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信頼と過信 その前提と位置付け(前編)

この話(前後編)のみ魔王視点でのお話になります。ご了承下さい。

 今私は一人でメルウスの冒険者ギルドに来ていた。

 カルもメイドも私用らしい、そしてあろうことか私に今夜の宿取りを任せてどこかに行ってしまった。

 まぁどうせメイドはどこからか監視しているのだろうが。

 それにしても、何が「魔王様は金銭感覚ダメですから宿とか取れないですよね?」だ、思いっきり馬鹿にした笑顔で言いおって。

 それに返す言葉で対抗した私も大人気ないというか、ううむ……。

 悩んでいても仕方ない、受けたからには完全にこなして目にものを見せてやらねば。

 その為にこうしてギルドまで来たのだ。


 メルウスのギルドは大きい、正面の入口だけでソシラーヌのギルドの倍くらいあるのではないだろうか。

 扉のない入口を抜けると、大きなロビーがあり、幾つものシンプルなテーブルと椅子が並んでいる。

 その間を抜けてカウンターへと進む。

 幾つもの受付と受付嬢がいるが、とりあえず誰でもいいので話しかける。

「すまぬ、ちょっと聞きたいのだが――」

「はい、ようこそいらっしゃいました、どういったご用件でしょうか?」

 朗らかな笑顔と声が返ってくる。

 パッと見ためは私と同じ位の年頃だろうか、活発そうな娘だ。


「うむ、実はクエストとは関係ない話で申し訳ないのだが……」

「はい、クエストと関係無いとなりますと、どういった内容でしょうか?」

 嫌な顔一つせず対応してくれる、あぁ、あの二人ももう少しこういう反応をしてくれればいいのだが……。

「あの、どうかされましたか?」

 急に眉間に皺を寄せ額を押さえた私を、心配そうな表情で見てくる受付嬢。

 いかん、顔にと言うか全身で表現してしまっていたか。

「いや、大丈夫だ。それで相談なのだが、宿を探しているのだ」

「宿ですか」

 特に驚いた様子もなく、嫌がる様子もなく首をかしげる。

「その、変な相談ですまない……」

「いえ、大丈夫ですよ。それに結構いらっしゃいますよ、宿を探して相談しに来られる冒険者の方」

「む、そうなのか」

「ええ、ここは大きい都市ですから、遠くから来られた冒険者の方なんかは、宿自体は見つけれても、自分の収入に見合った宿を探せない事が多いので」

「あぁ、成程……」

 確かに、これだけ大きいと宿も多いのかもしれない、貴族街があるくらいだし貴族やそういう連中の宿もありそうだ。


「失礼ですが、冒険者カードを拝見させて頂いてもよろしいですか?」

「ん」

 言われるままに、腰に下げたポーチの中からカードを差し出す。

「ランク四と……お一人で?」

「いや、仲間があと二人居る」

 返されるカードをポケットに仕舞いながら答える。

「そのお二人も同じランクでしょうか?」

「いや、それが……」

「……? 下の方でしたか?」

「……五と、九だ……」

「あ、上の方でしたか――」

 苦笑した娘の顔が、何故か急に驚いた表情に変わる。

「え、きゅ、九ですか? 九ランクと言ったら五十人もいないような……そんな方とご一緒なんですか」

 何、奴のランクはそんなに競争率高いのか。

 そういえばランクの細かい説明とか聞いて無かった気がする。

「ランク九ってそんなになるのが難しいのか?」

「難しいですよ、何しろ実質ギルドの冒険者ランクの最上位と言っても過言じゃないですから」


「ん? ランクは十まであるのだろう?」

 「あー」と声を上げながら娘がなんとも言えない表情をする。

「一応ランク十まである事になっていますけど、ランク十は世界に十人しかいないんですよ。そのほとんどの方が過去の勇者や魔王と言った伝説クラスの能力の方だそうです」

 レジェンド枠あるんじゃん。

 それはさておき、勇者は知らぬが魔王と言うと父上か、少なくともメイドクラスかそれなりの力を持つ者達なのだろう。

「そうなると、実質九が最高ランクということか?」

「そうですね、十は現在のランカーを超える業績を上げるか、その方が亡くなって繰り上がりで任命されるしかないので、そうなりますね。

 なのでランク九に上がるの自体も相当な業績を上げる必要があります。その方も相当頑張ったのでしょうね」

 あのカルが、か……中々想像しづらいものがあるが、そうか、奴も奴なりに苦労しているのだな。


「それで、宿の話でしたが、九の方がいるのでしたら貴族街の宿などでも取れるのでは?」

「いや、あまりそこに頼るやり方は仕方はしたくないのだ……なので四か五あたりの人間が使う宿で頼む」

「なるほどですねー、わかりました、少し待っていてくださいね」

 そう言った娘がカウンターの中に屈み込むと、何かをゴソゴソと漁る音が聞こえてくる。

「あり、ました!」

 そう言って彼女がカウンターに広げたのは、どうもこの都市の地図、しかも一般区画のモノのようだ。

 その地図の上に、幾つか赤くマークするように塗りつぶされた場所がある。

「この近くだとこの二軒何かがおススメですね、後はちょっと離れたところで……こことかもいいかもしれません、こぢんまりとしてますけど、お値段控えめで各設備揃ってますよ」

