家族と日課
「うわ、確かに赤いな」
クリハは鏡を見て、自分の頬をこすった。一応水で洗ってはみたが、当然この赤みが消えるはずがない。小さく息を吐いたとき、
「ただいま~」
三年前から単身赴任で広島に行っているクリハの父の太い声が玄関から聞こえた。
「おかえりなさい~」
母は玄関へ駆けて行った。クリハは小さく「おかえり」とだけ言って食卓へ行った。
晩御飯は刺し身の盛り合わせ。クリハの父の大好物で、三ヶ月に一回帰ったときには必ず刺し身の盛り合わせが出る。
食事中、父はあえてなのか、クリハの頬の赤みには触れなかった。会話もあまり無く、食卓にはバラエティ番組の声しか響いていなかった。
食事が終わると、クリハはすぐに自分の部屋へ向かった。
「腹減ったな」
夜九時、ふとクリハはそう呟いた。一昨日買ったプリンが冷蔵庫にあることを思い出し、食卓へ行った。
階段を降りると、食卓から両親の声がした。
「クリハ、最近喧嘩ばかりしてるのよ」
「前も聞いたよ」
「どうにかならないの?」
「大丈夫、もう少しで出来るんだよ。次来るときは多分持ってこれる」
クリハは驚愕した。え?ちょっと、何が出来るの?
クリハの父はある研究所でロボット工学の研究をしている。おいおい、狸型ロボットでも来てくれんのか?クリハは冗談交じりにそう考えた。
プリンを食べたかったが、あの雰囲気では入っていけるはずも無く、我慢をして寝ることにした。
日曜日。クリハの趣味は悪を懲らしめることだ。当然パトロールにも行く。
「行ってきます」
「喧嘩しないでよ」
悪事を働く者がいなければ暴力も振るわないさ。そう心のなかで返事をして玄関を出た。
はじめに大きめのスーパーに出向いた。このスーパーは大きめながら、防犯カメラがついていないため、よく万引きをされている。
クリハは上下ジャージにサンダル。その格好で約二時間徘徊している。むしろクリハのほうが怪しまれそうだ。
大学生くらいの金髪の男が、辺りを頻繁に見回したりと不自然な動きをしていた。クリハは怪しみ、その男を尾行することにした。
その男は酒コーナーで立ち止まり、周りを見回した。クリハは見つからないように少し離れたところから男を見た。
男は缶ビール二本をジャケットの中にいれた。クリハは自分の目は間違っていなかったと小さくガッツポーズをした。
男が店を出た瞬間、クリハは店を駆け出した。
「おい」
クリハは男の肩を掴んだ。




