有名になる
停学が解けて十三日目。まだクリハが話したのは優介のみ。
しかし、もともと頭が良くなく、よく警察にお世話になっていたこの学校が、クリハの復帰から落ち着いているようだ。
クリハはいつものようにいつもの帰り道を歩いていた。あの時の河川敷が見えた。
背後から話し声が聞こえた。
「やめてくださいよ」
「ヘヘヘ……。いいじゃねえか」
軽く後ろを振り返るとガタイのいい男と小さなメガネの男が歩いていた。
「金出せよオイ」
後悔してももうこの正義感は本能と化しており、自分自身でも止めることが出来なかった。
クリハの思い切り振った拳がガタイのいい男に受け止められた。
「は……?」
「ハハッ。なんだ、アツシさんがボコボコにされた相手ってこんな弱いパンチしてるんだな」
クリハの左手が男の顔面を捉えた。それでも男は動じなかった。
「やっぱり簡単に騙せますね、リュウさん」
メガネの男は笑いながら言った。
クリハはここで彼らの相手をしては負けだと思い、落としたカバンをまた背負い、歩き始めた。
「おい待てよ」
リュウと呼ばれる男がクリハの襟を掴んだ。
「チッ」
クリハは軽く舌打ちをして腕を振り払り、走ってその場を去った。
「アイツってビビリなんだな。正義のために拳をふるうとかダセえな」
リュウと呼ばれる男はわざとクリハに聞こえるように呟いた。
「お前なんて言った」
クリハは再びカバンをおろした。そしてリュウのもとへと歩み寄った。
「だから、君はビビリなんでしょ?」
リュウは半笑いでそう言った。
「もう一度言ってみろ」
クリハの目はまるで獣のようだった。
「君はビビ――」
先ほどのパンチより数倍も早いものがリュウの右頬に突き刺さった。
「それだよそれ」
リュウはまだ笑っているが、やせ我慢をしているのが冷静さを失ったクリハにも分かった。メガネの男は後ずさりしている。
「俺の番な」
リュウはそう言うとクリハの胸ぐらを掴んだ。
「来いよ」
クリハには自分は勝てるという根拠なき確信があった。
リュウは彼自身最高の力で殴った。メガネの男は目を閉じている。
「効かねえなぁ」
「なんだとこのっ」
リュウは怒り、何度もクリハの顔を殴った。約二十発殴り、リュウに疲れが見えはじめたところでクリハは言った。
「そろそろ俺の番でいいか?」
返事を待たずにクリハは力を込めてリュウのみぞおちを殴った。リュウは一瞬仰け反った。その隙を逃さずさらに強い一発をみぞおちにいれた。リュウは後ろ向きに倒れた。
「お前は犯罪も何も犯してないから、この程度にしておいてやるよ」
もう一度カバンを拾い上げゆっくり歩いて行った。
「ただいま」
「アンタその赤い顔、また喧嘩したの?」
殴られた時はあまり痛みを感じなかったが、顔は赤くなっていた。
「今日お父さんが帰ってくるのよ。顔洗っときなさい」
「洗ったら落ちるもんじゃねーだろ」
小さく文句をこぼし、洗面所に向かった。




