと」


 様子を見ていたカルがそんな事を言ってくる。


「む、そうかすまん」


 言われて魔王は服を選ぶ手を止める。

 言われてみれば先程からリズは受け取るばかりで自分で選ぼうとしていない。

 受け取るだけで試着もしていない為、手の中には結構な数の服が握られている。

 ……ちとはしゃぎ過ぎたか。

 

 同年代、というべきか分からないが、初めてのそういう相手が出来てどうにも舞い上がっていたらしい。


「リズはどれか気になる服は無かったのか?」

「あ、えっと、それならですね――」


 リズの腕の中から服を譲り受けながら魔王が尋ねると、笑顔でいくつかの服を選び出す。



 一式、リズが自分で選んだものを着た姿を見る。

「ふむ、可愛いな」

「そうですね、中々……、惜しむらくはスカートじゃない事でしょうか」

 魔王に続けてカルが頷く。

「……? 何故スカート?」

 隣のカルに疑問符をぶつける。

「決まってるじゃないですか、下着が見えなぐふっ――」


 言葉の途中でカルの鳩尾に魔王の拳が埋まった。

 

「何を言っているのだ貴様は」

「……魔王様肉体強化上手くなってきましたね……」


 その二人の様子を見てリズは苦笑している。

 その姿はカルが言った通り魔王が勧めるワンピースやスカート系でなく、パンツスタイルの服装だ。

 結構身体のラインが出るピッタリタイプなせいか、魔王にはスカートよりアダルトに感じる。


「案外そういうスタイルが好きなのか」

「あ、はい。動きやすい方が好きなので」

「それ、メイド服って天敵なんじゃないですか? ヒラヒラしてますしスカートですし」


「あまいなカルよ、あの生地は丈夫な上にとても軽いのだ。丈夫で軽く、きめ細やかな肌触わりと柔らかさをも備えておるのだ」

 自慢気な表情で魔王が語る。

「……聞けば聞くほど無茶な素材ですね」

 呆れた口調のカルにしかし、

「ホントですね、でも魔王様が作ったのですから納得できます」

 キラキラした瞳で答えるリズにカルは「そうですか」とだけ答えていた。





 結局その後服を三セット、靴を三足程買ってリズの服選びは終わった。ちなみに既に着替えており、元々来ていたボロはその場で処分した。

 全部で金貨三枚程したが、カルのお金なので魔王は特に気にしていない。リズは申し訳ないので減らす減らすと言っていたが、どうせ服は必要になるのだ、買える時に買っておくに越した事は無いと魔王が無理矢理買わせた。


