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服を仕立てよう

 結局リズレインは魔王のメイドになる事になった。

 給金を払えないと言ったのだが、元々彼女の方から持ちかけた提案であり、給金などいらない、仕えさせてもらえるだけでいい、自分の生活費は冒険者をやって自分で稼ぐとの事だった。

 あまりの熱意に拒否も出来ず、勢いに負けて魔王は承諾していた。


「はぁ、私が寝てる間に面白い話してたんですねぇ」

 起き抜けのカルが、水を飲みながらそんな事を呟く。


「あの、魔王様こちらの方は……?」

 リズレインがおずおずとした調子で魔王に尋ねる。

「ん、あぁどう紹介すべきか――」

「どうもー、最近魔王様のお付になりました、カルヴァリアと申します、お気軽にカルとお呼び下さいませ」

 カルが魔王の座る椅子の背もたれにもたれ掛かりながら柔かな笑顔で言う。

「貴様……」

「あ、えっと、私はリズレインといいます。リズって呼んで下さい。カル……様?」

「リズ、こやつに様などいらんぞ……と言いたいがリズの件も実際の立役者はこやつらしいしな、ぬぅ」

 戸惑い気味に言うリズに、背後のカルに青筋を立てながら魔王が悩ましげに呟く。

「カル様、魔王様がストレスでハゲますので、あまりお巫山戯は」

「ハゲぬわ!」

 隣、メイドの言葉に突っ込みながら、魔王は背後のカルの顔を押しどかす。


「さておき、魔王様にお仕えするからには、まずは、それなりの格好をしてもらわなければいけません」

「は、はい」

 立たせたリズの背後、メイドが肩を持ちながら言う。

「では、サイズのアタリを取りますのでこのメイド服を着て下さい」

 メイドは一着のメイド服をリズに渡す。


「……お前は外に出ていろ」

 魔王は無言でその様子を眺めているカルを蹴る。

「えー、イイじゃないですか減るものじゃないですしー」

「良いわけ有るか! と言うかニヤニヤするな!」

 扉を開けると強引に、魔王はカルを部屋の外に蹴り出した。

 部屋の外から『ひどいなー』等と笑い声が聞こえてきたが聞こえないフリをした。



「ど、どうでしょう……?」


「ふむ……」

「……」

 メイド服を着たリズを見て二人は黙る。

「な、何か言ってくださいよっ」

「いや、思った以上に似合っていたのでな……」

「そうですね」

 メイド服を着たリズは先程までと打って変わっていた。

 そこには可愛らしいメイドが一人立っていた。

 メイド服の落ち着いた白黒を基調に、所々覗く褐色の肌、肩口で揃えられた美しい銀髪と、少し幼いなさの残る丹精な顔立ちがメイド服とのギャップを引き立て、それがメイドとは違う”可愛らしさ”と言うものを演出する。

 服が変わるだけでこうも変わるものかと魔王は内心関心する。

 ……と言ってもリズ自体が元々可愛い顔立ちはしておったしな。

 

「とはいえ、やはり私のスペアでは少し大きいようですから、その辺りを調整しなければいけませんね」

 メイドはそう言うと、どこから取り出したのか糸のついた針を、瞬く間にリズの服の袖や腹部、布の余った部分に通し仮縫いしていく。

「あとは、どこかキツイ場所などありますか?」

「あ、あっとその……」

「ん?」

「む、胸がちょっとキツイかなと……」

 リズがおずおずと自分の胸を押さえる。

 確かに、胸の部分の布地だけがほかの部分と違い張っていた。

 リズは身長は魔王とほぼ同じなためメイドより低いが、バストサイズは三人の中で一番大きかった。

「ふ……」

「魔王様、ひがむのは如何かと」

「……何も言っておらぬわ」



「さて、採寸は取れましたので、後は――」


『もう入ってもいいですかー?』


「……一生入れなくても良いのではないか?」

 寸法を合わせたメイド服を脱ぎ、元の服にリズ戻ったタイミングで聞こえてきた声に、魔王が呟く。

「魔王様……、カル様、どうぞお入り下さい」


「いやぁ、一人だけのけ者はさみしいですねぇ」

「どうせ聞き耳か何か立てていただろう、タイミングが良すぎるわ」

 魔王の言葉にカルは「さて?」と笑顔でとぼけてみせる。

 それを見てリズは困ったように笑う。

「……いいかリズ、こやつの扱いなどゾンザイな位が丁度良いのだ」

「優しく扱って下さいねー」

「死ね」

 魔王の三連ジャブは笑顔でかわされた。

 

「魔王様、漫才をしていないで、素材をいただけませんか」

「む、あぁ、そうだな」

 メイドの言葉に魔王は頷くと、テーブルに近づき手の中に魔力を大量に集中させる。

 通常は流れて霧散する魔力をその場に留め、凝縮する。


「クリエイト・マテリアル」


 そう小さくつぶやくと、小さい光と共に魔王の目の前、テーブルの上に黒と白の布束が出現する。


「今のも魔法ですか?」

 カルが感心した様子で魔王に尋ねる。

「うむ、物質を構築する魔法だな、魔力をバカみたいに消費するから私以外に使っている者を見た事は無いが」

「そんなに凄い魔法なんですか?」

「……言ったように消費がひどいだけで呪文の構成自体は簡単なものだが……。

 考え方は氷魔法等といったものと同じで魔力を媒介、或いは魔力そのもので物質を構成するわけだからな」

「簡単なように言っていますが、実際魔力媒介で物を作るのでなく、魔力そのものを物質になるまで超圧縮するなんて芸当は、そう出来る事ではありませんので。

 簡単な例えで言いますと魔力媒介で物を作ることを、空気を媒介にして火を起こす事だとすれば、魔力を圧縮して布にする事は空気を圧縮して空気で布を作るといった感じの事になります」

