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信頼と過信 真実と見定め(後編)

 私は宿の飛び出すと、指を一度鳴らす。

 私を中心に魔力が広がるのを感じる、ほぼタイムラグ無し、一秒かからず頭の中に都市の大まかな地図、そして現在位置が認識される。

「っと、すまぬ!」

 出際にぶつかりかけ、すれ違った相手に詫びの言葉を言うと、自分の居場所を確認、軽くフィジカルブーストをかけて一度目


の跳躍で一階、二回目で二階の屋根の上へ上がる。

 再度、自分の位置そして盗られたポーチの位置を探す。

 あのポーチは結構な貴重品だ、古いアーティファクトの一つであり、入口の大きさで入るものなら幾らでも入れることが出来るという魔法がかかっており、携帯できるもの位のサイズなら持ちたい放題という性能をしている。

 そんなものを、ただ単に持ち運ぶわけがない。もし失くしでもしたらメイドに何を言われるか。

 つまるところ、魔力によるマーキングをしてある。


「ところどころ魔力遮断をしている箇所があるな……」

 マップイメージの中に、ところどころ白く塗りつぶされて何が有るかわからない部分がある。

 そういうところは大抵、こういう魔力による感知を防ぐ為の術式をかけた防護幕や、場所自体に魔力遮断の魔法がかけられたりしているのだ。

 まぁ誰しも見られたくないものがあるという事だろうが。

 貴族街に多いのもなんと言うか……。


 と、思考が逸れた。ポーチの位置は……。

「む……」

 一般区画と貴族区画の間のような位置にある……。

 キナ臭いがまぁ。

「とりあえず、行くしかあるまい」

 屋根を削らない程度に軽く蹴り、宙を駆ける。

 こうやってみると、私の身体強化魔法の使い方もかなり上手くなったのではないかと思う。

 まぁあの二人にそう言えば絶対に「まだまだですね」とか言いそうなものだが。

 そう言えば今といいポーチを盗まれた時といい、珍しく今は本当にメイドが周囲にいないようだ。

 珍しい、本当に私用か何かなのだろうか。


「ここだな」

 区画を超え、貴族系の人間を相手するような高級品店が並ぶ建物の群れ。

 その一角、ポーチの反応がある、その路地裏に私は屋根から飛び降りると、足音も小さく着地する。

 ちなみにスカートはめくれ上がらないようにきちんと抑えている。まぁ中にはブラインドの魔法をかけてあるから見えはしないのだが。

「……んぁ? 何だお客さんか?」

 路地裏には、どうにも貴族というにははばかられる様な、冒険者風と言うか、まぁ一言に言ってしまえば小汚い男が二人、そしてその周囲に三人程のこれまた小汚いローブに身を包み、僅かに覗く顔から少女と伺える者がいた。

 中央の男の手の中に見覚えのあるポーチを見つけると、私はとりあえず努めて冷静に、

「そのポーチの持ち主だが、返してもらいに来た」

 簡潔に告げた。

 男はこちらとポーチを見比べ、そして何を思ったのか、目の前に立つ少女に蹴りをいれた。

「――ゲホ!」

 受身も取れずに近くまで転がってきた少女に慌てて駆け寄る。


「テメェーがとれぇから後着けられてんじゃねぇかバカが」

「貴様何を!」

 少女に向かって暴言を吐く男を睨みつける。

 少女の口の端からは血が垂れている、どこか切ったのか。

 それよりも気になるのは、あまりにも虚ろな目と、ローブの端から覗く素肌の所々に見える痣の数々だ。

「何ってお仕置きだよ、飼い主の言うことちゃんと聞けねーダメ奴隷によ」

 男の酷薄な笑みと言葉に、思わず頭に血が昇る。

 お仕置き、だと? こんな少女に? それに、奴隷だと?

「奴隷法は、大戦後すぐに禁止されたはずだが……」

「お、物知りだなお嬢ちゃん、そうだな、奴隷法なんて今はねぇな、そいつらは俺の召使、な。ちゃんと給金も払ってやってるんだぜ? 飯もやってる、どっちも超すくねぇけどな」

