私こう見えても神だからね
「では、創造主様にお伺いを立ててきますのでここで少し待っていて下さい」
ニコに連れられて辿り着いた場所は煌びやかな宮殿みたいな所だった。
道筋はよく覚えていない、眩しい光のような道をただひたすら流れて来たイメージだ、気付いたらこの場所に辿り着いていた。
ニコを見送りながら辺りを見回す。
ちらほらと行き交う人が見えるが、誰も忙しそうだ。この人達もニコと同じような立場の人なんだろうか?
「お待たせしました、来栖様。創造主様がお会いして下さるそうです」
ニコに呼ばれて俺は宮殿へと足を踏み入れる。
広いエントランスから伸びる赤い絨毯が敷き詰められた長い長い階段を昇った先に、創造主が居るという部屋があった。
ノックの音が響く。
「失礼します」とのニコの言葉に続いて俺も挨拶を済ませると、部屋の中からは若い女の声が聞こえた。
「はい、どうぞ入ってー」
促されて踏み入った部屋の中を見て、俺は驚愕する。
それまで俺は創造主ってヤツはきっと厳つい爺さんなんだろうな、と思っていた。白ヒゲをたくわえた頑固で偏屈な爺さん。そんなイメージだった。
しかしどうだろう、目の前に居る人物をパッとみた時に真っ先に目がいったのが豊満な胸であった。
そう、創造主は女だったのだ。
「やあやあ、ニコから話は聞いたよー何君、ウチの仕事手伝いたいんだってー? 」
創造主がニコニコとフランクな口調で話しかけてくる。
立ち上がってみると彼女は意外と俺より背が高い、180ぐらいはあるのか? スラリと長い足に括れた腰、豊満な胸と腰まで伸びた青の髪を一つに括っている。
「いやー珍しいねー、ってか物好きだねー」
創造主は俺の側へと近寄ってきては頭をポンポンと叩く。
内心少し小馬鹿にされている気がして腹が立ったが、そこはやはり神といったところだろうか、妙な威圧感があって物怖じしてしまう。笑顔さえも胡散臭いような気がした。
「いいの? いいの? 第二の人生こんな所で台無しにしちゃって? ウチとしては人手は足りないから大歓迎なんだけどねー」
「あ、はい…そちらさえ良ければ俺は別に」
畏まりながら答える。
何か凄く喉がカラカラしてきた、ガラにもなく酷く緊張しているようだ。
横でニコも不安そうな顔をしている。
「あっそ、じゃあ採用ー詳しい仕事内容はニコに聞いてー? 私そういう説明は苦手だからさー」
ケタケタ笑って俺の頭から手を離すと創造主はそう告げるなり、部屋の中央に位置する自分の机まで戻って行く。
あまりにも呆気なさすぎて戸惑った俺は、思わずつい、声をあげて引き止めてしまった。
「ま、待って下さい! え? いいんですか? そんな簡単に…」
「え? 言ったよね? 人手は足りないから大歓迎なんだって」
足を止めて振り返った創造主はキョトンとした顔で俺を見つめている。
だがやはり怖い。
底知れぬ怖さというか、何を考えているか分からない怖さだ。
「いや、でも俺…さっきまでただの一般人だったわけだし」
「んー? 何? 本当はやりたくないの? 」
そう訊ねられて俺は首を勢いよく横に振る。
「そういうわけじゃなくて、何かそういう特別な手続きとか…」
「あー…そういうのないない! 面倒くさいし、必要な力はもう与えたからねー」
手をヒラヒラと動かして創造主は答える。
必要な力は与えた、だって? 一体いつの間に?
そんな俺の考えを見抜いていたのか、創造主はニコニコと笑っていた顔を不敵に崩しては一言俺に向けてこう言った。
「私、こう見えても神だからね」
そこから先はあまり覚えていない。
とにかく猛ダッシュでお辞儀して、ニコと一緒に部屋から飛び出したぐらいだろうか、ともかくあの人を敵に回すような真似だけは絶対にしちゃいけないって事だけ頭にしっかり叩き込んでおくとする。
別室でニコからここの仕事について学びながら、そんな事を考えていた。
「えっと、ですからつまり私達は亡くなられた方の元に訪れて、転生のお手伝いをするって事ですね! 」
マニュアル本を片手に指示棒を持って、銀縁の眼鏡をしながらニコはまるで教師のように俺の目の前で黒板をカツカツ叩いている。
形から入るタイプなんだろう。
そんな姿もなかなかに可愛い。さっき少し怖い思いをしたせいか癒される。
「先生、具体的にはどうやるんですか? 」
挙手して質問すれば、ニコもノって返答してくれた。
「はい! いい質問ですね来栖様! そうですね、これは口だけでは説明が難しいので図に描いて説明しますね! 」
そう言ってニコは黒板に少し歪な人の絵を描く。
「私達は亡くなられた方の希望通りの転生を、如何にバランスよく配置し創造するかという事なんです」
「例えば…」と言って黒板の人の絵に金貨の絵を追加していく。
「一番多いのがお金持ちになりたい、ってモノなんですが…全ての人がそんな希望を出しては世界のバランスが崩れてしまいますよね? 」
まぁ、確かにそうだろう。
全てを平等にしようとしても必ず何処かに貧富の差が出たり、綻びが出たりする筈だ。
「ならどうするか? と言えば、そういう時は世界を分けたりします」
黒板に矢印を付け加えていく。
その矢印の先に『世界』の文字を丸で囲んで付け加えた。
「例えば来栖様の世界で言われていた、ゲームやら漫画に登場する世界もその一つです」
「は…? 」
困惑していると、ニコは苦笑しながら説明を続けた。
「あれも私達が世界を分け、創造した結果なんですよ、それを世界のバランスが壊れないように都合つけたんです、想像や妄想という形で」
「ちょっと待って意味わかんなくなってきた…」
俺は頭を抱えた。
思ったより複雑な話だ。
つまりの事、俺が昔読んできた漫画やアニメなんかも誰かの希望に沿わせる為に作られた世界だったという事だろうか。
「まぁ、そのうち理解できますよ」
頭がパンクしそうになっている俺を見ながらニコが微笑む。
「習うより慣れた方がいいかもしれないですね、どうですか? 私、この後またお一人担当しなきゃいけない方が居るんですけど…一緒に来ませんか? 」
「あ、ああ…その方がいいかもしれない」
そうして俺はニコの申し出を有難く受け入れると、始めての仕事に向けて気分を入れ替える事にした。