「なんですかその滅茶苦茶な話は」

 カルは頭を抱える。

 実際魔王がしている事はそういう事なのだ。

 魔力をエネルギーとして使うのでなく、魔力というエネルギーを物質になるまで圧縮する。

 マトモではないしまず真似できる芸当ではない。

 メイドとカルの反応にリズが「やっぱり凄いんですね魔王様!」と言って目をキラキラさせながら見てくる。

 当の魔王本人にしてみれば”やれば出来た事”なので、そこまでの実感はないのだが。


「で、その魔王様が作った素材ってどんなものなんです?」

「あぁ、ええと……白いほうが白光の衣で、黒い方が深淵の衣だ」

 少しの躊躇いの後魔王が答えると、カルとリズがなんとも言えない表情になる。

「……なんだ」

「あ、いえ……」

「そのネーミングセンスってどうなんですか」

「……っく、父上が作っていた頃からなのだから仕方あるまい……」

 そう、別に魔王が名付けた名前ではないのだ。

 見るとメイドから「何か問題でも?」と言ったオーラが出ている。


「えっと、何か名前が凄い感じですけど、凄い生地なんですか?」

 リズがごまかすように苦笑しながら尋ねる。

 それに答えたのはメイドだった。

「各種属性耐性は勿論、腐食や毒性の物質にも強く、強度はオリハルコン等、伝説級の希少金属に匹敵する防刃性を持ちます」

「……なんですかその最強生地」

 カルが呆れた調子で言う。

「え、えっと、そんな凄い物で私なんかの服を……?」

「別に私からすると普通に造れる素材なのだが……」

 逆に魔王が戸惑いの声を上げる。

「私のメイド服も魔王様の服も、この生地を使っていますので、特に気にする必要はありませんよリズ」

「そ、そうですか……」


「じゃあ私の服も一着作って貰えません?」

 声を上げたのはカルだった。

「何故そうなる」

 魔王は不満気な声で反応する。

「えぇ、イイじゃないですか、どうせ生地はこんなにあるんですし」

 そう言って示されたテーブルの上、人の胴ほど太さの布の束。

 確かに、何着かリズのメイド服を作っても余裕であまりそうではある。

 ……むぅ、作成量に加減さえ出来れば……。

 威力調整などが苦手な魔王の、不器用さが招いた大量生産だった。

「だが何故お前に無料でやらねばならんのだ」

 だが、しかし簡単に造れるから、余ってるからと言って、簡単に承諾するのは何だか癪に触る。

 ので魔王はごねる。

「と言うか魔王様、縫製するのは私なのですが」

 そこでメイドから横槍が入った。

「む……」

「じゃあメイドさん、お願いしますよ」

「そうですね……」

 魔王とカルを見比べ――、


 

「――ではこうしましょう」

 逡巡のあと、メイドは口を開いた。

「これから私は服作りに入ります、夜までには出来るでしょう。それまで三人、魔王様カル様はリズの私服や服以外の物を買い


に行かれて下さい。

 そしてそれらの代金を全てカル様が持つという事で」

「ほぅ」

「なんですって」

 魔王とカルが同時に声を上げる。

「え、えっとあの――」

「ちなみにリズに選択権はありません」

「え、え、ぅぐぅ……」

 何か言おうとしたリズをメイドの言葉が先制し、リズは言葉につまる。


「私に拒否権はあるんですかね?」

「勿論、その場合は服もありませんが」

 カルの言葉にメイドはニッコリと微笑む。

「ふーむ……」

「買い物の代金を支払うだけで最強の服が手に入るのですから、安いものではないですか?」

 メイドの言葉にカルは苦笑して肩をすくめる。

「まぁ、その通りなんですよね。仕方ありません、それでお願いしましょう」

「生地を作ったのは私なのだから、私の必要なものも買ってもらうぞ?」

「はいはい、構いませんよ」

 魔王の悪そうな笑顔の言葉にも、苦笑しながらカルは承諾するする。


「それではカル様の服も一着作りますが、デザインはどうされますか?」

「そうですね、シンプルに黒のコートにパンツ、白のシャツで構いませんが、採寸はいいんですか? スマートなスタイルでお願いしたいんですが」

「カル様のスタイルはこれまでで把握しておりますので問題ありません」

「サラッと凄いことを……あぁ、ついでに帽子とかも作って頂ければ」

「……まぁいいでしょう、装飾は最低限にさせて頂きますよ、時間がかかりますので」

「構いませんよ、むしろ割とシンプルな方が好みなので」


「相談は済んだか?」

「えぇ、お待たせしました」

 魔王に応えるとカルと魔王とリズ、三人は荷物を入れるポーチなどを肩に扉に向かう。


「よしリズ、買いまくるぞ」

「え、えっと……?」

「そこは同意しておけばいいのだ」

「は、はい……?」

「お手柔らかに頼みますよ、お二人共……」

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