第一節
私は、隣の席の高橋君に恋をしています。
サッカー部の朝練を終えた彼が教室にやってきて、席につきました。
「菊池さん、おはよう」
「お、おはよう、高橋君」
彼はいつも必ず私に挨拶をしてくれます。もちろん深い意味はないのでしょうが、私はそれが毎日楽しみでしかたありません。
高橋くんは勉強もスポーツも出来てカッコイイし、みんなに優しいのでモテモテなのです。
先輩後輩問わず女の子からよく話しかけられています。
「よーす高橋ーおっはよー」
「おーす」
今おしゃべりしているのは由美ちゃん。由美ちゃんは女の子から見ても美人で髪もサラサラ、モデルさんみたいにスラっとした体型で、二人が一緒にいるとお似合いのカップルのようで、私はそれが少し羨ましいです。
「やっべ、英語の教科書忘れちった」
高橋君はたまにおっちょこちょいです。
「私の貸してあげよっか?」
由美ちゃんは自分の鞄から教科書を取り出しました。
「いや、そしたらお前はどうするんだよ」
「それもそうね~」
由美ちゃんはヒラヒラと手を振りながら、自分の席に行ってしまいました。
「菊池さん」
「はい!」
突然話しかけられたので少しビックリして、声が大きくなってしまいました。
「一時間目、教科書見せてくれないかな」
「どどどどどうぞ!」
私は高橋君に教科書を手渡しました。
「ありがとう。でもこれだと菊池さんが困っちゃうから、机くっつけてもいい?」
「は、はい!」
ここここここれはどうしたらいいのでしょうか。いえいえ、高橋君と一緒に教科書を見るだけですから、それだけですから!
高橋君はなるべく音を立てないように机と椅子を私の横に移動させました。
「よし。たしか今日はこのページ…………」
高橋君は教科書をめくっている途中で、手を止めてしまいました。
「ど、どうしたの……?」
「いや、これ……」
なんでしょう、高橋君は顔を赤らめながら私に教科書を開いて見せてきました。
「…………っ!! ご、ごめん!」
私は奪い取るようにしてすぐさま教科書を机の中に隠しました。なぜなら、そこにはページの隙間に落書きした、サッカーをしている高橋君の絵が載っていたからです。しかも、I LOVE YOUのコメント付きで。
「み、見た……?」
「う、うん……」
あぁ、私の密やかな恋は今終わりを告げてしまいました。まさかこんな形で知られてしまうなんて。高橋君は前を向いまま、こちらを見てくれません。
「菊池さん」
「……はい」
「教科書、見せてくれないかな」
「はい……」
一度見てしまっては、もう隠してもしょうがありません。私は高橋くんに再び教科書を手渡しました。
高橋君は教科書を受け取ると、さきほどのページに何かを書き加えています。
「菊池さん、これ」
高橋君が教科書を開いて私に見せると、I LOVE YOUの下に小さく、ME TOOと書かれていました。