第七話 光が強ければ、影もまた濃く
貴族たちへの挨拶が続き、目が回りそうだった。
コルセットは苦しいし、気分転換のつもりで口をつけたグラスは――
「……っ」
ワインだった。思わずむせる。
「グロリア、大丈夫かい?」
「はい……ええと、ワインですね、これ」
「ホーホエーベネのものだ。
中央でも名酒とされている、君の領地の誇りだよ」
少し離れた場所で、両親は貴族たちと談笑している。
誇らしげな父の背中を見て、胸が少し重くなった。
(……背負ってるんだな)
「ハインツ、グロリア嬢。おめでとう」
「叔父上、ありがとうございます」
「……ありがとうございます、ゲバルト卿」
礼をする。
やはり、この人は苦手だ。
ハインリヒ様の目が「相手を見る」ためのものなら、
ゲバルト卿の目は――もっと深いところを量っている。
「近々、海から新しい機械が入る。
二人で見に来るといい」
「それは是非!」
ハインリヒ様が素直に声を弾ませる。
新しいものが好きなのかな?。
「ではな。今は楽しめ。
――直に、忙しくなる」
含みのある言葉。
胸の奥が、わずかに冷えた。
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「噂で聞きましたが……グロリア嬢。
不思議な技をお持ちだとか」
貴族の一人が声を上げる。
「……どこで聞いた?」
ハインリヒ様が即座に反応する。
「どこだったか……確か、グロリア嬢、そちらの従者だったような……この場でも映える技だと聞きましたが?」
少し躊躇ったが、周囲の期待に押される。
「ご無礼でなければ……」
歓声が上がる。
ハインリヒ様がコインを差し出してくれた。
「……頼む」
いつもの手品。
歓声。拍手。驚きの声。
胸の奥が、熱くなる。
(……受け入れられてる)
誇らしかった。
心から。
「後ろから見せてもらったよ」
「……全部、見えていましたよね?」
「ああ。それでも言う。見事だった」
その言葉が、何より嬉しかった。
(――影が、増えていることにも気づかずに)
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宴が終わり、夜風が肌に冷たい。
「今日の君は素晴らしかった。だが……」
ハインリヒ様の声は、柔らかくも厳しい。
「光が強ければ、影も濃くなる」
その目は、真っ直ぐ私を見ていた。
「羨望が嫌疑に、敬意が疑惑にすぐに入れ替わる。それが貴族だ。」
浮かれていた心に、水を差された気がした。
「……ごめんなさい」
「責めてはいない。私は、君の味方だ。実際、立ち振る舞いは素晴らしかった」
その言葉に、胸が締め付けられる。
「大丈夫。私がいる」
――そのはずなのに。
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翌朝。
帰り支度の最中、屋敷の空気がどこか張り詰めていた。
外へ出た瞬間――
「痛っ……!」
腕を取られ、捻り上げられる。
「グロリア!何をしている!」
「ダンカン卿。
グロリア嬢に、盗難の嫌疑がかかっています。盗まれたのは、王家の象徴の証したるメダルです。」
「何だと……!」
「ゲバルト卿の申し出です。
現在、ギュスターヴ閣下と共に捜索の指揮を」
頭が真っ白になる。
「待って!ハインリヒ様は!?」
「閣下は現在、公爵のもとに」
――来ない。
胸が、冷え切った。
(……どうなるの……?)
闇が、音もなく迫っていた。




