始まった
昨日のことを思い出しながら、クリハは教室の横開きのドアを開けた。
「おお!モテモテ男クレハ君じゃないですか~!」
一番に声を上げたのはクラスで一番のお調子者のレントだった。あの事件以来、初めての会話だ。
「いよっ!色男!」などとレントの取り巻きが続く。その近くで優介が笑顔で小さくピースしていた。
「いやぁ……その……」
「照れんなって」
レントは笑顔でクリハの背中と叩いた。
「ヘヘヘ……」
クリハは笑ってごまかしながら優介のもとへと向かった。
「お前、どこまで話した……」
「い、いや……全部」
ということはミヨが悪ノリで言ったクリハの彼女宣言までということだろう。
「ねえねえ、どこであんなカワイイ子と知り合ったの?」
女子グループがクリハのもとへ詰め寄った。
「い、家?」
「キャハハハ、家ってなによ家って!」
笑いながら女子グループはクリハのもとから離れていった。
授業中も後ろの席の男子や隣の席の女子がよく話しかけてきた。ミヨがいるだけでここまで学校生活が変わるとはクリハも思っていなかった。
「ただいま」
玄関を開けた瞬間、いつものようにすごい速さでミヨが迎えに来た。
『おかえりなさい!』
「おう」
『今日の学校生活はどうでしたか?』
「いや~ミヨのおかげでまあいろいろあったよ」
『ごめんなさい』
落ち込んだ表情になる。
「いや、そういう意味じゃなくて、楽しかったっていうことだよ」
クリハは精一杯の作り笑いでミヨを慰めた。
『そうですか!』
ミヨは落ち込んだ表情から一転、とても輝いた笑顔になった。
『今日も散歩するんですか?』
「そうするか。じゃあ支度するからここで待っててくれ」
『わかりました!』
ミヨは笑顔のままこたえた。
クリハは自分の部屋で着替えながら呟いた。
「なんか、俺の人生がまた新しく始まった気がするなぁ」




