どうやら俺は死んでしまったらしい。
突然だが、俺は死んでしまったらしい。
ふわり浮かんだ足下に自分の身体が見える。無惨な姿だ。
思えば短い人生だったな、なんて死んでから走馬灯のように今までを振り返ってきたけれど、特に楽しい思い出なんてない。彼女もいない。
これからどうすればいいのだろうか、と考えていたら目の前に可愛い女の子が現れた。
「こ、こんにちは! 」
女の子がぺこりとお辞儀をする。
背丈は150cmぐらいだろうか、俺の目線より遥かに低い。
銀髪? いや、白髪に近い不思議な髪の色とワインレッドの鮮やかでぱっちりとした瞳がとても印象的だ。
正直言って好みのタイプだと思う。
まぁ、そんな事はさておいて、だ。
彼女は俺の顔をジッと見つめては、オドオドした様子で声をかけてきた。
「えっと、来栖マコト様…で間違いないでしょうか? 」
「え? あ、ああはい」
名前を呼ばれて思わず返事をする。
来栖マコトは確かに俺の名前だ、来栖マコト18歳男、趣味はネットサーフィン、好きな食べ物はたまごかけご飯。ついでだから自己紹介をしてみた。
「そういう君はどちら様で? 」
彼女の名前を尋ねてみる。
当然ながら別に下心があるわけではない、いや全くないというわけでもないけれど、ここで名前を尋ねる事に問題はないハズだ。だってそうだろ? どうやら向こうは俺を知っているみたいなのだから。
「あ、はいっ! ごめんなさい! 私ったら名乗りもしないで…私の名前はニコです! 死後のアフターサービスの仕事をしています」
彼女はピシッと敬礼のように手を充ててそう宣言する。ちょっと仕草が可愛いな、なんて思ったりもしたけどそんな事は問題ではない、それより今何て言ったのだろう。
「死後のアフターサービス? 」
何だそれ、聞いた事がない。
まぁ、そりゃ死ぬ事も初めてなのだから聞いた事がなくて当然なのだけれど…死んだ人間に一体何のサービスが与えられると言うのだろうか?
「あ、あのですね! 来栖様は不幸な事に突然の事故によって亡くなられてしまったのです! 」
「ああ…うん、それはもう何か知ってる…自分の死体見えるし」
「そ、それでですね! 亡くなられた方には平等にして次の人生の選択、簡単に言うと転生…って言うんですかね? その権利が与えられているんですよ!」
ニコが興奮したように説明している。
どこぞのセールスマンみたいだな、なんて俺は話を聞きながらボンヤリと考えていた。
「そして今回、私が来栖様のその権利の担当をさせていただく事になりました!よろしくお願いします! 」
「…よろしくお願いします」
つられて挨拶したものの、正直現実について行けてない俺がいる。
全てがあまりにも突拍子ない。
夢でした、なんて言われた方がまだ現実味があるだけに頭の中は困惑していた。
「戸惑ってます…?戸惑ってますよね? そうですよね、皆さん最初はそうなんですよ」
「まぁ….そりゃ、そんなの想像上の中だけだと思ってたし」
だから権利なんて言われても正直パッとしない、というか特に生まれ変わってまで選択したい人生なんてものがないのだ。
「権利を放棄することは出来ないの? 俺、そういうの別にいいし」
「ええっ!? 困りますよ! 何かしら決めていただかないと私の仕事が終わりません! 」
「困りますよ」はこっちの台詞だ。
良心的なサービスかと思いきや、案外そうではないらしい。そもそもサービスなのだから断わる権利ぐらいあってもいいと思うのだが。
「あの…何か無いんでしょうか? この際適当でも構いませんよ! 」
「そうは言われてもな…」
催促されるがやはりパッとしたものは浮かばない。
首を傾げる俺を、ニコは焦ったように困ったように見上げている。
そんなニコを見ながら、ふと思い浮かんだ事があった。
「あ、そうだ。じゃあさ、俺にもそのアフターサービスだかの仕事やらせてよ」
「え? 」
これは我ながら良い考えだと思った。
「だからさ、君の仕事を手伝わせてよ。それが俺の次のやりたい人生」
「え、えぇーっ!!? ちょっと待って下さい! そんなの前代未聞ですよ! 」
余程想定外の話だったのか、ニコは慌てている。
「だ、だってそれでは転生って流れから外れてしまいますし、それにそんなの私の一存で決められませんし! 」
「それじゃ、誰なら決められるの? 」
困惑するニコを問い詰めると、どうやらこの世界には創造主という者がいるらしい。
俺達が普段神様と崇めていた存在は本当に居て、それがニコの上司にあたるそうだ。
「うぅ…まさか私の担当からそんな突拍子もない事を言う方が現れるなんて…」
嘆くニコの肩に手を置いて慰める。
そうは言われても仕方ない。やはり他にやりたい人生なんて見つからないし、本音を言えばちょっと気になるニコともう少し一緒に居てみたい、なんて思ってしまったのだ。
どうやら俺は一目惚れしてしまったらしい。
こうして俺は、ニコと創造主の元へ向かう事となった。