無い居場所
久しぶりの高校生活。クリハに近づく者は居なかった。
彼のクラスメートは停学になるきっかけの事件をその目で見たからだ。
クラスメートのある生徒がおとなしい生徒の筆箱を窓から投げた。その瞬間、クリハはその生徒の胸ぐらを掴み、何度も殴った。
先生に羽交い締めされ、止められてから見たその生徒の顔は今まで見たことがないくらいに真っ赤に腫れていた。
クリハは周りを見回した。殴った生徒は学校に来ていないようだ。
クリハは顔を伏せた。あれは久しぶりに後悔をした出来事だった。
その時、誰かに肩を叩かれた。顔を起こすと、そこにはあのおとなしい生徒がいた。
「優介か」
クリハはあの時の悲しそうな顔を思い出した。しかし今は笑顔だ。
「あの時はありがとう。クリハのおかげで……」
「おいおい、馬鹿じゃねーのお前。そこでお礼をいうからあんなことされんだよ」
「あ、ああ」
「それに、お前のためにやった訳じゃねーしな」
「そうなのね……」
「おうよ」
「でももうあそこまでやらないでね!」
「おうよ!」
クリハはできるだけの笑顔で応えた。あの悲しい顔をしていた優介が笑顔になったことに対する嬉しさ、誰にも相手にされなかった自分に話しかけてくれたことに対する嬉しさ。それ以外にも沢山の嬉しさと照れが混じっての笑顔だった。
「今度アイス奢ってやるか」
そう小さく呟いてクリハは再び顔を伏せた。
結局優介としか話さずに、一日が終わった。いつもの帰り道の近くには昨日男を殴った河川敷がある。
気になったが、あえて立ち寄らずに足を速めた。
ここから自宅まで約二十分。




