冬は鍋パの季節
「それじゃあ、今日のライブもお疲れ様! かんぱーい!」
「かんぱーい!」
男二人女二人のバンドメンバーで、今日はライブの打ち上げを兼ねて鍋パーティーを開催してる。みんなで色んな具材と、それからお酒も持ち寄って、わちゃわちゃ楽しむって感じ。
「それにしても今回のライブも大盛況だったねぇ~」
「本当にな。ありがたい限りだよ」
「盛況なのはいいけど、テンションあがりすぎて演奏走ってたぞ。次は気を付けろよ」
「わかってるって」
「そういうアンタもMCめちゃくちゃ噛んでたけどね?」
「ぐっ……」
「でも、いっぱい噛んでたのも好評だったみたいだよぉ~?」
「嬉しくねぇ……」
そう言って頭を抱えるギターに笑いが起きる。かっこよく思われていたいみたいだけど、ファンからの評価は何故か可愛いが多い。本人は納得いってないみたいだけど、よくドジしたりするから仕方がないかなと思う。
「ギターはかっこよく見えて抜けてるって所が魅力らしいからな。そりゃ好評だろうな」
「だから嬉しくねぇって」
「いいじゃん。魅力ないって思われるよりはさ」
「それは……まぁ、そうだけどよ……」
納得しちゃうんだ、と思うけど言わないでおいた。これも優しさ優しさ。
「ん、トマトおいし~意外とお鍋に合うんだねぇ~」
「どれどれ……あ、ほんとだ。結構美味しいね」
「だろ? 外ではあまり見かけないけど、うちでは定番の具材なんだよ」
「アタシも今度から定番にしようかな」
「私も定番にしちゃお~」
「気に入りすぎじゃね……?」
「いいことだよ。じゃあ追加で切って来るか」
そう言ってキッチンへと向かうキーボード。こうして食材も用意してくれて、なんならいつも家にお邪魔させてくれて本当に優しいなと思う。本人は「無駄に広い家だから、誰か遊びに来てくれるのが一番助かる」って言ってたけど。だからって感謝の気持ちとかは忘れたくはないよね。
「そういやもうすぐ年末だな」
「今年もあっという間だったねぇ~」
「いっぱいライブもやったしね。来年もこのペースでするの?」
「どうすっかなぁ……このペースでやる方がファンも喜ぶんだろうけど……」
「トマトお待たせ。なんの話してたんだ?」
「あ、ありがとぉ~。来年はどうしよっかって話だよぉ~」
「なるほどね。確かに悩む所だね、現状維持かまた少し変えていくのか……」
四人で頭を悩ませる。どっちも悪くない選択肢だから、より悩んでしまう。ファンが喜びつつ、そして自分たちが楽しめないとって思うと中々ね。
「ん~……よし、とりあえず考えるのは来年にして! 今日はとりあえず楽しんで終わろうぜ」
「さんせぇ~」
「それって問題の後回しじゃ……?」
「まあまあ、悪いことじゃないしいいんじゃない?」
「うーん……? そうなのかなぁ……?」
いまいち納得はしきれないけど、みんながそれでいいならいいか。別に困ることがあるわけでもないし。なんて思っていたらドラムが口を開いた。
「あ、そうだぁ~せっかくだし、年越しはみんなで一緒に過ごそぉ~?」
「一緒に……?」
「うん。お泊まりとかしたりして、そのまま一緒に初詣に行ったりとかぁ~」
「いいんじゃねぇか? 結構楽しそうだし」
「たまにはそういう年があってもいいだろうしね」
「でも、その場合はどこで過ごすの?」
「今日みたいに僕の家でいいんじゃない? みんなも来慣れてるだろうし、ちゃんと寝室もあるしね」
「じゃあ決まりだな」
「えへへ、楽しみだねぇ~」
「そうだね」
そのまま、その時は何をして過ごすかとか、また鍋パしようぜだとか、それよりタコパがしたいだとかお酒が入ってるからこそぽんぽんとしたい事が出てくる。そしてみんなノリがいいから、全部にいいじゃんって言うせいで逆になにもまとまらない。ただこういう面白そうなこと言っていく時間が、本当に楽しい。
