ブランコ
二人はこの前クリハが万引き犯を捕まえたスーパーの近くにきた。このスーパーは家から歩いて二十分。これでもクリハの家からは一番近いスーパーだ。
『これがスーパーというものですか!』
ミヨはまた目を輝かせた。クリハは得意気に話した。
「そうだな。ここはそこそこでかい癖に防犯のためのお金ケチッってるからしょっちゅう万引きされるんだよね」
『そうなんですか!許せませんね!』
「おお、ミヨもそう思うか!」
『もちろんです!』
「そんで、この前俺はここで万引きしたやつを懲らしめたんだよ!」
『おお!』
「そしたら警察にこっ酷く怒られてさぁ」
『正義のためにやったのにですか?かわいそう!』
クリハは不思議に思った。コイツ俺を制御するために来たんじゃないのか?
『今日も万引き犯を捕まえるんですか?』
「いや、今日はいいや」
『そうですか』
ミヨは分かりやすく落ち込んだ。
「まあ、そういう悪い輩はここにしかいないわけじゃないしな」
『そうですよね!世界中に悪い輩はたくさんいると聞きました!』
「だ、誰から?」
ミヨを初めて起動したのはクリハの家のはずだ。
『クロジさんです!』
「なんだ、父さんか……」
なぜかクリハは安心した。
『では、もっと歩きましょうか』
「そうだな」
それから二十分ほど歩くと、クリハが今まで行ったことのない公園が見えた。その公園は小さく、ブランコ二つと滑り台、ジャングルジムしか置いていなかった。
「こんなとこにあったのか」
『知らなかったんですか』
「おう」
二人はそれ以上何も言わず、公園に足を踏み入れた。入り口のすぐ横に「球技禁止」と書かれた看板があった。
ミヨはブランコを指さして言った。
『乗ります?』
「そうだな」
二人の乗ったブランコから錆びた金具の音が鳴った。
「いやー久しぶりだなあ」
『私は初めてです!』
「風が気持ちいいだろ」
『そうですねー』
それから会話を交わしながらブランコを漕いだ。
「あ!クリハ!」
「はっ!?優介?」
「なんだよ~そんなに可愛い彼女いるんだったら教えてくれよ~!」
「こ、コイツは彼女じゃなくて……その!」
『あら、ひどい!昨日告白してきたじゃないですか!』
「悪ノリするな!」
「これ明日クラスで言ったら人気者になれるぞ!はいチーズ」
優介はポケットから取り出したスマートフォンで二人の写真を撮った。クリハの必死の形相の横でミヨは笑顔で控えめにピースをしていた。
「じゃあね~」
優介は走って帰っていった。
「はぁ……」
クリハは大きなため息をついた。




