炎の拳
パトカーで十分ほどで警察署に到着した。
「何やってんだお前は!」
警察官が語気を強めて言った。
「あの野郎が万引きしてたから」
「だからといって暴力をふるっていいはずないだろ!」
「……」
クリハは言葉を失った。
「捕まえるのは私達の仕事だ」
「ハイ……」
そう言った時、ゆっくりと扉が開いた。中に入ってきたのはクリハの両親だった。
「本当にすみません……」
「いえいえ、彼は正義感が強いようで。行き過ぎた暴力を振るってしまったようです」
警察官は先ほどのクレハとの会話とは打って変わってやさしい口調で両親に話した。
「ご家庭でしっかりご指導をお願いします」
午後三時二十分、警察署から解放された。
帰り道に会話が交わされることはなかった。クリハはあえて両親と目を合わせようとしなかった。
クリハは帰宅後、両親からやさしい口調で説教を受けた。すぐに暴力を振るわないことなどについて話された。
説教のあと、クリハは自分の部屋に戻るフリをして壁の裏に隠れて両親の会話を盗み聞きした。
「もうアレを持ってくるしかないか……」
父が嘆くように言った。アレが何なのかクレハには分からなかった。
「完成してないんじゃないの?」
「いや、もう八割はできてるんだ。もう今の状態でも大丈夫だと思う」
「そうなの……」
「電話する」
「もしもし?ミヨを今から持ってきてくれないか?」
そのロボットの名前はミヨと言うらしい。
「いや、今の状態で大丈夫。うん。試験運用も兼ねてやるから」
「俺、実験台になるの?」
クリハは小さな声で呟いた。
「交通費は俺出すよ。あと今度奢ってやるよ。ハッハッハッハッ」
父は高笑いした。
クリハはこれ以上聞くのが怖くなり、自分の部屋に戻っていった。
「クソッ……」
クリハはぬいぐるみを強く殴った。
「うん?今の感じ、いつもと違うぞ?」
クリハはもう一度ぬいぐるみを殴った。
「もう一発。ちょっと捻ってみるか」
クリハは全力でぬいぐるみを殴った。
「うおっ!なんだこれ」
クリハの拳から一瞬、大きな炎が見えた。
「気のせい……?いや」
クリハが殴ったピンク色の熊のぬいぐるみには確かに焦げ目がついていた。
「え?俺超にょ、超能力に目覚めた?」
クリハはもう一度ぬいぐるみを殴った。また、彼の拳に大きな炎が見えた。
「この炎の拳でもう正義は最強になる……」
クリハは笑顔で呟いた。