 そう言いながら赤いマークの数カ所を勧めてくる。

 ここに近いと騒がしそうだな……。

「そのここからちょっと離れた宿というのは、なんという名前なのだ?」

「えっと、銀皿亭って名前ですね」

 宿っていうより食事処のような名前なのだが……。

「とりあえずそこに行ってみる事にしよう。えっと、道は――」

「ここを出て右へ、大通りをずっと真っ直ぐ行っていればわかると思いますよ」

「そうか、感謝する」

「いいえ、お気を付けて」

 朗らかな彼女の笑顔に見送られて、私はギルドを後にした。



 ギルドの面した大通りは一般区画の中心となる通りであり、その分やはり人通りは多い。

 しかも今は少し日が傾きかけてきた頃、夕食に出かける者やそういった者達が丁度動き始める時間のようで、余計に人が増えている。

 そういう者たちとぶつからぬ様歩いていると、だんだん目が回ってくる。

 たまにすれ違った者があからさまに横目で見てくる事があるし、なんだというのだ。

 その時、丁度前からきた同じ背丈位の少女と肩がぶつかる。

「っと、すまぬ大丈夫か――」

 と声をかけようとしたのだが、既に少女は人ごみの中に消えていた。

 私は深い溜息をつくと、もはや人ゴミには目もくれず、ずんずんと前に進んでいった。



「一人部屋が、ない?」

「あぁ、今は一人部屋は満室でね、お客さん何人組なんだい?」

 目的の宿、『銀皿亭』に着き部屋の確認をしたところ、恰幅のいい女将はそう返してきた。

「三人、だが……」

「なら四人部屋が空いてるからそこなら使えるよ、三人分の料金にしてやるしお得だ、どうだい?」

「ぐぬ……しかし男一人と女二人同室と言うのは……」

「そんなのこっちは知らないよ、アンタが部屋を借りるかどうかだけさ」

 く、確かに、メイドも前回気にしていなかったし、完全に私個人の問題だが……。

 日も既に傾き掛け、空は紅に染まりつつある。


「ちなみに、近々闘技大会ってのがあるらしくて、それで冒険者が集まりつつあるらしいよ。部屋取るなら早めにしとかないと無くなっちまうかもねぇ」

「なっ……」

 そんな事はギルドでは聞かなかったぞ……。

 微妙にニヤついた表情の女将が凄まじく腹立たしい、絶対分かって言っているだろうこの者。

「仕方、あるまい……その四人部屋を三人で借りる」

「へい毎度、部屋は二階の角部屋だよ、朝夕二食出すけど、不要なら言ってくれればその分は安くするよ、あと風呂は大浴場が一階にあるからね」

 そのあたりは前回の宿と変わらんな。

「じゃ、とりあえず何泊だい?」

 あぁ、そういえばそこらへん聞いていないし話してもいないような。

 仕方ない、ここは私の独断で決めるしかあるまい。異論は認めんカタチで。

「とりあえず二泊で頼む」

「はいよ、料金は二日で銀貨二十枚ね」

 言われ私は腰に下げたポーチに手を伸ばす。

 手が空を切った。

 

 あれ?


 一度、二度。

 手は何もない空間を行き来する。

 あっれー?


 冷や汗を書きながら自分の腰付近を見る。

 そこには何もない、いや、ポーチの紐だけが残っている。

「なんだい、スリにでもあったのかい? 可哀想だけど代金が払えないん――」

 女将が言葉を続ける前にポケットの中に一枚だけ残っていた冒険者カードをカウンターに叩きつける。

「これで、ギルドの方に支払い請求できるはずだ、それで頼む」

「……はいはい、んじゃそれで、んで、これからどうすんだい?」

「……ちょっと用事が出来たから出かけてくる」

「あいよ、お気を付けて。でもその前に台帳に名前だけ書いておくれ」

 私は渡された台帳にマオー、メイド、カルの三名の名前を書くと、足早にその場を去った。


 迂闊過ぎた……盗られたするなら、あの時しかない。

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