 結局着る事になるのは、ほとんどメイド服だというのは余談である。


「金貨一枚稼ぐのがどれだけ大変かわかってるですかー」

「知らん」


 カルが非難の声を上げていたが魔王は無視する。

 この世界の通貨だが、大戦後に世界基準のモノが作られたらしく、一番下に銅貨、銅貨十枚で大銅貨になり大銅貨十枚で銀貨一枚、銀貨五十枚で金貨一枚になる。

 そして生活のランクにもよるが、大凡平均として、中流階級の人間が質素に暮らして一ヶ月使うのが大体金貨三枚くらいだという。

 そう考えると、一般区画にある店にしては随分高価な物を選んだのかもしれないが、別に痛むのは自分の懐ではないのでいいか、と深く考えることをやめる。


「まぁいいですよ、終わった事ですし、それに可愛い子の為に使うのなら本望とも言えます」

「え……」

 カルの言葉にリズが頬を染めてあわあわと慌てる。

「お世辞だぞ、本気にするな」

「あ、あ、そうですよね!」

 何故そこで力強く頷くのか、リズはどうにも自分の見た目に自身を持っていない様子が時々に見られる。

 ……贔屓目に見なくて可愛いのだがなぁ。

 勿体無い、と呟く。


「いえいえ、お世辞でなく本当にリズさんは可愛いと思いますよ、もっと自信を持って下さい」

「え、えっと、そんな、ありがとうございます……」

「そうそう、それにもっと朗らかに笑顔を作るといいですよ。女性は笑顔な程魅力が増しますから、リズさん程になれば可愛さ五割増ですよ」

「な、何言ってるんですかー」

 笑顔で言うカルに、照れて困りながらも笑顔で応えるリズ。

 そしてそれをゲンナリとした表情で見る魔王。


「どうしたんですか魔王様、そんな老人みたいな顔して」

「誰が老人だ貴様」

「そうですよカルさん失礼ですよ、魔王様だってお綺麗じゃないですか」

「そう……ですね……」

「何故そこで間を開ける」


「さておき、次はどうします? リズさんの装備品なんかを整えに武器屋にでも行きますか?」

「あぁ、そうか、リズは武器がいるのだったな」

 カルに言われて魔王は気付く。そう言えば前の街でも武器屋には寄っていなかったなと。

 基本メイドも魔王も素手で間に合う為、武器屋に行くという発想がわかなかったのだ。

 しかし、リズの場合はそうもいかない。

 カルと同じように、戦闘を行うためにはそれなりの武器が必要になってくる。


 しかし、


「それもいいが、取り敢えずどこか軽食が取れるところに入らぬか? 小腹が空いた……」

 そう言って魔王はお腹をおさえる。

「……魔王様は見ため云々より、もう少し恥じらいを覚えましょうか」

「わ、私もちょっとお腹が……」

 カルのツッコミに対ししかし、リズもおずおずと手を上げる。

 それを見てカルは溜息を吐いた。





「で、なんでお腹が空いて頼むのがパフェなんですかね」

 不満というよりは呆れたような表情でカルはテーブルの対面、目の前の大きなパフェを美味しそうに頬張る二人を見ながら言う。

「別によかろう、果物も入っておるし、むぐ、中々お腹にもたまるぞ」

「魔王様、食べながら話したら行儀悪いですよ」

「む、すまぬ。……それに先ほど『可愛い子の為にお金使うのは本望』とか言っていたではないか」

「自分で言わないでくださいよ、まったく」

 カルの呆れたかをを見てフッと魔王は鼻を鳴らすと、パフェのアイスを口に運ぶ。

 城にいた頃に何度かメイド手製のパフェを食べた事があるが、外のパフェも中々美味しいものだと感心する。

 それでもやはりメイドの作ったものの方が美味しく感じる。

 最近何となく気づいたが、メイドの家政婦としてのスペックは物凄く高いのではないだろうか。


 そんな事を考えていると、別の席からの話し声が聞こえてくる。


「おい、聞いたか? 今度の戦技大会、なんでも魔王が参加するらしいぜ?」

「魔王? 魔王ってあの昔話何かに出てくる魔王か?」

「ばっか、実在するに決まってんだろ――」


 そんな内容の話し声が。

「魔王様いつの間にエントリーを?」

「貴様分かってて言ってるだろう?」

「魔王様戦技大会に出られるんですか? 応援しますね!」

 リズは多分何もわからず言っているのだろう。

 魔王は溜息を吐くと、


「良いかリズ、私は出ないしエントリーもしてない。そもそもそんな時間も無かったしな」

「え、そうなんですか?」

 不思議そうな顔をする。

「何しろこの街にきた直後にリズの騒動に巻き込まれましたからね」

「あ、なるほど……」

 カルの説明に頷く。


「そもそも、私は戦技大会の存在自体知らなかったからな。まぁ知っていても興味は無いが」

「あ、そうなんですか残念……」

 ……何故残念がる。

「でも、だとしたらさっきの話の魔王様っていうのは何なんでしょうか?」

 アイスをひとかけ、スプーンで口に入れ、飲み下すと魔王は口を開く。

「簡単な話だ」

「ですね」

 カルの言葉がかぶさる。


「魔王を語る偽物が居るという事だろう」



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