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case1.古澤愛美の場合



【case1.古澤愛美の場合】



ニコの後を追い、行きと同じように眩しい光の中を流れに流れていくと広く闇が続く場所へと辿り着いた。

その中にぼんやりと灯りが灯っている。

ニコの話ではあそこに今回担当する相手が居るらしい。名前を古澤愛美と言うそうだ。


「では、私がお手本を見せますので、来栖様は今回は側で見ていて下さいませんか? 」


「あ、ああ…うん、それは分かったけど…いい加減【様】付け止めない? これからは同僚なんだからさ」


いつまでもニコがかたっ苦しい呼び方をするので、痺れが切れた。

俺がそう指摘するなり、ニコは照れ臭そうに「それもそうですね」なんて笑ってみせる。

そんな話をしながら、2人で灯りの元へと近づいていった。


「あの…古澤愛美様で間違いないでしょうか? 」


俺の時もそうだったように、ニコは灯りの下で疼くまる少女に声をかける。

疼くまっていた少女は声に反応して顔を上げた。どうやら泣いていたようだ、その顔は涙で濡れていた。


古澤愛美、6歳。

趣味は人形遊び、好きな食べ物はオムライス。

ごく普通の一般家庭で不自由なく育った彼女は、今日、俺と同じく不慮の事故によって亡くなったらしい。


予めニコから教えてもらった情報がそれだった。

創造主が毎日、その日亡くなる人間のリストを担当者宛に送ってくるのだという。


「あな…あなた達は、誰ですか? 」


泣いて声を引きつらせながら愛美が尋ねてくる。

愛美の足元には見るに耐えない姿の少女の身体が横たわっている。

ワケも分からぬまま、こんな暗い闇の中に1人取り残されてさぞかし不安だった事だろう。俺達を見る目も怯えていた。


「あ、あの、私はニコです! こちらは来栖様…じゃなくて来栖さんっ! 私達、死後のアフターサービスの仕事をさせていただいてます! 」


やっぱり俺の時と同じように、ピシッと敬礼みたいなポーズを決めて、ニコは自己紹介をする。

気に入っているのだろうか? それともこれがマニュアルなんだとしたら俺もやらなきゃいけないのだろうか? それは少し勘弁願いたい。


「…死後のアフターサービス? 」



涙で顔を濡らしたままの愛美が首を傾げて聞き返す。

当然そこは誰でも疑問に思うだろう。

流れでニコも、俺の時と同じように説明を始めた。


「はい、あの…落ち着いて聞いて下さいね…古澤様は不幸にも突然の事故により、亡くなられてしまったのです」


「亡く…られ? 」


暫し目をパチクリとさせていた愛美も意味を理解したのか、その顔が恐怖に歪む。

足元の自分の姿を見下ろしては再び泣き出してしまった。


「あ、あ…えっ…!だ、大丈夫ですか? 泣かないで下さいっ…! 」


慌てふためくニコ。

しかし愛美にそう泣くなと言っても無理があるというものだ。

まだ幼い彼女に死の現実を突き付けるのは重い、ふと愛美の姿が妹の姿と重なった。


「ニコ、ごめん…。ちょっといいかな? 」


ニコと愛美の間を割って入る。

ちょうど目線が愛美と重なるぐらいまで腰を落とし、出来る限り優しい言葉で俺は愛美に話しかける事にした。


「ごめんな、急に…そんな事聞かされてもビックリしちゃうよな」


頭をポンポンと叩いて宥める。

そう、俺にも小さな妹が居る。大分年の離れた小さな妹。

きっと今頃、俺の死を悼んでくれているだろう小さな妹。

よく泣きじゃくる妹を宥めるのは兄である俺の仕事だった。


「怖いよな、怖かったよな、でももう大丈夫だ。お兄ちゃん達が側に居るから」


落ち着くようにゆっくり語りかける。

横でニコがハラハラしながら俺達を見ていた。


「お兄ちゃんもな、ちょっと前に事故で死んじゃったんだ。だから愛美の今の気持ちはすごく分かるよ」


とは言っても俺は気付いたら死んでいたって感じだからよく覚えてはいないのだけれど。


「…お兄ちゃんも、死んじゃったの? 」


自分と同じモノに出会えた事に安心したのか、愛美がたどたどしく口を開く。


「ああ、そうなんだ。それをこのお姉ちゃんにお世話されてな」


事の経緯を詳しく話す。

死んでしまった人間に与えられるサービスがある事。

そのサービスを提供する人間、ニコ達が居る事。

俺もその仕事を手伝う事になった事。

そして今回担当する事になったのが愛美である事。

ひとつずつゆっくり愛美に教えていく。


「…分かった、もうパパとママには会えないのね」


全てを話終えた時、愛美が淋しそうにそう言った。







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