第二話 裏口
「いらっしゃいませ」
なかなか洒落た店であった。渡辺には明らかに不釣合いだ。
渡辺は少しの間、店内を見回してからカウンターに向かった。
カウンターに座った。ほかの客は近くにはいなかった。
「いらっしゃいませ。」
一人の男が来た。
少し長めの茶髪に、彫りの深い顔立ち。左手にしている金の指輪。
中村から聞いたこのバーのマスターの特徴と完全に一致した。
渡辺はカバンを脇から取り出し、あるものを探した。
渡辺が取り出したのは、名刺大の黄色い紙。それをマスターに見せる。
これは一部の人間しか知らない合図だ。バーのマスターはそれを見ると、少しニッコリして、一枚の紙切れを渡辺に渡した。
渡辺はそれを受け取り、早速、紙切れを見た。
「今からご案内しますので、下に記してある場所に来てください。
ほかのお客様に悟られぬよう、一杯以上お酒を注文し、飲んでから来るようにしてください。」
そう書かれている下に、地図らしきものが書かれてあった。どうやら店の裏に回るらしい。
渡辺は一番安い酒を飲み、店を出た。そして、地図のとおりに歩いた。
店の裏はかなり暗く、できれば近づきたくないような場所であった。
しかし、今の渡辺には目的がある。
渡辺は裏に回り、そこにあった小さなドアに手を掛けた。
中の部屋はすでに明るく、全体を見渡すことができた。
大体10畳くらいの部屋で、奥にはカウンターと二つのドアがある。ひとつのドアは黒く、もうひとつは白い。いったい何のドアなのだろう、と思っているると、白いドアが開いた。
「こんばんは・・」
ドアを開けたのはバーのマスターであった。
「あっ・・どうも・・」
渡辺はぎこちなかった。
「どうしてここを知ったのですか?お客さん初めてですよね?」
バーのマスターは突き詰めるように言った。
「そうです・・あの・・旧友の中村という男から・・」
渡辺はバーのマスターの威圧感に押され負け、たじたじになってしまった。
「そうですか。なら大丈夫です」
何が大丈夫なのか、渡辺には毛頭わからなかった。けれども、バーのマスターの顔が和んだのは確かだ。渡辺はそれを見て、少し緊張がほぐれた。
「何せこの商売はあまり世に広まったら困りますからね・・一部の人間にしか教えてないんですよ・・」
世に広まったら困る・・?渡辺は、中村もそんなことを言っていたのを思い出した。
危険な商売なのだろうか?
そうしている間に、バーのマスターは、奥へと向かっていた。
「では奥にご案内します。こちらへ・・」
「あっ、あのぅ・・」
渡辺はマスターを呼び止めた。
「何ですか?」
マスターは振り返って渡辺を見た。
「あの・・ここはいったいどんなお店なのでしょうか・・?」
「えっ・・?」
マスターはとても驚いたようだった。
「中村から聞きませんでしたか??」
「はい、あなたに聞け、と言われました。」
「なるほど・・・では説明いたしましょう。」
マスターは髪を一度掻き上げた。
「ここは他人の才能を自由に買うことができる、人能屋です」