 隣の男と一緒に下卑た笑いを浮かべている、何がおかしいのか。


「あの、あなた、あの時、の……」

 少女が空虚な瞳でこちらを見ると何か言う。

 多分あの時、肩がぶつかった、ポーチを盗った時の事だろう。

 その首筋に信じられないものを見つける。

 黒い、焼印のような文様。

 隷属の魔印。印の付いたものは付けたもの、或いは付けた者が指定した対象者に絶対隷従となる魔法。

 大戦後、奴隷法が禁止になった時同時に禁忌になった魔法だ。

「なぜ、こんなものが……」

「ん? 気づいたのか? お前マジ何モンだ?」

 下卑た笑いを浮かべていた中央の男から、笑みが消える。

 私の反応が詳しすぎる事に気づいたのだろうか。

「ガキの癖に魔印の事しってやがるとは、どっかの回しもんか?」


 まぁ、そんな事は最早どうでもいい。

「え?」

 腕の中の少女が薄い光に包まれたかと思うと、次の瞬間には痣の後は消え、首筋にあった魔印の後も欠片も無くなっている。

 誰が付けたものか知らないが、この程度、私の解けぬものではない。

「!? ちっ、何だテメェ、何しやがった!?」

「やれ!」

 男の号令で、左右に立っていた少女達がこちらに飛んでくる。

 その手には抜き身の短刀。

 躊躇なく最速で突き出されたそれを、私は難なく受け止めると捻り上げる。

「ぅくっ!?」

 小さな悲鳴と共に二人の少女が手から短刀をこぼれ落とす。

「なっ!?」

 その二人の後ろから飛びかかり、奇襲を狙っていた男が驚いたのか声を上げる。

 奇襲ならば例え驚いても声を上げるべきではない。

 それに、この三人はあまりにも遅すぎる、話にならない。

 飛びかかってきた男とは対照的に、ゆっくりとすら感じる動作で私は足を真上に上げると、次の瞬間ブーツの踵を男の頭頂部に引っ掛け、床に思い切り叩きつける。

 岩のタイルが派手な音を立てて割れる。む、少し力を入れすぎたか。

 先程も言ったがスカートの中は見えないようにブラインドをかけているから問題ない。

 地面で伸びる男をタイルの破片から生成した鎖で拘束すると、左右で呆然とする少女の首筋、その魔印を軽くなぞり消し取る。

「これでお前達はあの者の言う事を聞く必要はない、怪我の治療は終わるまで待て」

 そう言うと、二人に笑顔を見せ、固まっている最後の一人の男へと近寄る。


「残るは、貴様一人だな」

 男はさっきまでの余裕はどこへ、引きつった顔をしている。

「て、てめぇマジで何なんだよ」

「ポーチを取り返しにきた、ただの魔王だ」

 固まった男の手からポーチを奪い取ると、ざっと中身を確認する。

 どうやら無くなっているものは無いようだ。

「マ、オウ?」

 男がこちらの言葉を反芻する、どうにも最近の者は魔王という単語に自体に縁がないのか? 反応があまりにもあんまりなのだが。

「マオーだか何だか知らねぇが、覚えてろよ、コッチの後ろには――」


「それ以上の言葉はご不要です」

 男が何かをいうより早く、その背後に見覚えのある影が音もなく着地する。

 白と黒を基調にしたフリルのついた服装。

 メイドだ。

 手にはガラスのような透明のナイフが握られ、男の首元に当てられている。

「貴方達の後ろで資金や援助を行っていた貴族は全て、こちらで処置させて頂きましたので」

「なっ!?」

 両手を上げていた男の顔が蒼白になり、その場に膝をつく。


「どうにも、おかしなところでお会いしましたね魔王様、宿の手配をお願いしていたはずですが?」

 ロープで男を縛り上げたメイドがこちらを見ながら言ってくる。

「宿の手配はしてある、それよりもお前こそこんな所で何をしているのだ?」

「私用に行かせていただくと申し上げていたはずですが」

「それは、確かにだが……」

 まさか本当に行っているとは、今まで大体、何かあればどこからともなく現れていたから、今回も見ているものだと思っていたのだが……。

「今回もどこかにいるのものだと?」

「口に出してないぞ!?」

「そんな顔をしておりましたので」

「ぐぬぬ……」

「信じていただくのは光栄ですが、それに頼りすぎるのはいけません。過信というものです」

「気を付けよう……」

「そうされて下さい」


「それで、さっき言っていた此奴らの後ろの貴族というのは何だ?」

「言ったとおり、後ろ盾になっていた一部の貴族です、非合法な人身売買や奴隷商等を行っていたようで。今はカル様が関与し


ていた者を全てまとめてカミオ様に引渡しいるところかと」

「あの男がそんな事を?」

「……魔王様の中ですとカル様は随分評価が低いようですが……今回のこの件も話を持ってきたのはカル様だったのですよ?」

 なんと……しかしどこからそんな情報をあの男は持ってくるのか……。

「奴もこの都市は初めてではないのか?」

「そこまでは聞いておりませんが。いずれにせよ情報の出処はお聞きしたいとは思っています」


 結局その後、カルが宿に来たのは空が明るくなり始める頃だった。

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