なんて、勢いで色々と話していたらいつの間にかすごく時間が経っていて、気が付いたら終電もなくなっていた。
「うおっ、もうこんな時間かよ。時間経つのはやすぎね?」
「わ、本当だねぇ~……このあたりってホテルあったっけぇ~?」
「なかった気がするかも。ちょっと歩けばあったような……」
「そんな慌てなくても、泊まっていけばいいよ」
アタシたち終電逃し組が慌てていると、キーボードがそう提案してくる。
「いやいや、いきなりはさすがに悪いだろ」
「気にしなくていいって。慌ててホテル取ったりするよりそっちの方がみんな楽でしょ?」
「そりゃ楽だけど……」
「じゃあ決まり。お風呂の準備して来るから、みんなは片付けはじめてて」
「ありがとぉ~」
キーボード、あまりにも優しい男すぎるでしょ。なんでこれでモテてないのか不思議なくらい。優しすぎて逆にいい人止まりになっちゃってるのか……? いや、知らないところでモテてる可能性もあるか……って、あんまりこういうこと考えすぎるものじゃないね。
三人で鍋パの片づけをし終えたあたりで、お風呂の準備が出来たって伝えに来たから、ドラムからアタシ、ギター、キーボードの順でお風呂に入った。お風呂からあがるころにはさすがに眠くなって来て、今日はもう寝ようかって話になった。アタシとドラムは、普段使ってない客室に案内してもらってそこで一緒に寝ることにした。男二人はキーボードの部屋で一緒に寝るらしい。
「それじゃあおやすみぃ~」
「おう、おやすみ」
「なにかあったらメッセージしてね」
「はいはい、それじゃあまた明日」
軽く会話を交わして、男女で分かれて寝る準備をする。といっても、お風呂も入ったし布団に入って寝るだけなんだけど。
「んふふ……大晦日にやるはずだったのに、なんだか先取りしちゃったねぇ~」
「そうだね。ま、でもみんなで泊まるの楽しいってわかったしいいかもね」
「そうかもぉ~こうして過ごせる仲間がいるって、やっぱりいいねぇ~」
「本当にね。ま、だからこそ長く続けられてるのかもね」
「そうじゃなかったらむか~しに解散しちゃってたかもねぇ~」
「もしそうだったら……ちょっと寂しいかもね」
「寂しいって思うこともなかったかもよぉ~? 私も今ならそう思うけどねぇ~」
「言えてる」
他愛のない話をしてると、二人揃っていつの間にか寝ていたみたいで、気がついたときには朝になっていた。朝と言うか……もうお昼って感じだけど。よく眠れたのでよしってことで。
まだ寝ているドラムを起こさないように部屋を出て、顔を洗いに行く。そうしたら先に起きてたらしいギターと鉢合わせた。意外と早起きなんだ。
「おはよ」
「ん、はよ」
短い挨拶を交わしてから顔を洗わせてもらう。察したギターが少しよけてくれて助かる。冷たい水で顔を洗うと、さすがに目もしっかり覚めてくる。そのまま顔を拭いて、軽く伸びをする。
「……なぁ、腹減らね」
「……空いたかも」
「ふたりが起きてくる前になんか頼もうぜ」
「賛成。なに頼む?」
「洋食、和食に中華……ハンバーガーありだな」
「寝起きで? まぁ、ありだけど」
「んじゃ決まり。あいつらの分も頼むとして……いつものでいいか」
「アタシもいつもので」
「オッケー」
そう返事をしながらスマホを弄ってリビングに向かうギターを尻目に、軽く髪を整える。思ったより寝ぐせはついてないみたいでよかった。
こうしてだらだら過ごして泊まって、朝ものんびり過ごせるような仲間がいるなんて最高だなって思いつつ、これからもこの四人でいられるようにバンド活動もしっかり頑張らないと。
改めて気持ちを引き締めながら、今この気持ちを歌詞にしたいかもとふと思った。なら忘れないうちに書くしかない。アタシは足早にギターがいるリビングへと向かって行った。




